【ユリア編】 スターウォッチャー その4
…………そして。
「――あ、穣くん、見えた。あそこだよ」
「お、ついに到着ですか?」
「うん、行こう」
――先輩の言ったとおり、頂上だけポッカリと、見晴らしの良い空間が広がっていた。思ったよりも登ってきていたようで、街の明かりもここからは一望できた。何とも綺麗な光景だ。
「ここが、あたしのお気に入りのポイントだよ」
「いや~、いいですね、ここ」
「とりあえず、座ろっか」
「ですね」
二人で芝生に腰を下ろす。そして、空を見上げる。
「うわ、すげぇ……」
「すっごい綺麗……」
思わず息を飲み込む。空にはすごく鮮明に、幾つもの星が瞬いていた。
「綺麗ですね」
「ね、ホントに綺麗……」
「いや~すごい綺麗……ダメだ、綺麗以外の台詞が出てこない……」
「そうね。でも実際そうだからしょうがないわよね」
「ですね~」
…………。
……二人でしばし会話もせずに星をじっと眺める。いや~、こういうのを吸い込まれそうな星空って言うんだろう。
どこまでも広がっていて、月に負けないくらい光っている。
「あ、ほら穣くん。あそこにカシオペア座があるよ」
「ん? どこですか?」
「ほら、あそこ。見えるかな」
「あ~見つけました。あの星座って、確か一年中見ることができるんですよね?」
「うん、そうだよ。よく知ってるね~。ちなみに、カシオペア座を目印にすると、北極星も見つけやすいんだよ。……ほら、あそこに光ってるのが北極星だね」
「どれどれ……あ、分かりました。何だか、他の星よりも輝きが強く見えますね」
「北極星だからかな? 地球から見ると全く動かないように見えるし。いや、北極星を中心に他の星が回ってるって言ったほうがいいのかな」
「なるほど、不動の星のエースなんですね?」
「あはは、良く言えばそんな感じかな~。あ、そして北極星を含めてこぐま座、そしてあっちに見えるのが白鳥座だよ~」
「さすが天文部、正座には詳しいですね~」
「ふふ、独学ではあるけど、一生懸命調べたからね~。結構詳しいと思うよ」
「せっかくですから、色々教えて下さいよ」
「うん、いいよ」
――それからしばし、先輩の正座のお話に耳を傾けながら、星に見とれた。
…………。
「――いいですね、たまにはこういうのも」
「ふふ、星の魅力に気付いてくれたかしら?」
「はい。何ていうか、星の歴史とか、そういう話を聞くと、如何に自分がちっぽけなんだって思いますね。あ、もちろんマイナスな意味ではなくて……そういう長い長い年月を重ねてこういう幻想的な空があるんだって思うと、より良さが分かりますね」
「でしょ、でしょう? あれだよね、こんなことで悩んでても仕方ないって、ポジティブな気持ちになれる気がするよね」
「そうですね」
「……あたしが星に興味を持ち始めたのも、そういう気分にさせてくれたからだったな~」
「そうなんですか?」
「うん。子供の頃に、どうでもいいことで凹んで、すっごく嫌な気持ちになった時に、偶然この場所を見つけてさ。そこで見た星空がとーっても綺麗で、心の嫌な気持ちを吹き飛ばしてくれたんだよね。カッコよく言うと、心の黒い部分を照らして消してくれたっていうのかな。それ以来、嫌なことがあったり、気分転換したい時はここに来て、ぼんやりすることがあるの。もちろん、夜じゃなくてもね? ここから見える街の様子とか、夕日とかも綺麗だから」
「夜になっちゃうと、一人で来れないですもんね」
「あの時のあたしは夜でも平気だったんだけどね~。今は一人で来れない若輩者です」
「いやいや、そんなことないですよ」
「一瞬でパッと来れる魔法が唱えられればいいけど、今のあたしにはそれが唱えられないからね~。でも、いつか使えるようになりたいね。ここに夜に一人でも来れるように!」
「応援しますよ、俺は」
「ふふ、穣くんの方が先に唱えられるようになったりして、魔法の成績はとってもいいって聞くしね」
「いやいや、そんなことないですよ。でも……先輩に唱えられるようになって、ってお願いされたら、一生懸命練習すると思います」
「ホント? じゃあ是非お願いします。そして、あたしをここまで連れてって?」
「分かりました。できるようになったらすぐに教えます」
「頼りにしてます」
「……先輩」
「ん? なぁに?」
「今ふと思ったんですが、そんな思い出の場所に、俺みたいな奴を連れてきて大丈夫だったんですか? 俺は連れてきてもらえて嬉しいですけど、自分だけが知るお気に入りの場所じゃあなくなっちゃったから……」
「――そんなところまで気にしてくれるなんて、ホントに穣くんは優しい子だね」
「いや、そんなことはないですが……」
「もちろん、気にすることはないよ。誘ったのはあたしの方からだし、誰にも知られたくなかったらここで星を見なくてもいいんだから。それに、想いを共有してくれる人がいるのはとっても嬉しいよ。穣くんは、あたしが心を許した後輩くんなんだからさ」
「……何とももったいないお言葉です」
「せっかくだし、気に入ったんなら穣くんもこの場所使ってくれていいからね? もともとあたしの場所ってわけでもないけど、結構良いスペースだと思うよ」
「そうですね。じゃあ、使わせてもらいます」
「是非是非。……誘ったのが穣くんでよかった。やっぱりあたしの目に狂いはなかったね」
「俺も、先輩に誘ってもらえて嬉しいですよ。何なら星を見に行くって時は声をかけてもらいたいくらいです」
「ホントに~? そんな嬉しいこと言ったら……結構な頻度で声をかけちゃうよ?」
「構いませんぜ、先輩のためなら何とやら……です」
「素晴らしいね。……誉めてあげよう」
「ありがたき幸せです」
「あはは。――あ、流れ星じゃない? あれ!」
「え? マジですか!?」
「うん。また来るかな? …………あ、あったあった、ほら、あれ!」
先輩の指差した方向に、確かに星が流れている。
「ほ、ホントにすごいスピードで流れて、消えて行きますね」
「でも、綺麗だよね」
「願い事するチャンスですか? これは」
「うん。次見つけたらしようよ」
「ですね」
――二人でキョロキョロと、星が流れていないか確認する。そして――見つけた。
「先輩、ありました!」
「ホントだ、願い事!」
二人で星に向かって両手の指を絡めてお祈りポーズ。
「…………」
「…………」
「願えた? 穣くん」
「間に合ったかは分かりませんが、一応しました」
「そっか。……お決まりの流れだけど、何を願ったの?」
「ありますね~その流れ。でもあれですよね? それを口にしちゃうとダメなんですよね?」
「一般的にはそうだね」
「じゃあ……ノーコメントってことで」
「やっぱり?」
「ですね。まあ、願わなくても叶いそうなことってだけ言っておきます。大きすぎる願いは、星には荷が重いかもしれませんから」
「…………今の台詞、ちょっとカッコいいよ穣くん」
「ホントですか?」
「うん。普段ストッキングが~とか言ってる人の発言には到底思えなかったよ」
「その単語が出てきてしまったからもう絶対何を発してもカッコよくなくなってしまいました」
「あ、余計なことしちゃった? あたし」
「大丈夫ですよ。自分でも自覚してますので。……ちなみに先輩は? どんな願いを?」
「うーん。――やっぱりあたしもノーコメントにしておこう。口に出さなくても消えない想いなら、想いも強まって叶いやすくなるかもしれないから」
「……先輩が言うと、感動が俺の台詞の比じゃないですね」
「えへへ、即興で考えてみたよ」
「いや、先輩には適わないな~」
「あはは、ありがとう」
――それからもうしばらく、俺たちはしゃべりながら星を眺めていた。




