39.繋がり
一部、いじめ・スクールカーストに関する描写があります
翌朝。大町はいつも通り、昇降口まで来ていた。
「あんたの拡散力半端ないわー……うげっ」
下駄箱の前で立ち話をしていた女子生徒の一人が大町に気付き、煙たそうに顔をしかめた。
「行くよっ!」
「あっ、うん!」
彼女は仲間達とずらかった。
(何だよ、感じ悪いなぁ……それに、どこのクラスだ?)
3年生である事は間違いないが、少なくとも実践教養コース内では見た事のない子達だった。
(それに、何を拡散したって?)
先程の女子生徒が口にした〝拡散力〟という言葉が引っ掛かった。
「大町!」
元野球部の友人とクラス委員、その他数名の級友達が現れた。
「大丈夫か?」
「ま、まぁ……でも、気になる事があって」
大町は友人に女子生徒の発言内容を伝えた。
「あー……って事は、あの子達の仕業だな。確か2組の子だ」
「2組……岳君と夕陽さんのクラスね」
「あぁ」
友人はここまでの経緯を説明した。
昨夜から宮城万路高校生の間で〝夏休み前日に宮万生が皆殺しにされる〟という噂が立ち、その犯人は共継家で、標的になった原因は夕陽ら元サスペンス愛好会メンバーと、大町とその友人にあるという話が出回っているそうだ。インターネット、SNSから発信されたそのデマは現実の学校にも及んでいて、一部のクラス――3年生では1、5、6組を除いて大騒ぎらしい。
「僕まで……けど、そう言われても仕方ないかな、実際」
「いいから、気にすんなっ! 本当はどうなってるか、俺達は分かってるから」
大町は友人の言葉に安心しつつ、なぜ事実を知っているのか気になった。
「浦見台の友達に聞いたんだ」
大町の疑問に気付いたのか、友人はSNS上でのやりとりを見せてくれた。相手は〝さおりちゃん〟という、東松島市出身の、野球とソフトボールの経験者で同学年の女の子だった。
『さおりちゃんって、共継家って聞いた事ある? 浦見台の3年、そういうの詳しいじゃん?』
『知ってる! 万路何かあったの?』
『そいつらが夏休み前に事件起こすかもしれないんだ』
『それガセだよ! 今狙われてんのは尚進、夏休み中が危ないってのが正解。こっちは予告されてるからガチっぽい』
『ガセかぁ……あざっす!』
その後は個人的な話題が少し続けられていた。〝さおりちゃん〟の級友と恋人が、友人が石巻市に住んでいた頃の親友だったらしく、彼らの事を気遣う言葉を送っていた。
友人の昔話で気を取り直した所で、大町らは教室へと向かった。
昼休み、大町は弁当片手に7組を訪ねた。元野球部の友人もコンビニエンスストアの袋を引っ提げて同行した。
7組の生徒達はいつもと変わらぬ様子だった。
「あれ? あの話気にしてないっぽい?」
「うん! 全員ガン無視」
「いや、でも朝葉は違うでしょ」
大町と顔見知りの女子生徒によると、朝葉は〝共継父娘をとっ捕まえる〟という理由で学校を休んでいるそうだ。
「指名手配じゃないから懸賞金出ないんだぞ、って先生呆れてた」
「文丸君は、元サス好に対抗心燃やしてんじゃねって言ってたけど。ね」
「うん」
文丸が会話に加わった。
「あいつら活動してた時も朝葉ちゃんが一番文句言ってたしなー……俺は元サス好嫌いじゃなかったけど、何でだか」
あいつら見てて楽しいじゃん、と、友人は朝葉の感覚が理解出来ないようだった。
「あー、静かだわー」
「凪輝君! 藤松さんも」
大町は凪輝と藤松を迎え入れた。二人によれば、8組と4組では一部の生徒が誤解を解こうとする彼らの話に聞く耳を持たず、未だに騒いでいるらしい。
「正直、悪い事したなぁ……」
「何言ってんの! 藤松ちゃんは悪くないって!」
凪輝が藤松を擁護した。
「そうそう、9組から向こうはちゃんと話聞いてもらえたって」
凪輝は3クラスの状況を、嵯久からまとめて伝えられていた。
彼いわく、9組の生徒達は正しい情報を得た上で、宮城万路高校に何かあった際は二日らに任せる事にしたそうだ。
10組では女子生徒から湊を心配する声が上がったが、嵯久が「小凪ちゃんは俺が守るから大丈夫だ」と言ってのけたという。
11組は季杏の指摘を受けた後、生徒数人がどっちにせよ、自分が出たドラマみたいだとはしゃいでいたらしい。
「嵯久君……絶対、後で恥ずかしくなるパターンだよ」
文丸は嵯久の大胆な発言に苦笑した。
「嵯久もそっち側かよ」
友人は嵯久を、学友に話せる恋愛ネタがある、自分とは異なるタイプと見なしていた。
「そんなに言うなら好きな子か彼女作ってこっち側来なよ」
「好きな子は居るの。でも、あの子他校だから宮万生には通じないって」
「あの子って誰さ?」
友人が〝あの子〟という言葉を発するのは2回目、さすがに今度は文丸が突っ込んだ。
「知りたい? ……待てよ、下手するとお前らの知り合いかも。浦見台の、洋輝ちゃん」
「知ってる」
大町、文丸、凪輝は口を揃えた。友人の想い人は南境だった。
「ボーイッシュな子が好きなんだぁ」
藤松も微笑んでいた。
「そうなんだよー……これで俺も恋バナ出来るぜ。でも今はいったん飯食おうか。腹減った」
「はいはい」
友人と大町、彼の仲間達は昼食を摂り始めた。
昼休み中は元野球部の友人のおかげで、デマの事を忘れられたが、5校時から再び現実に引き戻された。
大町は先生の講義に耳を傾けつつ、外で体育の授業を受けている1、2組の様子を眺めていた。
(あの子が夕陽さん、だったかな)
夕陽の事は元サスペンス愛好会メンバーや奏、八幡、陸、灯華と灯樹からどんな子か聞いただけで、詳しくは知らなかった。
(あ、今朝の子達)
夕陽に声を掛けた女子生徒に対し、昇降口で会った子達が何か言っていた。女子生徒は顔を青くして夕陽から離れた。昇降口に居た子達はクスクスと笑っていた。
(うわっ、怖いな)
「大町君、堤さんが心配なの?」
「あっ、はい……一応、知り合いなので」
先生が大町の席までやって来て、外を見下ろしていた。
「3組も変な噂信じてるのが多いのよね。私と副担任の先生からも注意してるんだけど……6組は大丈夫?」
「はい」
「そっかぁ」
3組にも見習って欲しいよ、と先生はため息をついた。
授業が終わるとすぐ、大町を囲む席の子達が2、3組の事をさらに教えてくれた。
「少なくとも、2組じゃなくてよかったな。コース違うけど」
彼女達がそう呟いたのは、2組が学年で最も、クラス内の位置付けが明確なクラスだからであった。
その中で夕陽は他の目立つ生徒と一緒に1軍に君臨していたが、彼女を疎んでいた2、3軍の生徒達によって、今話題になっている事件を利用して蹴落とされようとしているという。
3組に関しては、その2軍以下と気性が合う生徒が多いので、同調しているのではないかと周りの子達は推測していた。
「本当、怖いんだけど……岳君、大丈夫かなぁ」
大町はその場で岳にメッセージを送った。
『2組荒れてるって? 岳君は大丈夫?』
『俺なら大丈夫だ。男子は何とか収まったけど、問題は女子。怖くて泣きそう』
『そりゃそうだよね……』
当事者なりに動きがあったようだ。大町は岳に対し、頑張れと念じた。




