2.エリーとマリー
「エリー、来たわよ」
「マリー、会えてうれしい」
エイプリルとマリエは従姉妹で、マリエの父ダニエル・ル・カリスがエイプリルの母メリーアンの兄だ。ダニエルは、義弟にあたるヘンリー・ル・フィエールに王都の政治的状況についての連絡を欠かさなかった。
フィエール領が皇国に侵略されれば、次はカリス領、義弟を助けることは自領を守ることだ。ダニエルは妹メリーアンへの訪問を口実に気楽に伯爵家を訪ね、そのときにしばしばマリエを伴ってきた。マリエがメリーアンを慕ってついてきたがったからだ。
エイプリルとマリエはきれいなリボンを互いの髪に結び合って喜んでいるよりも、戸外で犬と駆けまわるほうが好きという点でも完全に一致した性質を持っていたから、とても気が合った。幼い時から、エリー、マリーと愛称で呼び合ってきた。
「さあ、座って。今日は夜まで一緒ね」
「話すことがたくさんあるわ」
マリエはエイプリルより1歳年上で、学園には2年在席を申請して去年から王都にいる。マリエにとっては窮屈なことで、本当はエイプリルとともに1年だけひっそりと在席して、上位貴族の義務だけを果たせばいいことになっていたのだが、エイプリルが第三王子の婚約者となって事情が変わった。
マリエは、王子妃になるエイプリルについて王宮に上がる役目を引き受けることになったのだった。王子妃筆頭侍女がマリエの目指す職責だ。
「ねぇ、エリー、わたくしこの1年学園に通いましたけど、いろいろ疑問があるのよ」
「ええ。たとえば?」
「まず、状況をはっきりさせておきましょう。
王太子妃には、マール公爵家からペイシェンスさまが上がりました」
「そうね」
「王子をお産みになり、乳母にはローズさまがつきました。
つまり、王太子は、マール公爵家、カンデラ公爵家、フィエール伯爵家の後ろ盾を得ています。
このまま王の後継者として確実に進んでいかれることでしょう」
「次に、第二王子には、南東のグリエランド公国から、第一王女さまがお輿入れなさいました。
この婚姻には、第一王女さまのお産みになるお子から、グリエランドの次代の公王を出すという契約が付帯しています。
王女さまの後ろ盾には、東の辺境伯、コンスタンティン伯爵家がお付きになりました。コンスタンティン家はグリエランドと国境を接していますので、東の安定策です」
「そうよね」
「それで、第三王子妃に、なぜエリーなのかが疑問なの」
「そうよね、本当にわからないの。
なぜかしら?」
「エリーにもわからない?」
「皇太子には姉上を通じてうちとカリス家の支援があるわよね。姉上のお子、カンデラ家の公子さまは、王太子家の王子さまと乳兄弟、生涯切っても切れない仲です。
カンデラ家の公子さまは、父の孫、母を通じてカリス家の縁戚、西の国境は安定したと思っていいわよね」
「そうよ、だから、第三王子妃には、王都貴族の姫がいいでしょう?」
「わたくしもそう思うわ、宰相家の姫なんか適任なのではないかしら?」
「ごめん、エリー、宰相家の未婚の姫は、愛妾腹で今3歳」
「あら、それは無理ね、さすがに」
「それで、これが王都貴族の姫君で、第三王子妃と年頃が釣り合う方々なのだけど」
王都貴族とは、王家から臣籍降下した太公家、王弟カンデラ公爵家、二代以上前の臣籍降下で残っている公爵家、王朝創建時の功臣・重臣の血筋が引き継いでいる侯爵家を指す。宰相、財務相、外務大臣などは王都貴族から出る。
マリエの作ったリストには、マール公爵家のほか、カッサンドラ公爵家、ライフェルド侯爵家、フィニエストラ侯爵家など、王家創建当時の功労者の名前がずらりと並ぶ。歴史書に燦然と輝く姓ばかりだ。
「このあたりの、そう、元老院議長さまのお孫さま、エステル姫なんていいのじゃなくて?」
「ご病弱でご辞退なさったとか」
「え?病弱で辞退できるの?」
「まあね、お子をなさなくてはなりませんもの」
「ああ、なるほど。わたくしもいまから病弱になりましょうか」
「エリー、さすがに無理でしょ。遊撃隊の指揮官さま?」
「う~ん、そうかも」




