40.矢遣団
岳の努力も虚しく、2組の女子と3組は真相を聞き入れずに夕陽を排除した。男子達もこれには手をこまねいたようで、味方を失った彼女は翌日以降、学校に姿を現さなかった。
その一方で4組、8組は落ち着きを取り戻し、2組女子達の陰湿さを嘲笑ってた。
そういった状況を、週末、ヌカボシに集まってすぐ岳から伝えられた大町は言葉を詰まらせた。
「恐ろしいな」
一緒に居た二日が身震いした。他にも北目、凪輝、進理、森生、湊、嵯久も同席していたが、彼女達も夕陽の現状に蒼然としていた。
「さすがに気の毒だわ」
八幡が今居る人数より多くアイスドリンクを持って来た。
「八幡でもそう言うなんて、やっぱり異常だわ……で、他に誰来んの?」
二日はブラックコーヒーを一口飲み、八幡に尋ねた。
「陸君と、浦見台の山下ちゃん、灯華ちゃん、尚進の下川原ちゃんだよ」
「女子率高いね!」
「おい」
凪輝が目を輝かせて立ち上がったが、進理に脇腹を突かれた。
「ったく、このチャラ男は……あ、来たっ」
陸と灯華が誰かと喋りながらドアを開けていた。
「いらっしゃーい! それじゃ――」
八幡が見慣れない女の子二人を紹介した。黒髪で額を出しているのが菊田のはとこでもある山下、栗毛で片側を編んでいるのが下川原だそうだ。宮城万路高校生達も彼女らに順番に名乗った。
「おお、夏芽達の恩人……さては、かわいいって言われるタイプだなぁ?」
「うん、よく言われる」
「だべ?」
下川原と大町が直接会うのは初めてだ。山下も同様で、彼女からは元野球部の友人の事を尋ねられた。
「山下さんも野球友達?」
「ううん、うちのクラスの子が。同中だったのも二人居るって。その竹浜、相野谷、青山ってのが、あいつによろしくって」
「分かったー」
少し喋った所で本題に進み始めた。
今回の議題は、共継家による今後起こるかもしれない事件の対策についてだった。
彼らの本命は大崎尚進高校だが、巻き添えを食らう可能性もゼロではなく、友人達の事も気掛かりであった。そこで宮城万路高校、祀陵高校、大崎尚進高校、石巻浦見台高校の4校有志の連携を強化する事になった。
「そこで俺から……俺らからの提案なんだけど」
陸がチラシの裏側に何か書かれた物をテーブルに置いた。
「尚進と連絡取れなくなる前に花壇と玲華さんが考えてたのがあって、それに少し付け加えといた」
彼が提唱したのはグループチャットを用いた情報共有方法だった。使い慣れた物を活用するその案は即決された。
するとさっそく、陸が〝矢遣団〟という名のチャットルームを作成した。
「この名前……」
大町は〝矢遣団〟に似た名前のグループをSNS上で見かけた事があった。
「〝弓遣団〟でしょ? ここだけの話、あれ作ったのも俺なんだわ。奴らに見つかっても言い逃れ出来るように、表向きはあれの姉妹グループにするって訳」
陸は意気揚々と語った。
「で、グループチャット入れんのMAX100人だから、決まった奴だけ入れて、後は各自連絡取れるとこに回してもらおうと思うんだ」
陸が大町とその仲間達に指示した。
彼の指名通り、福島万路、宮城万路、祀陵、大崎尚進、石巻浦見台の選ばれた生徒に呼び掛け、74人が矢遣団に加入した。その中には大町も入っている。
「これでよし」
陸が呟き、一つ目のメッセージを送ってきた。
『矢遣団にようこそ! 弓遣大地もとい、祀陵の上杉陸です。例の話中心ですが、正直それだけだとつまんないし、あれ専用だとバレたら詰むので普段の交流用にも使っちゃって下さい』
大町は『分かったー』と返信した。それに続いて短いコメントやセリフ付の画像が数十人分流れた。
そして、共継家が予告通り問題を起こした際は矢遣団を中心に連絡を取り合いながら対処する事に決めて、ヌカボシでの会議が終了した。
月曜日、宮城万路高校では夏休み前の全校集会が始まろうとしていた。
大町はだらだらと並び始める2組女子と3組の様子を垣間見た。彼女達は何事もなかったかのように振る舞い、4組に加え、チアリーディング部員達から白眼視されても素知らぬ顔だった。
「陰湿系女子怖えぇ……それと比べてお前ら、本当頑張ってるよな。文丸はデートでサボったらしいけど、土曜、ヌカボシに集まったんだって?」
元野球部の友人が大町に話し掛けてきた。
「うん」
「また他校のダチ増えたんじゃねーの?」
「増えたよ……あ、でね、浦見台の竹浜さんと、相野谷君と、青山君がよろしくだって」
「おう。って事は3人共来てたのか?」
「来てないよ。来た子に伝言頼んでた」
「そっかぁ」
そのうち仙台来ねぇかなぁ、と友人が独言した。
間もなく全校集会が始まり、滞りなく学年集会へと進んだ。
「最近、この学校が大変な事になるという噂が流れているが、こういうデマには惑わされないように。君達はネットもよく使うだろうけど、あそこはそういうのが多いからな、しっかり見極めて――」
生活指導の先生が説いている間、問題の子達は忍び笑いしていた。
「そこ!」
女の先生が彼女達を指さした。
「えー、でもぉ」
「私達は大丈夫ですけどぉ、台原君とかぁ、1組の北目さんとかぁ……」
「逆でしょうが!」
悪びれない2組の女子達に対し、女教諭と、正義感の強そうなチアリーディング部員が同時に突っ込んだ。彼女達は黙ったが不機嫌そうだ。
学年集会が終わり教室に戻る途中、大町は岳と北目に駆け寄るチアリーディング部員数人を見かけた。
「よっ! さっきは災難だったねぇ、気にしちゃだめだぞっ!」
「うちら、台原達が頑張ってんの知ってっかんね! そうそう、大町も!」
チアリーディング部員が振り向き、ウィンクをした。
「あ、ありがと……」
「いーえー!」
大町は走り去る彼女達に小さく手を降った。
教室に戻りスマートフォンを見ると、凪助と城山がメッセージを送っていた。
『万路まだ荒れてる? 大丈夫?』
『どうなの? 心配だなぁ』
凪助達は竹浜から宮城万路高校のデマ騒ぎを聞いていたようだ。
『一部の人が騒いでたけど、先生や夕陽さんと同じ部の人が注意したよ。それからは黙ってる』
大町は彼らを含む矢遣団メンバーに返答した。メッセージが正常に送信された事を確認した所で先生が来たので、すぐにスマートフォンをしまった。
この後LHRと清掃を行い、明日からの夏休みに備えた。
【宮城県大崎尚進高校】
城山一世/しろっち
総合学科社会福祉系列2年3組→3年3組
社会研究部
おとなしいが恋人への思いは強い。丸沼、大学や下川原とは地元が一緒
【学校法人秀堂学園石巻浦見台高校】
北村凪助/スケちゃん
進学コース2年1組→3年1組
いつもは陽気でも、しっかりしている。好きな女子やその友人とよく絡むが、相野谷や伊原津とも仲が良い




