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【ユリア編】 スターウォッチャー  その3

「…………」

「…………」

「先輩、ここに段差があるんで転ばないように気をつけてくださいね」

「う、うん、分かった」

 足で地面を確認しながら、先輩は俺の後ろを着いてくる。……俺の服の裾を右手でギュッと握りながら。

「後、どれくらいですかね?」

「そ、そうだね。後10分も歩けば、頂上だと思う」

「分かりました」

 ――学園を通り過ぎて少し行くと、大きくはないが自然に囲まれた通りに出る。そこから脇道に入り上ってくと、先輩お気に入りの観察ポイントがあるらしい。

 しかし、そこに向かう途中から外灯は徐々に少なくなり、今入った脇道にはほとんどそれがなくなっていく。だから懐中電灯が必要だったようだ。

 ――そしてもう一つ大事なポイント。それは――。

 ――バサバサバサ。

「おおっ!?」

「ひゃああっ!?」

「だ、大丈夫です。ただの鳥ですから」

「ほ、ホント? よかった……」

「……先輩」

「な、なぁに?」

「つかぬことをお聞きしてもいいですか?」

「うん」

「先輩……暗いところダメだったんですね」

「…………うん、そうなの」

 そう、懐中電灯がキーアイテムだと言ったのは、暗いところを照らす他に、先輩の精神の安定が関係していたのだ。

「暗いところを一人で歩かなきゃ命を奪われちゃう、とか言われたら歩けるけど、基本は一人じゃこういうところには歩けないし近づけないね……」

「そうだったんですね、今まで気付かなかったです」

「気付かれないようにしてきたからね。天文部の子たちは、もちろん話してあるけど……一人で歩けないくらいとまでは説明してないね」

「そうですか……」

「うん。だから、穣くんを誘ったんだ。女の子でもよかったかもしれないけど、何かあった時に男の子の力があれば心強いから」

「先輩の役に立ててるなら、嬉しいですが」

「これがバレちゃうのは恥ずかしいって思ったけど、それよりも星を見たいっていう想いが強かったから。……申し訳ないけど、この事は他言無用でお願いします」

「もちろん、言いませんよ。安心してください」

「うん、ありがとう」

「あ、でっかい石があるので注意してください」

「あ、うん」

「ちなみに、いつから何ですか? 暗いのが苦手になったのは……」

「うーんと、10歳くらいの頃かな。かくれんぼして遊んでいる時に、コンテナみたいなところに隠れたんだけど、その中であたし、ついお昼寝しちゃってさ。起きたらなーんにも見えない真っ暗な空間。夢かと思ったけど意識もはっきりしてるし、出たいけどカギがかかっていて出れないし……あたし、ギャンギャン泣いちゃって、その泣き声をちょうど通りかかった人が気付いてくれて、外に出ることができたんだ」

「なるほど……それは確かにトラウマになりますね」

「それ以来、暗いところはあっ……ってなっちゃうね。その時ほど抵抗は薄くなってるけど、まだまだ全然慣れてないわ。だから未だに、夜寝る時も豆電球は付けちゃうし」

「無理に治す必要もないと思いますよ。人間誰しも苦手なものはありますから」

「そう言ってくれると、ちょっと心も軽くなるよ」

「こんなこと言ったら失礼かもしれないですが、俺はちょっと安心しましたよ」

「安心?」

「ええ。先輩にも、そういう弱点みたいなのがあるんだな~って。先輩、頭も良いし美人だし、スポーツも魔法もできるしで、パーフェクトヒューマンじゃないですか」

「そ、そんなことないよ。みんなが勝手にそう言ってるだけだし」

「でも、大体の人はそう思ってますから。そんな先輩にもこんな一面があるんだな~って、俺個人的にはちょっと安心できました。……も、もちろん馬鹿にしてるわけじゃないですからね?」

「だ、大丈夫だよ。それは分かってるから。……そんな風に言ってくれるのは、穣くんだけだね」

「そんなことないと思いますよ」

「――じゃあ、今更隠してもしょうがないし、あたしの苦手なこと、ぜーんぶ穣くんに聞いてもらっちゃおうかな~」

「ええ? だ、大丈夫なんですか!?」

「うん、穣くんならそれをひっくるめてあたしっていう存在を受け入れてくれそうだから。穣くんにだけ、特別だよ?」

「俺にだけ特別……何だか興奮する台詞ですね」

「うふふ、先輩の、イケないところ、教えてあげる」

「イケないところ……おお~素晴らしい響きだ! ……うおお!? 段差に引っかかった! 先輩、足元注意してくださいね?」

「え? あ、わか――ひゃああっ!?」

「あぶな……と、とりあえず、早く頂上まで行きましょう。そしたらイケないところを教えて下さい」

「そ、そうだね。……このまま、裾、握らせてもらってもいい?」

「もちろん。最悪引き千切っても構わないですから」

「あはは。千切れたら穣くんを見失っちゃいそうだから、適度に握ってるね」

「もう少し、頑張りましょう」

「うん」

 俺たちは頂上目指して上っていく。


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