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第4話 戦姫と王子  1.滝の城

エイプリルのお話は、第4話、全体の結びの部分に入りますが、これは本来の構成の中にはなかったもので、フィリップス王子の名誉回復のために作ったお話です。この話は「婚約破棄物」であるはずの物語に、非常に不自然に継がれています。作者倉名の趣味が爆裂したためです。


戦姫と言いながら、戦わせることができなくて、倉名はイライラしていました。第2話、上道をリバーアン砦に向かうところで、小戦闘を書きましたが、やむなく削除。王子の婚約者が剣を振り回すところを書いたら、婚約破棄をする王子の方に同情票が入るかもしれない、と、自重したわけです。世間知らずの王子サマ対敵国のスパイを探り当てて叩き潰す姫という構図を出したら、王子サマが気の毒になるのは当たり前ですよね~。対比の都合上、どうしてもエイプリルの戦闘シーンは入れられない、という事情がありまして。

というわけで、第4話では書きたい欲求を開放して、戦闘シーンの連続です。若年の読者もおいでになることを真剣に受け止め、できるだけ柔らかな表現を選び、民間人が戦闘に巻き込まれないように注意深く構成しましたが、兵士が100人単位で戦死します。

戦場に忌避感をお持ちの方は、ざまぁまでで退避なさってください。


 

 新しい地図です

挿絵(By みてみん)


                  illustrated by Violet Y


この地図は、大切な第一読者、Violetが描いてくれたものです。

倉名が描いた平面地図(第2話冒頭)を、ファンタジーにふさわしいイラストに描きなおしてくださいました。Violet、本当にありがとう。


******




 フィリップスは馬蹄湾から3本マストの帆船に乗っていた。大陸の東、ベニステラ公国に向かっている。

 筆頭侍従としてマール公爵公子フレデリック、侍従3、警護の騎士6、従卒6を伴っている。


 ベニステラ公国は、旧ルースカリエ帝国の皇太子領だった。

 皇太子領は、本来滝の城と滝の背後を抜ける美しいトンネルのみだった。しかし、帝国が実質的に滅亡して後、アルジェンタムの西側を治める貴族にとってはベニステラ公王が仕えるべき王であり、公王もギボンの名を継いでいるから、西側全域がベニステラ公国と言っていい。

 皇太子領はもともと帝都への上水供給という重大な責務のために設けられた飛び地であった。その責務は今も続いている。ガリエルのためではなく、皇都に残った旧帝国民のため、そして帝都を取り戻すのだという公国の存在意義のために他ならない。


 アルジェンタム河は、ガリエルの故郷の高地から延々と続く山脈の水を集め、幅100mにも及ぼうとする壮大な滝となって大渓谷に落ちている。

 水道橋は、滝の高いところから取水して、地形をものともせずおよそ80キロを直線で飲料水を運ぶ。落差を利用して水を流しているから高さがあるが、幅も10m近い。

 橋脚は現在では再現不可能な大規模魔法で地面から立ち上げられた一枚岩が凄まじい容量で立方体にそびえたもので、橋脚間は花崗岩で繋がれ、石の蓋で覆われている。

 この大水道橋は、1000年にわたって保存魔法で固く守られている。


 滝の高さのちょうど半ばにある巨大な岩棚に、滝の城と呼ばれる美しい城がある。

 城には、ベニステラ公王家族が住む。フィリップス一行が目指しているのはこの滝の城だ。


 馬蹄湾を南にくだり、岬を回り込む。そこから陸を見ながら北寄りの西に進むが、景色は見渡す限りの森林だ。その向こうに遠く南の山脈が続くのが見える。

 航海の途中に、森林を切り開いた停泊地があり、そこで風待ちをすることもある。そこからは、アルジェンタム河からの水で沖に流されることを計算し、風に助けられながら陸から大きく離れないように回り込んで、北へあがる。


 帆船は、城塞都市カエリステスに着いた。

 カエリステスは、アルジェンタム河から引いた水路を中心として、旧帝国の上位貴族の内でも、特に魔力の高い貴族家が協力して建造された。

 カエリステスの名は、ギボン4世の最初の皇妃に因んだものだ。最初のお産で子とともに死亡してしまったが、銀の髪と紫の瞳の美しい人というだけでなく、膨大な魔力の制御に苦しんだ人でもあった。

 皇帝の愛と、魔力制御の苦しみを知る貴族たちの敬意を集めていたカエリステスは、神格化されてこの都市の守護女神として崇められている。


 カエリステスから小型の馬で運河沿いの緩やかな坂を登れば、滝の城へと続く道の入り口にたどり着く。そこで馬を降り、滝裏のトンネルを登る。

 トンネルは、もともとあったいくつかの鍾乳洞を繋いで造られた。

 道は歩きやすく整えられていて、足元と天井部分に柔らかい色の照明の魔晶具がはめ込まれている。鍾乳洞はとても美しい。石筍せきじゅん氷柱石つららいしが照明具の光を柔らかく反射して神秘的な風景を作りあげている。氷柱石からぽとりぽとりと落ちる水が、きらめきながら真下の石筍を濡らす。

 フィリップスの一行は、美しいトンネルに心を奪われながら滝の城への道を辿った。



 滝の城は、それまでの長い旅路を忘れさせる美しさだった。滝のなかばに張り出す巨大な岩棚を巧みに使って、帝国の美の粋を極めた華麗な城が建っていた。

 低く建てられた居住部分は、岩棚の形に沿うよう曲線を多用して横に長い。白く細い塔がリズムのある間隔をとりながらさまざまな高さで立っている。建物から立ちあがっている塔もあれば、独立して建てられている塔もあるが、どれも上部は金の装飾で飾られ、下部はなだらかな曲線で裾広がり。水が上から注がれるさまをデザインしている。

 各塔の最上部からは結界魔法が張り巡らされ、大量の水が落ちる轟音も舞い飛ぶ水滴も届かない。

 庭園部分では、白い鳥籠のような形をした石造りの東屋に座って目の下の景色を楽しむこともできるし、岩棚に浅く掘られた疎水沿いを、魚を探しながらゆっくり歩くこともできる。

 背の低い植物が岩棚を這い、疎水に突き出た岩は苔に覆われていた。


 フィリップスはこの城に1棟を与えられ、まずベニステラ公王と面会するところからゆっくりと仕事を始めた。


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