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10.学園での日々

 貴族の子女は、家庭内に教師を招いて学ぶ。王立学園に通う者たちも、基礎学力は実家で身に着けている。

 王立学園が開設されたのはもっぱら王家の都合だ。ここに王都貴族をはじめ王国の各地の領に居住する侯爵家、伯爵家の子女を集めて均一化された教育を与えることで、王国全体の意思統一と王家への忠誠を養うというのが主たる目的だ。


 魔力の大きな者を見逃さないこと、卒業後自領に帰った時に領内で魔力保持者を見つける方法を教えること、「正史」を教えること、領地管理のための財務管理実務を身に着けさせること、学園は多くの副目的を持ち、概ね有効に働いている。


 教育期間は、王都貴族は3年だ。1年目は受講も午後のみで王都内の実家から通う。この期間に家庭教育で偏っている知識や学力を揃えるのが目的だ。2年目は学園に隣接する宿舎に入寮する。3年目は宿舎を維持しつつ通学も許されている。


 自領から王都にくる子女については、2年か1年を選択することができる。領地から王都に来る子女にとっては王家に差し出される人質のようなものだから、普通は1年間指定科目を受講して帰っていく。もっとも、学園での交流から王都貴族と婚約が調い2年目を受講する者もないわけではない。

 宿舎に部屋を与えられるが、自由に王都邸に帰ることもできる。


 学園は当初、伯爵以上の上位貴族子女のみを学生として受け入れていた。しかし、宿舎には侍女や侍従が溢れている。

 上位貴族の子女はひとりで服を着ることができない。衣服が故意にそのようにデザインされている。朝、寝衣から着替えるときだけでなく、剣技や乗馬のために衣装を改めるにも、かならず侍女や侍従の手がいる。

 授業の終わりを廊下で待つ侍女・侍従が目に余り、上位貴族の侍女、侍従ならば主人とともに教育を受けていて学力やマナーにも問題がないことから、結局教室の後ろに席を設けて「仕える主人が受講するときに限り、同じ講義を聴講することを許す」ということになった。


 規則の変更は、事態をさらに複雑化させた。上位貴族にコンタクトをとり、自分の子を侍女・侍従に加えてもらい、上位貴族と顔つなぎをしようという富裕な下位貴族が現れた。

 学園には、正規の生徒の数倍の若い貴族が溢れることになった。

 結局、学園は下位貴族にも門戸を開くことを決めた。


 その際、身分を明らかにするために服装が定められた。本来同じ場にいるはずのない身分の者、しかもまだ若い貴族の男女が接触する可能性があるのだから、身分が下の者が上の者に話しかける、身分違いの恋愛が発生する、などという不測の事態が起こらないように配慮された。

 上位貴族については、女性は午後のお茶会の正装である、白いブラウスと好みの色のスカート、ただし飾り帯は細いもの、男性はシャツに家紋入りのクラバット、上下黒の衣服となった。

 侍女はその日の主人と同じ色のロングワンピース、家紋の入った小さな被り物をつける。侍従は各家の執事服を簡易にしたものを準備し、襟に仕える公子の家の紋を入れる。

 同じものを手に入れることが難しいように考えられている。


 下位貴族については服装には規定がなく、上位貴族の服装に類似したものは禁止、となっている。下位貴族からすれば、上位貴族の服装が比較的簡易なものに定められている以上、それを上回るような華美な服装が許されるわけもなかった。大概の下位貴族は地味な色合いのロングドレスかグレイ系統のスーツを身に着けている。


 講義の対象者は上位貴族で、他は聴講が許されているだけだ。

 教室の前方に講師の肘掛椅子と脇机が用意され、助手のための椅子が2脚ある。講師席を半円に囲んで、その講座を受ける上位貴族子女の数だけの椅子と脇机がセットされている。

 後方には、長机と簡易な椅子が並び、最前列は出席している主人に仕える侍女と侍従で、その机より前に出ることは許されない。

 侍女服の色を見れば、どの公女の侍女かわかり、侍従服の色形を見ればどの公子の侍従かわかる。下位貴族は、まず侍女の被り物の家紋から令嬢の家を知り、執事服のデザインから令息の家を知るところから始めなくてはならない。取り入るには長い時間が必要だ。

 2列目からが下位貴族の席だ。長机より後ろにいる者は、講義中に口を開くことはできない。



 エイプリルの学園生活は、マリエやミリアムたちに囲まれ、エルとアニーに支えられて平穏に過ぎていった。歴史や文学の講義はそれなりに楽しかった。魔術や魔晶石の扱いについてはすでに中級の許しを受けているため免除、護身術に至っては、最初の授業でうっかり女性騎士を投げ飛ばして、そのまま出席不要となった。


 フィリップスは、3年教育の最後の年を過ごしており、学園に来ることはあまりなかった。来るときは、フィリップス付きの侍従からエルに連絡が入り、講義の後王妃の居間まで一緒に行くこともあった。王子の態度は、かなり柔らかくなっていた。

 王妃の居間で、時として王太子妃やメリー王女を交えながら和やかにお茶を飲むフィリップスとエイプリルは、それなりにやっていけそうという王妃近辺の評価を得るまでになっていた。


 王子妃教育については、フィエール領に送られたはずの教育係がジガ砦を越えたことまでは確認できたものの、ラフィエール城下町には現れなかったことまでしかわからないでいた。

 誰のどういう思惑があったかはわからないままだが、エイプリルの王子妃教育は王妃から簡単に合格が出た。

 王都からの教育係など全くあてにしていなかった伯爵家は、婚約が決まるや否や長姫ローズに王弟妃教育を授けた、カンデラ公爵家アンドリューの乳母だった老婦人を頼った。老婦人は、「王弟妃に比べれば、第三王子妃など霞か霧ほどの存在価値しかありません」と軽くあしらいながらも、要を得た王子妃教育を過不足なく合理的に授けていた。

 ローズを教育していた期間に、エイプリルを観察してその人間性を的確にとらえていた老婦人にとっては、これはやり甲斐のある仕事だった。



 平穏な学園生活に不穏な気配が漂い始めたのは、初夏の気配が漂い、あと2カ月に迫った学園卒業後に、結婚を控える幾人かの令嬢たちにそわそわとした雰囲気が漂い始めた頃だった。


現実の王子妃教育は、さほど厳しいものではないと思われます。スイスの花嫁学校に行ったダイアナ元イギリス皇太子妃は伯爵家の出身です。結婚前の数カ月、王宮に住みましたが、主な王太子妃教育は「にこやかに手を振りながら歩くこと」「長く手を振っても疲れない手のあげ方」などだった模様です。

彼女自身生まれながらの伯爵令嬢ですから。

国際的なパーティなどでは、事前の軽いレクチャーがあり、さらに後ろに必ず補助が付いて、現在相対している人の名前と身分、答えに詰まった時にはその応答を具体的に背後から教えているようでした。教育が必要なのは王太子妃自身ではなく、その補助をする宮廷侍女の方、ということになるでしょう。

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