11.兆し
学棟からドロップスのような色合いの衣服に身を包んだ女性たちが出てきた。午後の講義が終わって、上位貴族と侍女たちが寮棟へ帰るところだ。
その中にその日は水色のスカートを纏ったエイプリルと、紺色を選んだマリエもいる。ふたりは何かを話しながら、ゆっくり歩いている。すぐ後ろには規則に従って水色のワンピースとエイプリルの花紋であるエーデルワイスを刺繍した被り物をつけたエルと、紺のワンピースのソリーが付き添っている。
エイプリルの目が、ふと左手に向いた。10mほど向こうに、レモンイエローのワンピースの女性が、黒の上下を身に着けた男性を呼び止めようとしている。
エイプリルが立ち止まったため、周りにいた学生や侍従たちの集団の動きが止まった。エルが気付いてエイプリルの背をそっと押して学生たちを通すが、王子の婚約者で戦姫として知られる姫が何を気にしているのかと、ほぼ全員が遠巻きに立ち止まった。
レモンイエローのスカートをつけたミリアムと、同じ色のワンピース姿の侍女が何事かと速足になって追いついてきた。
「エイプリル?」
ミリアムが話しかける。エイプリルは、ミリアムに顔を近づけて囁く。ふたりの目は公子に話しかけているミリアムと同じ色のワンピースの女性を見ている。
ミリアムは一瞬訝し気な表情を見せたが、すぐに侍女を連れて歩み寄り始めた。
公子がミリアムを見て、意外そうな顔をする。侍女服の女は近寄るふたりを見ると、いきなり身を翻して走り去った。
「ミリアム、どうしたの?」
公子の規定服を着ているのは、ミリアムの婚約者フレデリックだった。
「フレデリック、何を話していましたの?」
「え?君から伝言で、夕方図書館に来てほしいってことだったけど?」
「あれはわたくしの侍女ではありませんわ」
「え?」
「わたくしの侍女が、わたくしを見て逃げるなんてありえません」
「そうだね、たしかに。何だったんだろうね」
「フレデリック、のんびりしている場合ではありません、不審者です」
「あ、そうか」
「警備の兵を」
「ああ、一緒に来てくれるか」
「はい」




