旅のはじまり
手紙を目の前にしながら、十代の少年期の旅行の長い空想を振り返ると、すっかり日が暮れていた。
ハンスは手紙を開ける。
すっかり毎日の生活に疲れ切っていたハンスはあの頃の情熱に対してどこか負い目を感じながら、その手紙を開けた。
「拝啓 ハンス
最近どうしていますか。懐かしいですね。手紙を書くにも、東の国なんかじゃもうそんなことはしない。
画面の上でメールを送れば事足りるのだけれど。西の国ではいまだに伝書鳩というのである意味ではロマンチックだなあと感じています。
そんなことはどうでもよくて、単刀直入に申します。
今、この世界が大きく変わろうとしている!
・・・とにかく、君に会いたい。語り合いたい。それだけです。近いうちにぜひ来てください。
会いましょう。」
ハンスもサトルに会いたくなった。
心少ない、本心をうち明けられる友なのだ。
「士は己を知るものの為に死す。」と謂う。サトルはハンスの孤独を知り、またその魅力も知っていた。ハンスも同様だ。この友のためなら何でもしようという気持ち、それが宝でなくして何か。
ハンスはすぐに旅の支度を始めた。
小さなリュックに必要最低限の衣類と寝袋を詰め、そして財布とホウキさえあればたいがいどんな旅行でも事足りるものだ。
東の国に行く計画はいともあっさり決まった。ハンスの心の中にあったもやもやとしたものは晴れ渡ったようになり、新しい空が目の前に開けたようだった。
今回の出国は案外あっさりと国からの許可がおりた。
いつも旅に出る時というのはそれだけでいつも満たされた気分になる。
サトルとの再会のために出かけた旅行だったはずが、まさかそこまでの大冒険になるとは思いもよらなかった。




