ep18:布告文の作成
────コンコン、
ノックの音が執務室に転がる。
心なしか軽やかな音色に、ドアを叩いた者の機嫌の良さが伺えた。
「は~い」
間延びした声に威厳も何もないけれど、これが私なのだから仕方があるまい。
「ダリオン様、宣言書の文書を作成いたしました。
問題なければ文書を各種族にお届けいたしますので、ご確認ください」
「はい、ありがとう」
いつもどこか不機嫌そうに眉根を寄せているバアルが、にっこにこの笑顔で執務室に入ってきた。
一瞬本当にバアルなのかを疑ってしまうほどに。
とりあえず私は受け取った文書に視線を落とし、綺麗に並ぶ文字をなぞった。
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布告
魔王ダリオン・ラスの名のもとに告げる。
現在、各領地において続く無秩序な分断と争い、獣の狂暴化等により、魔王領全体の安定を著しく損なっている。
よって我らは領地統合に向けた新たな統治体制を整備する。
各種族、各集落、各領地の代表者は、明夕までに魔王城へ出頭せよ。
正当な理由なく召集を拒否した者、あるいは使者を送らなかった者は、魔王への反意を有するものと見なす。
また、召集期間中の私闘、略奪、越境行為を禁ずる。
違反者には相応の処罰を与える。
なお、統合後の統治体制および各領地の権限については、会議の場にて魔王自らが示される。
諸君らに求めるものは忠誠のみである。
魔王の導きに従い、その未来を共に見届けよ。
魔王直属執政官
バアル
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……おっと、そうきたか。
おいおい、これじゃあ私がとんでもない恐怖政治を敷いているようじゃないか。
「バアルさんや」
「は、なんでしょうか」
あーあ。バアルの後ろに大型犬の耳と尻尾が見えますわ。
ブンッブンに振ってるやないですか。
さて、どこからつっこむかな。
元人間とは言え、ワタクシ、花の女子高生。
正式な文書とか書いたことないし、定型文も何も知らない。
これが正しいのかわからないけれど、とりあえず「出頭」って言い方変えない?
こちらと致しましては、警察に出向く印象でしかない。
あと来なかったら反意って何?
別に来なかったら来なかったでお願いしに行くよ、そのくらいしますよ……。
私闘や略奪云々のところは、まぁまだ良いとしてさ。
そもそも、明夕って早ない???
「ルシファー、ここから一番遠いところに住んでいる種族は?」
「そうですね、直線距離ですと豚人族かと」
「その人に文書が届いてここにくるまで最短でどのくらい?」
「通常速度であれば三日はかかるでしょうが……。
ダリオン様の招集に間に合わないようでしたら粛清対象ですね」
にっこり。そんな天使の微笑みを向けんといてくれ。
「粛清なんかしなくて良いの。
バアル、ちょっと修正しようか」
「……はい……」
目に見えてしょんぼりするバアルに胸が痛い。
でもしょうがないじゃない。
もしこの文書が送られてくるのが私なら、いきなり国から「出頭せよ」でしょ?
震えあがって泣いちゃうよ。
「とりあえずこことここ。
あと、招集日は────……」
気になる部分だけに印をつけ、バアルにその場で修正させる。
修正していく箇所を見ながらルシファーが、「そこも……?それもですか?」と困惑していたけれど、知らんぷりした。だってルシファーもバアル派だって知ってるんだから。
いっそモルガントにお願いすればよかった、と今更人選ミスを悔やむ。
「────……できました。
いかがでしょうか!」
今度こそ、と嬉しそうに笑みを向けるバアル。
なんか可愛らしいな、こいつめ。
私はバアルから文書を受け取り、目を通した。
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布告
魔王ダリオン・ラスの名のもとに告げる。
現在、各領地において続く無秩序な分断と争い、獣の狂暴化等により、魔王領全体の安定が損なわれている。
これらの問題を解決し、より良い未来を築くため、領地統合を含む今後の方針について協議の場を設けることとした。
各種族、各集落、各領地の代表者は、三日後の夕刻までに魔王城へ参集されたし。
会議では、統治体制や各領地の権限のみならず、現在抱えている問題や懸念についても意見を聞きたいと考えている。
なお、やむを得ない事情により参集が困難な場合は、代理人の出席、あるいは使者を通じてその旨を伝えられたい。
また、会議期間中の私闘、略奪、越境行為を禁ずる。
諸君らの知恵と協力を借りながら、魔王領の未来について共に考えたい。
魔王 ダリオン・ラス
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「……うん、良いんじゃないかな」
「ありがとうございます!」
特別威圧感もないし、丁寧な文章は見ていて気持ちが良い。
もしかしたら“魔王”としてはなめられてしまうかもしれないけれど、こればかりは実際に会って最大限威厳ある姿を見せたい。
それについては、超速再生で体を直しておいてよかった、と心から思う。
ゾンビからの招集じゃあ、見ても勝てそうって思われちゃうもんね。
「この文書を各種族分作成し、早速渡してくれる?」
「承知いたしました」
バアルは添削の終わった文書を片手に、嬉しそうに執務室から出ていく。
「本当に、あの、本当によろしかったのですか、あの文章で……」
「ルシファー心配しすぎ。私がいいって言ってるんだからいいの」
こんなにも「おろおろ」の擬音が似合う人、初めて見た。
眉尻が下がり、口角までも下がっている。
「さあ、忙しくなるよ。城の中に会議室にぴったりの部屋ある?
今後も来訪があるなら、城もボロボロのままじゃダメだもんね」
「では修繕箇所の見積もりをいたします」
「うん、よろしく。ルシファーだけで見回るの大変なら、レイヴンみたいに魔物の配下増やす?」
私からの提案に、ルシファーは一瞬思案するような姿を見せる。
「そうですね、私と致しましてはダリオン様のお傍を離れたくありませんし、私自身の雑事を任せられるような部下は居たほうが良いですね……」
私の周りも割と雑事が多いんだけどな。
まあ、秘書という肩書を与えたときに嬉しそうだったし、それがルシファーにとって良いことなら……。
「私も周りの雑事任せられる人増やそ────」
「それは!!!!絶対に!!!私が!!!!」
「うぉっほい、はい、承知いたした……」
バンッ、と荒々しく机を叩き懇願するルシファーに気圧され、つい頷いてしまった。
しかし、レイヴンには忘れてはならぬ「ノエル見守り隊」と怠惰の谷の調査を兼任させていてすでに忙しそうだし、モルガントには熊の研究、観察をしてもらっている。ルシファーはこれから自分の配下となる魔物を見繕うとなると修繕箇所がなぁ……。
(魔王は考えることがいっぱいだな)
ふう、と一息ついて、気づかれないように横目でルシファーを見遣る。
(────主に、部下の扱いについて)




