表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大町編  作者: 麦果
第3章 大崎尚進高校
44/84

43. 最後の夏 広がる世界



 翌朝、あみと夏椰、新川は山手と望奈の恋話に付き合っていた。

「山手ちゃんおめでとう!」

 あみが大きく拍手すると、山手がはにかんだ。

「次は望奈ちゃんの番だぞっ」

「心の準備が出来次第……」

 いつもは元気の良い望奈だが、この手の話題を振られると打ちしおれてしまうようだ。

「そうなると、うちの方が先だったりして」

「ニカが!? 誰か、意中のお相手でも!?」

 あみは新川に迫った。

「まだ居ないけど、あみちゃんと夏椰ちゃん、山手ちゃん見てたら恋とかしたくなって。望奈ちゃんがこの調子じゃ、うちが誰か良い人見つけてくっつく方が早いかも」

「そんなぁ……うぅ、新川より先に彼氏作るもん」

「作れるでしょ」

 そう喋っていると、英語の先生が入室した。まもなく課外授業が始まった。


 3教科の講義を終えたあみは、椿と一緒に仙台市街地へ行く事にした。夏椰も誘ったが、彼女はアルバイトを終えた笹上の元へ向かうようだった。

「ラブラブだねぇ」

「そういうつば嬢だって、こないだでてん君と2年突破したじゃん」

「うん! まだ2年ね……何年でも居たいなぁ」

「だよねぇ。うちも先輩と……」

 あみは夢見心地で遠くを見つめた。その視線の先を、彼女が描いているであろう理想の未来を思わせる、仲睦まじい老夫婦が歩いていた。

「いいなぁ、病める時も健やかなる時も、どんな時も……そうだ、つば嬢」

 あみは何かを呼び起こしたようだ。

「奏ちゃんとか居なくなった時、探すの手伝ってくれたよね。今だって、矢遣団だっけ? 陸君が作ったのにも入ってるし」

「それは……てん君が居なくなった友達心配してたからなのと、椿が、祀陵高校3年5組のクラス委員だから」

 羽依花が祀陵高校を去ってからは、椿がその後役となっていた。

「5組に何かあったら、椿に出来る事したいんだ。てん君や他のみんなにだってそう」

「つば嬢……ありがとう。うちや夏椰ちゃん、てん君、みんな付いてるからね」

 あみは自分や仲間の分、椿の背中を優しく叩いた。


 街中で、あみと椿は藤松と鉢合わせした。彼女はバイオリンのお稽古まで暇を持て余していたようだ。

「家に居てもつまらないから」

「分かる分かる!」

 男女交際を禁じられているという藤松程ではないが、あみの両親も教育熱心なのだ。

「せっかくだし、3人でお茶しましょ」

「賛成!」

 あみと椿は藤松の案内で、上品な雰囲気のカフェに入った。椿もその店には慣れているようだった。

「うち、場違いじゃない?」

「大丈夫。大人の階段登ると思って」

「わ、分かった……」

 あみは店内の雰囲気や客層に戸惑ったが、椿が助言してくれた。

 しばらくして、アイスロイヤルミルクティーが運ばれて来た。ロイヤルと銘打っている分、あみが普段飲んでいるミルクティーとは明らかに別物だ。

「プチ贅沢、ってこんな感じかな」

 あみは、彼氏の友人である社会人の先輩や、背伸びして読んでみた20代向けの雑誌で覚えていた言葉の意味が分かった気がした。

「そうでしょうね」

 藤松が応えた。椿もその隣で頷いている。

「ありがと……うちの世界がまた広くなったよ」

 格上の世界を教えてもらった、本来なら出会えないはずの藤松に。

 その理由や経緯は良くない事だったが、彼女や他の宮城万路高校生、遠い町で同じ敵に立ち向かう仲間達を知って、勉強漬けでは分からない世界を切り開けたと、あみは実感したようだ。

 お喋りに花を咲かせ、お茶を飲み切ったあみと椿、藤松は店の前で別れた。

「またねー、お稽古がんばー」

「それじゃあね!」

 藤松が遠ざかると、あみと椿は途中まで一緒に帰った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ