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5.旅程3 駐在地にて

 駐在地は、巡回隊が巡視をリレー式に引き継ぐ場所で、指揮官が常駐している。

 4人1組の巡回隊は3日毎にジガ城を出る。最初の宿営地で1泊し、次の夕方駐在地に着く。2日前に出て、警備と休憩をしていた隊が引き継ぎリバーアン砦まで行く。そこでまた引き継ぎ、待っていた隊がジガ城へと帰り道を辿る。

 往復8日かかる巡視だが、引き継ぎ地点で次の隊が来るまで中2日待つから、14日の任務だ。伯爵家の若い兵たちが必ず通る訓練課程で、姫隊も全員経験済みだ。


 キャメロンが先行して先触れしたので、駐在地の指揮官が迎えに出ていた。

「ようこそ姫君。お久しゅうございます」

「出迎えありがとう。変わりないか」

「は、ありがたく」


 駐在地の建物に部屋を与えられたが、エイプリルが一部屋をもらってエルが付き添い、男性騎士3人は野営用テントに順に横になりながら犬と一緒に夜番を務めることになった。

 その日の夕食では、駐在地のためにロイがロバの背に乗せてきた酒精が1杯ずつふるまわれた。ここでも昔話が肴になった。

 エイプリルが上道の巡回をした時、鹿を射たのはいいが重くて運べず、解体して運ぼうとしたら、スコップを持ち合わせなかったので内臓の処理に苦労して、結局は途中で野営となって散々叱られた話は、「巡回あるある」でウケをとったのだった。


 夜になってエル配下の者が静かに現れた。

 猟師姿を従卒姿に改めたその男は、東の大岩にから下がったところに野営跡が残っていたが、仲間内だけでわかる目印が仕掛けられているかもしれないので道を探すのは控えたこと、そして、左の白い岩の周囲を大きく回って調べたところ、丘陵地帯を抜ける獣道があったが、これも仕掛けを懸念して先を辿らなかったことを報告した。


 エルと男がエイプリルを見る。指示を出すのはエイプリルの仕事だ。

「東はそのままにしましょう。カリス侯爵の権限です。

 西は白い岩が見える範囲には目印がないでしょう。中道まで行けるかどうかを確認したいですが、どうでしょう」

「どのようにしても中道までは行けるものと思います。白い岩は、西側から来るものが安全に野営できる大岩を見つける目印となっているのだと思います」

「そうね、エル」


 中道は、丘陵地帯が平原に変わるあたりを、およそ上道と並行するように南北に伸びている。任意の渓流を辿れば上道と中道の行き来に迷うことはないだろう。

「そうね、むしろ中道から上がる目印を探すほうが簡単かしら」

「エルさま、よろしいでしょうか」

 男が発言を求めた。エル配下なので、姫に直接話しかけることはできない。

「この場での発言と直答を許す」

 エイプリルが形式に則って直接許可を出した。3人しかいないこの場では煩わしいことではあるが、様式は仕える者を護るためにある。


「駐在地から西方向に、中道を行き来する者たちのための馬の水飲み場と石造りの小屋があります。よい目印となっているでしょう」

「そう。水飲み場があるなら、渓流もあるでしょうね」

「おそらくは」

 馬は高価な動物だ。溜り水を飲ませることはできないから、筧で渓流の水を引き、水飲み場からは流し放しにして、水たまりを作らないようにもとの渓流まで水路を引いているだろう。

「管理する者はいるのですか」

「マイ・レイディ、石の小屋があるならば、おそらく旅人の守り神クリスティーナさまの祠があることと思われます。祠の世話をする者が、わずかな世話料で水飲み場の掃除と小屋の補修を請け負っているでしょう」

「そうですか」


「明日1日、馬の蹄鉄の点検、整備のためにここに滞在しましょう。

 ご苦労ですが、小屋まで往復してもらえますか。1日で足りますか」

 男は頭の中の地図を調べるように少し上に目をやりながら考えていたが、やがて答えた。

「夜明けとともに出れば、日がまだ高いうちに帰れることと思います」

「頼みます。だれか目印を使う者に見られることがないように」

「心得ました」

「もし祠があったら、クリスティーナさまの台座の下を調べてみてくれますか」

「マイ・レイディ?」

「いえ、何もなければそれでいいのよ、エル。何もないことを確認したいの」

 指令を受けた男は静かに部屋から出て行った。



 次の日、午前中は蹄鉄を調べ、いくつか打ち直すなどして過ごした。

 午後はキャメロンが巡回兵たちに稽古をつけ、コーエンとラドクリフは1日旅程が伸びた分と言って狩りに出た。大きな鳥を仕留めてきて、その夜はエルとロイで鳥のスープを作った。

 パン、鳥のスープ、焼き肉とポテト。そしてエイプリルがエルの手を借りながら午後一杯かけて作った甘い菓子が切り分けられ、配られて、指揮官も兵たちも大喜びの夕食となった。


 夜、男が報告に現れた。

「祠はございました。台座を動かすことはできませんでした。

 白い岩は、下から来ればかなり遠くから見えます」

「ご苦労でした。明日は遅く出て野営とします、さほど遠くまで行きません。ゆっくり休みなさい」

 エルはそう言って、酒精を渡してねぎらった。


 エイプリルは指揮官を呼び、明日は昼前に出ること、夜は野営にすることを告げた。

 指揮官は若干不審そうにしていたが、エイプリルは独立した指揮権を持っており、ジガ城の指揮権を持つホーリーと同格、この場の指揮官より地位は高いから質問は許されなかった。


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