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インターミッション

ケィティネット侯爵令嬢

フローラは、予定通りにキューガン家トニオの妻になった。婚姻の式には、エイプリルの代理としてカンデラ公爵夫人が出席し、エイプリルが約束した、斬新でありながら柔らかなイメージを花嫁に添える、バラとジャスミンのブーケがフローラを飾った。カンデラ公からは、第3王子妃の侍女としてではなく、カンデラ公夫人ローズの侍女として出仕するように求められ、キューガン家とも相談の上、トニオとフローラはその道を選ぶことにした。

結婚後の名は、フローラ・ケィティネット・ラ・キューガン。娘、娘、息子と、3人の子を得る。娘の一人は、エイプリルに師事して、戦姫の道を歩む。


マリニアム侯爵令嬢

アレクサンドラの婚約は解消されるはずだったが、結局ジョージ殿下の側近を務めるライフェルド侯爵家の第2子、オーギュストの兄ウォルターとの婚姻を受け入れた。

ウォルターの妻は、最初の出産のとき母子ともに死亡していた。アレクサンドラは相当考えたのだが、結局マリニアム侯爵家としてはライフェルド侯爵家との婚姻ということで変更はないことになり、アレクサンドラ的に言うならば、面倒がない解決法だった。

結婚後の名は、アレクサンドラ・マリニアム・ラ・ライフェルド。宮廷侍女として高い評価を受け、ジョージ殿下の最初の子がグリエランド公王として母の故郷に帰るとき、筆頭侍女として従った。グリエランドでは宮廷の礼法を磨き上げ、グリエランドとコンスタンティン伯爵家の友好を裏から支える後半生を送った。


カッサンドラ公爵令嬢

ミリアムの人生がもっと多難なものになった。

ミリアムは、フレデリックを見放すことができず、待って、待って、待ち続ける長い月日を過ごすことになった。もっとも、人の目にそう見えたとしても、ミリアム自身は結構楽しんでいたのだった。

彼女はラフィエール城に長く住み、親友となったエイプリルのもとで、フレデリックとフィリップスの悪口をスパイスに筆頭侍女としての生活を送った。王都貴族である公爵令嬢の教養と礼法は、今や侯爵家となった元辺境伯爵家の格を上げるために随分役立ったのだが、フィエール家のペイジや小間使いにとっては恐怖の対象以外の何物でもなかった。

結婚後の名は、ミリアム・カッサンドラ・ラ・マール。娘フレデリカは、確かな血筋を辺境で開花させ、エイプリルの後嗣となってエイプリルの息子、エルの妹の娘などを部下として、姫隊を組織する。


ライフェルド侯爵家令息オーギュスト

オーギュストは、半年ほど侯爵邸で軟禁されて後、コンスタンティン伯爵家預かりとなり、王国の東、コンスタンティン城で図書の整理から修業を積みなおすことになった。

王都貴族の軽薄な三男坊だった男は、ただ黙々と図書目録を作り続け、組み合わせた魔法を駆使して修理が必要な本を再生し、時間を見つけて読み漁った。

図書が片付いたら次は古い書類の整理に取り掛かった。140年分の書類を整理・修復し終わる頃には、王国東部事情の歴史的経緯のうち、少なくとも書類が残っている事項については伯爵家の当主の質問に答えられるだけの知識を持つに至った。

コンスタンティン伯爵家の中姫に見初められ、希われて婚姻を結んだ。王都に帰ることはなく、王国の東で領の統治を支える人生を送った。かつての婚約者、結果としては兄嫁となったフローラがグリエランド公国の宮廷を支えるようになってからは、両国の架け橋の一部ともなった。


マール公爵家令息フレデリック

フレデリックは、ミリアムとカッサンドラ公爵に謝り続け、許しを請い続けたが、なかなか許しは得られなかった。

結局、王都を出るフィリップスに侍従としてついて行くことに決めて別れを告げた時、遂にミリアムの心を得た。

地味ではあるものの正式な婚姻の式を挙げ、長い別居生活を送り、再び会えた時には頬に流れる涙に気付くこともなく、ただ妻の顔を見つめ続けることになった。


第三王子フィリップス

フィリップスには何も残されていなかった。

家族に合わせる顔はない。

婚約者だった姫は王都から逃げた。

夫婦になりたかった姫は罪人となった。自分をたぶらかした罪で。

乳母だった侯爵夫人も罪人となった。かわいがってくれたのは、自分を利用して娘を通じて王家と縁を結ぶためだったのか。

側近候補のひとりは邸に軟禁されていて、処分を待っている。

もうひとりは絶望を漂わせながら、婚約者とその父に許しを乞い続けている。


朝になったら、起き上がって着替え、侍従が運んでくれる食事をとって、執務室に行く。資料の読み込みを続けて、夕方に私室に帰り、夕食をとって着替えて横になる。眠っているかどうか自分ではよくわからないまま、再び朝を迎える。

人と話すことはなく、ただ資料を読むばかりだったが、読んだ書類は夜の間に棚に片付けられ、朝には次に読むべきものが机に積まれていた。棚に積みあがる既読の文書だけが日が過ぎていく印だった。



フィリップスの決意

フィリップスは軟弱で軽薄な王子だった。それを許してくれた人は誰もいなくなった。

ギリギリに追い詰められ、ここからの一発逆転はあり得ないことに気付いた。自分は王族のひとりだが、それは要するに職業であることも納得した。

畑を耕すことも、リンゴを実らせることも自分にはできない。今から学ぶことも教えてくれる人の邪魔になるだけだ。生まれた場所と、そこでの経験を変えることはできない。

では、この、王族としての経験を、王族として使うことができる道は残されているか。


深く沈んだ心の隅から、ようやく磨かれていない石を拾い上げたのは、オーギュストが東に送られるのを遠くから見送った後のことだった。


カンデラ公に面会を求め、心に浮かんだ考えを訥々と述べた。公も人が変わったように静かに話す甥に耳を傾け、その案を一時預かりとした。

半年ほどして、フィリップスは王の執務室に呼び出され、自分が訴えた身の振り方が認められて、各方面への連絡が終わり、手配が整ったことを知らされた。

マール公子フレデリックが入室、久しぶりに会った友が侍従としてついて行くことを知らされた。



西への旅

フレデリックはミリアムに最後の面会を求めて、フィリップスに従って西へ旅することを告げた。

西には、140年前帝国が侵攻を受けた時に領を護った当時の皇太子とその第二妃が開いた国がある。フィリップスはその国に駐在大使として行くことになったのだ。

ミリアムは、ある意味この展開を待っていた。

こういうことになる可能性については、エイプリルからの手紙の「最も望ましいが、可能性としては限りなく低い」項目に書かれていた。


「わかりましたわ。出発なさる前に婚姻の式を行いましょう」

「え?」

「本来の日程より遅くなりましたし、急なことで準備時間もありませんので盛大なお披露目はできませんが」

「え?ミリアム?」

「お帰りを待っていては、オールドメイドと呼ばれてしまいます。そのようなことはわたくしには相応しくありませんわ」


ミリアムらしいと言えばらしかったが、アレクサンドラとフローラには爆笑され、マリエには泣き笑いされた。そして、とっくに結婚していた3人から祝福を受けて、少し泣いたことは秘密にしておこう。

エイプリルは間に合わなかったが、カンデラ公夫妻とマクニール子爵夫妻、ライフェルド夫妻、キューガン夫妻の臨席を得て、信頼を失っているフレデリックにとっては、望外に格式の高い婚姻式が執り行われた。

ミリアムにはカッサンドラ家から化粧料として年金が、マール家からはフレデリックが帰還するまでの間のすべての支出を負担する契約書が準備されていた。



フィエール侯爵領の南の端はホーシュビー領だ。フィエール侯爵の実弟、イベリス・ル・フィエールが預かっている。名誉爵位は、ホッジス男爵。この爵位は、ベニステラ公国との折衝のために必要とされた。

ホーシュビー領の領都は、海から大きく馬蹄形に刳りこんだ湾の頂点に当たるところにある。前は湾で、小高い場所にホッジス城、地形を利用して城壁が築かれている。


この領は、もう長い間ベニステラ公国と海を介して連絡を取り合い、公国からの移民を受け入れてきた。

移民は旧ルースカリエ帝国の民とその子孫で、ベニステラ公国へと居住地から逃亡してきた。

ガリエル皇国に臣従することを拒否した者もそれほど素早く逃亡できたわけではなかった。140年に渡ってゆっくりと移動と逃亡を続け、最終的にベニステラ公国に、そこから迎えの船でドナティエール王国へと移民は途絶えることがなかった。

船でホーシュビー領まで来て居留地に滞在、しばらく領にとどまってから、安定を求める者はフィエール領内に移動し、開拓精神旺盛な者は東の地、グリエランドのさらに東へと 開拓に向かった。


その日、3本マストの帆船が、今にもベニステラ公国に向かって出帆しようとしていた。積荷は麦、柑橘、オリーブオイル、ワイン。帰国便には移民と魔晶石が載せられてくるだろう。

甲板から、フィリップスが城壁と城を見ていた。フレデリックは少し後ろに立っている。

「わたしは本当に何も知らなかったのだね」

「それはわたしもです」

「王都と王都貴族がわたしの人生のすべてだった。でも、フィエールは戦力というだけでなく、こうして分かたれた公国とすら交流して、真剣に帝国の再建に努めていたのだな」

「はい。わたしたちは、もっと真剣に資料を読むべきだったのです」

「そうだ、今更だがね」

「アリエスにいいように仕込まれる前に学ばなくてはならなかったのです」

「そうだ。誰もが見守っていたのだ。恥じるしかない」


「殿下、教育係や学園は、なぜこのことを学生であった私たちに教えなかったのでしょうか。わたしは今も考えます。もし、ベニステラ公国のことを教えられていたら、もう少し違った考え方ができたのではないのでしょうか」

「フレデリック。

おまえ、それは教えてもらう内容ではないと思わないか?」

「どういうことでしょう」

「わたしたちは西の守りの担当だったのに、このことを教えられず、自ら知りたがるのを待たれていた。それでは、東はどうだ?東にも東だけの特別な役目や事情があるのではないか。

王家にも始祖の事情があった。カンディステラ姫のことはもう聞いたね。カンデラ公も、自分で気づいて探したと言っておられた。答えは、探せば見つかるところに準備されているんだよ。

その役目に就く者だけが知ればいいのだ。学生なんかに講義で教える内容じゃないだろう?」

「そうかもしれません。確かにそうですね。

学園には、アリエスのような者もおります。簡単に教えてやることになりますね」


「わたしは、役目に就いたら東を任されることを知らされていた。

やるべきだったことは、できるだけ頻繁にフィエールの姫と手紙をやりとりして、東の守りについて知ろうとすることだったのだ。

姫が王都に来たら、親しく語り合ってもっと教えてもらい、学園が休みの期間にでもフィエールを訪れたらよかったのだ。そうすれば、わかることがたくさんあったはずだった。

それなのにわたしは、せっかく与えられた資料にすら飽きて乳母のサロンでお茶を飲んでいたのだ」




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 文中二個所、「東」より「西」を使った方が、「7.王から王子へ」の説教場面と整合性取れる気がします。 わたしは、役目に就いたら東を任されることを知らされていた。 中略 東の守りについて…
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