42. 最後の夏 友達以上
25日、お昼時の祀陵高校。山手は菓子パン、望奈はバナナを食べていた。
「もう1年経ったんだなー……山手さぁ」
望奈が2本目の皮をむきながら、話を切り出した。
「変わったよね」
「それはそうでしょ……うちだけじゃないと思う、望奈さんだって」
元1みんなそうでしょ、と山手は言い返した。
仙台末娘事件で元1こと元2年1組の日常は変化した。熊ヶ根ら加害生徒が学校を去り、因縁や興味から総出で祖志継家を追い始めた。それまで何においても非協力的だった男子達が歩み寄った事は不幸中の幸いと言える。
「ナイスツッコミ。思ってる事、ちゃんと言えてんじゃん」
「うん、自覚してる」
山手は元々、自己主張がかなり苦手だった。熊ヶ根の過ちも指摘出来ず、手伝うと見せ掛けてこそこそ動くしかなかった。その結果、冬美の家族を巻き込んでしまったと思い悩んでいた。
「その調子で言ってやりな」
「えっ?」
「うちも、楽司君大好きーって」
罪悪感に押しつぶされた時は楽司が救ってくれたが、その後は友達に戻ったつもりだった。しかし、望奈に言わせれば、彼は間違いなく山手を特別な女の子として見ているのだそうだ。
「6組に押し掛けて来んの見てりゃあ分かるよ……うちだってよく、聡太にちょっかい出してるでしょ? あんな感じ」
望奈の聡太への想いは前から知っていた。彼も同じ気持ちなのに、まだはっきりと伝え合っていない事も、元1では周知の事実だ。
「分かった……その話、いったんストップね」
楽司の慕情を知った所で、山手は教室を出た。
「失礼します……」
山手は楽司のクラスに立ち入った。
「おー、山手じゃん」
海恵が陸上競技部の女子数人と一緒に昼食を摂っていた。
「もしかして、楽司に用?」
山手が頷くと、海恵が楽司を手招きした。
「おっ! 山手ちゃんじゃん! どしたのー?」
「えっと……聞きたい事があるんだけど、いい?」
山手は思い切って、楽司を人気のない廊下へ連れ出した。
「内緒の話?」
「まぁね、みんな知ってるみたいだけど、人前じゃあれだから」
山手は息を整えた。
「うちの事、好きなんだってね」
「あ……バレたかぁ」
楽司の顔が赤く染まった。
「うちは、楽司君の事、友達だって思ってる。だから、これからそれ以上になりたいな」
「って事は……」
「お付き合いして、下さいな」
「っしゃあ!!」
楽司がその場でガッツポーズをした。山手は周りを確かめてから、彼に向かって両腕を広げた。
「あっ、もしや」
「あの時みたいに……ギュッて、して欲しいなって」
「いいよ」
楽司が山手を抱き締めた。暑いのではなく、温かい。嫌な物を全て溶かしてくれそうだ。
「今ハマってる少女マンガみたい……現実なんだよね」
「うん、良い現実……おっと、いけねぇ」
足音が聞こえたので、二人はその主に見つからないようその場を離れた。
山手は楽司と一緒に帰る約束をし、望奈の元に戻った。
「参考にさせていただきます」
事の経緯を話すと、望奈がかしこまった口調で頭を下げた。
「参考にだなんて、そんな」
「助かるよぉ。生まれてこの方告白なんざした事ないもんで」
「うちだって初めてだよ! ……あー、余韻がぁ」
山手は自身の腕でその体を包んだ。
「山手、うらやましいぞ……って、やべっ!」
望奈はバナナの皮を捨てるやいなや、エナメルバッグ片手に体育館へ駆け出した。山手もその一声で我に返り、課外授業に臨んだ。
【宮城県祀陵高校】
高野原望奈
2年1組→3年6組・バスケットボール部
ハイテンションなスポーツ少女。伊賀と仲が良く、聡太とは両片思い




