表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再会 ~All That I Needed(Was You)~  作者: あだちゆう
PR
6/39

運悪く、ハンスが東の国から帰ってきたときに、西の国の警官が彼の不法出国を捉えた。彼には未成年ということもあり、執行猶予付きの厳重注意を受ける。


そして、その直後、ユタカが死んだということが耳に入ってきた。

死因は分からない。

そんなバカな。

あの僕たちのヒーロー、カリスマは謎の男に撃たれ、見知らぬ民家で倒れた。そのまま病院に搬送され治療の甲斐なく亡くなったとか。

「大切な人をまた、失った・・・。」

ハンスは空に向けてユタカの歌を歌いながら慟哭(どうこく)した。


そして、あれだけ、自分を愛して面倒を見てくれた神官パウロが犯罪人として国外追放を命じられた。

「犯罪人?

そんな、そんなバカな!あの人はそんな悪いことをしたのか?

裏で、何か僕たちには決して見せられないようなあくどいことを為していたとでも言うのか・・・!?」

罪状を憲兵から聞いたときは信じられなかった。

「・・・違った。違った・・・だけど。」

違法に出国したハンスの保護監督義務を怠ったという罪状が皮切りだった。

西の国における「平等法」違反という罪状で逐一、パウロがハンスにしてくれたことは違法と断じられた。

寒い日の裏通りでこっそり売店であったかいスープを買ってくれたことも、ギターだけでなく楽譜や必要な道具を与えてくれたことも、靴下やコートを与えてくれたことも、ハンスにだけ特別にコンサートに連れて行ったことも。パウロは無論ハンスだけを特別扱いしていたわけでなく、孤児の全員を一人残らず特別扱いしていた。

街の人びとに慕われていたパウロは、その日を境に街の人びとから白い目で見られるようになった。

さまざまな噂が人びとの中で飛び交った。それでも、パウロは一切の弁明をせずに罪を受け入れ、表情一つ変えることなく、ハンスを含めた孤児たちに接した。


「なぜ・・・?何がいけないのだ?

あの時と・・・あの時と、同じだ・・・。」

ハンスはそう感じた。

「だけど、あの時っていつだ?いつだ?」


子どもたちの前では決して弱音を吐かなかったパウロであったが、ある時ハンスははじめて彼を気遣った。

「パウロ、みんなああいってるけれどさ、僕だけはあんたがしてくれたこと分かってる。本当に感謝しているよ。あんたがいなかったら、おれは死んでいたと思う。あんたは・・・僕のもう一人の親だ。・・・だから、ありがとう、ありがとう。」

大粒の涙が神官の眼から零れ落ちる。

ハンスは親以外の大人が泣くのをはじめて見た。

「ハンス、愛しています。君は・・・本当に素直でいい子だったよ。」

そう言って、パウロはハンスを抱きしめた。ハンスの眼からも涙が流れ落ちた。


ライトが光る。

「パウロ神官、それは児童虐待防止法抵触ですね。現行犯逮捕。」

憲兵だった。

「違う!なんで!?なんでだよ!?・・・卑怯だ、そんなところで見張っているなんて!

違う!違うんだこれは!」

憲兵はハンスの叫びに無反応で続ける。

「パウロ神官、私はあなたを守ろうとしてきましたが、あなたの国家への反逆の数々・・・もう庇いきれない。」

「守ろうとしてきた?だまされるな。見張ってただけだろう。

狂っている、狂っている、狂っている、この世界は!」

「狂ってるのはあなたでしょう。それは、あなたが狂っているからそう見えるだけ。狂人の心には、世界というものは狂って見えるものだ。君は教会という神聖な場にいるべきではない。いち早く精神病院にでも入院したほうがいい。」

「・・・法律は、何も僕たちを守りやしない!ただ裁き罰するだけか!」

パウロは始終穏やかに、

「神以外のすべての人間はそもそもが狂ってるから心配ありませんよ。それに・・・君は分かってくれている。それだけで、それだけで十分です。」

といって笑いながら、手錠をかけられた。笑いながら、その目には涙がにじんでいた。

そして、孤児院の子どもらはみなパウロに面会することさえ許されなくなった。


「そのギターもダメだ。処分しろ。」


「やめろ!やめろよ!」

叫ぶ。

「お願いだ!やめてくれ!」

パウロからもらったそのギターにはあまりにもたくさんのあたたかい思い出が詰まっていた。


目の前で、それは叩き割られ折られ、ゴミ収集のための魔法の焼却炉で音を立てて燃えていった。

あっという間に「それ」はなくなり、ただ白くなった灰だけが残った。そしてその灰も風に流されて虚空に散っていった。



ハンスは親を三度失った。

そんなことが、数年前の話。


いつの間にかハンスは熱く燃えるような想いをすっかり忘れてしまった。

あの頃は、未来にはなんでもあって、なんでもできるように思っていた。



いつしか、ただ人の喜びそうな耳触りのいいきれいな言葉を選んで悦に浸って日銭さえ稼げればいい。

やたらと変わったことをして、いつどこで誰が自分を捕らえるかなんてわかったもんじゃない。

そう思うようになっている自分に気が付いた。

そして、少しづつ少しづつ、街の毒に洗脳されていくのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ