8.マナウス砦 3
駆け戻ってきた小隊長の報告を受けて、指揮官は救助の派遣は明早朝と決めた。
救助も必要だが、土石流で通れなくなった山道を復旧して輜重隊を通さなくてはならない。工兵の代わりに従卒と見習いに作業させるほかなかった。
重症者の数を10名と聞き、帰還した小隊長と隊員に3名の衛生兵と、水と食料を搬送する10名の従卒見習いをつけて送り出した。
この15名は、待ち受けていたジュニアのチームに全員昏倒させられた。
翌早朝、指揮官は隊のほとんどを残して副官に指揮権を分与し、この場で幕営を続けられるよう陣を整えるための指示を出した。
出るのは、指揮官が率いる騎兵50、従卒と見習いで300。狭い山道で大人数は働けない。交代で作業するしかない。
騎兵の先頭が崩壊箇所に着いた時、再びエクスプロージョンが轟いた。馬が轟音と大地の揺れに驚いて棹立ちになり、乗り手を振り落とした。老練の指揮官を含む350の兵は、細い山道の前と後ろを土石流で塞がれ、けが人を大量に抱えたまま動きが取れなくなった。
2度目の轟音を聞いて、副官はとてつもなく動揺した。
彼には実戦経験があまりなく、いままではせいぜい小規模の反乱の鎮圧に参加した程度で、これほどの遠征は初めてだった。
名家のプライドのすべてを体の隅々から引っ張り出すようにして必死で動揺を押し殺し、1小隊に指示して物見をさせようとしたが、すぐに側近から助言されて、敏捷に動ける従卒を指名して3名を出した。
攻撃は、複数の場所で一度に起こった。
辛抱強く隠れ続けていたエルの配下が副官に遠矢を射掛け、兜を着けていなかった頭部を掠った。射てすぐに退避。
もう少し近いところの木の上から、さらに1射。鎧の上、ちょうど心臓部に当たって、カーン、と音をたてた。すぐさま垂らしたロープを使って木から半分飛び降り、ふたつの魔晶石に込めた視線遮断を発動、全身を隠蔽して退避。
背後を振り返った3名の従卒は、気がそれた隙に昏倒させられた。
陣内に矢を射込まれたショックで指揮官周辺の動きが一瞬止まる。
駐屯地の最奥、小さな丘とまばらに立つ幕屋の間で、替え馬が暴れだした。天敵であるオオカミのフンが投げ込まれたのだ。
暴れる馬体がぶつかって杭にロープを張った仮柵が倒れ、200頭もの馬が雪崩を打って野営地の中を逃げ惑い、半分以上が外へ走り出てしまった。
大混乱に陥った後衛隊が、山道を塞がれた指揮官を救い出すことができたのは次の日の午後だった。
侵攻に対応するマナウス砦の基本的なコンセプトは、分散させる、と、馬を捕獲する、だ。
1000の騎兵にまとまって攻撃されるのは好ましくない。だから、指揮官が隊を分けるしかない状況にする。騎兵といえども、少数なら大した脅威にはならない。また、ガリエルの強みは鍛えられた騎馬兵なのだから、できるだけ馬を奪うことにした。馬は乗り続けられるわけではなく、戦える時間も限られているから、常に替え馬が準備されている。
血の気の多い若い兵を刺激して陣から引っ張り出して各個撃破。
鏑矢を射かけて馬を驚かせ、隊全体を落ち着かない雰囲気にさせる。
夜明ごろには仮柵を切り馬を逃がして捕え、マナウス砦に回収してしまう。
後衛隊には、すぐに輜重隊が追いつく予定だったから手持ちの糧食が少なく、輜重隊を通すためにも通路を復旧するしかない。専門家集団である工兵隊は全滅、騎兵が守りながら従卒と見習いが土木工事をする。
少数で山道の安全を確保している騎兵を狙って、矢を射るか睡眠の魔法を打ち込み、馬から引きずり落して放置しておく。馬は回収する。
けが人を増やせば、戦力は減るものの、糧食の減るスピードは衰えない。
地道な攻撃を続け、本隊への連絡兵、本隊からの斥候は見逃さないで倒す。
目的は、本隊と合流させないで、孤立させておくことだ。マナウスで後衛隊を引き付けておく時間が長いほど、本隊のホーシュビーへの攻撃は鈍く、遅くなる。




