5.ベニステラ公国からの出征
「フィリップス、そろそろ出るか」
「はい、まいります。距離がありますゆえ」
「そうか、十分に気をつけていくがよい」
「アウラステラが一緒です。決して無理は致しませぬ」
「まだ10であろうに」
「わたくしに流れるマリステラ王妃の血と、ベニステラ公家に流れるルースカリエ皇帝家の血の、ハイブリッドでございます。わたくしより強いのではないでしょうか」
「ハイブリッドのお、面白いことを言うの。確かに姫は只者ではないが。
強くとも、姫は姫、優しく庇うのも父の仕事ぞ、の、卿よ」
「はい、十分に気をつけます」
ベニステラ公国から、フィリップスが兵団を率いて遠征に出るときが来た。
兵士の数は少なく、フィリップスも兵を率いたことはなかった。フィエールから老練の騎士が派遣されて、立案から相談役を務め、練兵を助けた。
ベニステラが頼るのは、兵力というよりも、魔法使いだ。
フィリップスとサピエステラの最初の子、公姫アウラステラは、エクスプロージョンとディフェンスという、大規模魔法2種の使い手だった。
生まれた時から魔力の所持量が大きく、危険を感じたベニステラ公はウイレムに教育と訓練を依頼した。大きすぎる魔力は、命を削る。
姫の能力は非常に高く、ウイレムはまずディフェンスの下位魔法、プロテクションを教えて連発させることで魔力を使うことを教えた。伝授を早めに終え、魔晶石にディフェンスを込めることで魔力暴発を防ぐことができるようになった。
エクスプロージョンは、ローズが伝授した。ウイレムにとっても、ローズにとっても非常に優秀な弟子だった。
アウラステラの魔力量と継承に問題はなかったが、まだ年若く、繊細な操作ができなかった。
護衛の姫騎士と侍女には全員魔力の高い上位貴族の姫が選ばれ、アウラステラひとりではできないコントロールを助けた。
攻防両面を扱えるアウラステラと、そのコントロールを助ける姫騎士と侍女たちは、遠征軍にこれ以上求めることはできないほどの美しい花々だった。
他にも姫を慕う魔法使いたちが志願し、20名にもなった。
目指すは、城塞都市ミッテル。皇国の南東、フィエール領との境界にそびえる双子の休火山に近いところにある。アルジェンタム河を下り、オームル河との合流点である浅く広い湖を渡り、船を山裾に着ける。そこから、南の山脈に入り、山道を辿ってミッテルの近くまで行って待機する。
双子の火山から爆砕音が響いたら、城塞を占領する。
プランは簡単だが、実行には体力と忍耐力、さらに必ずやり遂げるという強い決意が不可欠だ。
わずか10歳のアウラステラ姫と護衛の姫騎士たちが先頭を行くのだ。弱音を吐く魔法使いはいないだろう。まして、兵士ともなれば、歓喜とともに出発し、信念とともに前進するに違いなかった。




