9.マナウス街道
ガリエル軍は、騎馬兵を攻撃の要とする。
武装は遠距離攻撃用の弓と近接戦用の伝統の武器シミター。ガリエル軍はこの「神速の騎馬軍」で「世界」を斬り取った。
戦術は、奇襲を旨とする。圧倒的な兵力でひとつの村を落とし、従卒が追いつくのを待つ間、村を蹂躙し尽くす。
従卒隊が来たら、青年に村中の食料を運ばせ、少年の内健康で体が強そうな者を将来の従卒に育てるために従卒隊に預ける。少年たちはその場から背嚢を背負わされて隊の真ん中を追われて走ることになる。
蹂躙された村から戦力と食料を総ざらいにして次の村へ進む。
最終目標地点が目視できる場所に陣を張り、すべての兵種が揃うのを待ってから攻略にかかる。
ホーシュビー領ホッジス城は、海に面した小高い丘にある。これを下から攻略するには人数が少ないのではないか。しかも、マナウス砦だけでなく、サリア城、ケッパー砦から援軍が出て挟み撃ちになる可能性は高い。
ウイレムとエイプリルは、この軍は陽動を兼ねた一手だろうと考えている。
皇国は移民を阻止したい。ホーシュビー湾を占拠してルートを塞ぎ、そこで船を水夫込みで接取して、海路を塞ごうとするだろう。
カエリステスにも航路にも手を出せないのだから、ホーシュビーを取ろうとするのは当然だ。
しかし、ふたりはこれで満足はしなかった。皇国は、最終的にはフィエール領を占拠したいだろう。人口が減り、生産性が衰えた分を、肥沃なフィエール領で補おうとするだろう。もともと皇国領からからの移民が多い土地柄だ。ただ自国の国民を取り戻すだけだ、と。
ガリエルが双子の火山の間を通る山越えでホーシュビーに侵攻することはまず間違いないと誰もが考えた。だから、マナウスからホーシュビーまでの街道沿いから食料と人を消し去ることにした。
街道から見える村々については、近場の山間に避難用の山小屋を作り、切り倒した木々の根を掘り起こした跡地にブドウ、サクランボ、ブルーベリーなど四季折々に収穫できる果樹類を植え、果実を生産できるようにした。
本来は避難小屋であるものを、村人たちが第二の住居に変えるまでには10年以上の余裕があった。いまでは、避難命令が出てもしばらく別荘暮らしを楽しみに行く程度の気軽さだ。
マナウス街道沿いの村落すべてに避難場所を作り、侵攻が始まったら物見と連絡の諜報員に従うように指示が出ている。
そして、これがエルとエイプリルの細かいところなのだが、村の倉庫には、ある程度の小麦と塩の袋を積み上げて残しておいた。
村人たちの住居には、人がいない、食料もない。きれいに片づけられていて、突然消えたかのようだ。村を囲む柵に取り付けられた門に、動物が入らないように横木が渡されているだけ。
ガリエル軍はキツネにつままれたようになりながらも、小麦と塩を確保してホーシュビーへ前進した。
3か所目の小さな村で、村人がいたずら心で門に掛けて置いた「海神祭りへようこそ」という、去年ホーシュビーで配られた記念のタスキが微妙な効果をもたらした。
この街道沿いの村人たちは、総出で祭りに出ているのではないか、食料も荷車もなく、耕作用の馬もいないのは、生産物を祭りで売るために引いて行っているのではないか、と言う者が出た。
不安を感じ始めていた軍に一時の心の安定を提供し、総指揮官は前進を選んでしまった。




