【ユリア編】 悪戯っ子世にはばかる? その2
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「じゃあな、穣」
「おう、また明日」
――放課後になった。今日の宿題は結構ボリュームがあるから、家に帰ったらすぐにそれを片付けたいところだ。面倒なこと……と言ったら失礼だが、そういうのは先に終わりにして、後からゆっくりするっていうのが俺の理想だ。大体の人は俺みたいに先にするか、最初に好きなことをして、ギリギリになって本気を出すタイプかに分かれるんだよな。個人的には、どうして後者の方を選択するのかが分からない。ほのか辺りに理由を聞けば解明するのかもしれないが……そこまでして知りたいとは思わないな。
みんな違ってみんないいって台詞もあるし。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺は教室を後にする。
…………。
――そういえば、朝、ここでユリア先輩のドッキリに思いっきり引っかかったんだよな。あれはなかなかのインパクトがあった。
さすがに、放課後までそういうのはやってこない、よな?
そんなことを考えていると――。
「あ、おーい、穣くーん」
マジかよ、また先輩の声が後ろから聞こえたぞ。しかも朝と全く同じ声の感じ。これは、まさかまたビックリさせてくるんだろうか? だが、ほんの8時間前に先輩に驚かされているんだ。いくら俺でもそう簡単には驚かないぞ。
――ここはあえて一回目の呼びかけに応じず、聞こえないフリをして歩くのもありだな。そうすれば、先輩もちょっと慌てて作戦を間違えるかもしれない。うん、そうしてみよう。俺は今の考えを実行に移してみる。
「ありゃ? 聞こえてないのかな? おーい、穣くーん」
わりかし普通のリアクションが返ってきた。……ひょっとして、普通に俺の姿を見つけたから声をかけただけ? と、とりあえず無視するのは悪いから振り返っておこう。
「あ、やっと気付いた。声かけても振り返ってくれないから無視されてるのかと思っちゃったよ~」
「すいません、考え事してて、ちょっと気が付かなかったです」
「そうなの? 考え事って、何か悩みでもあるの?」
「いや~、まあ、大したことじゃないですけど……」
まさか先輩にまた驚かされるんじゃないか心配してたなんて言えないぜ。
「そう? 何かあったら聞くからね? 仲良しの後輩君の悩みはあたしの悩みだから」
「お気遣いありがたいです」
「うふふ。――あ、見て穣くん、飛行機だよ、飛行機」
「え? 何処ですか?」
先輩にそう言われ、俺は指を差された方に顔を向ける。
「あれ? 分からないな、何処にあるんですか? せんぱ――」
「…………」
「た~~~っは~~~~~!?」
俺はビックリして飛び上がってしまった。俺の目の前にいるのは……骸骨のお面を被った先輩の姿だった。
「ふっふっふ、今回も大成功~!」
俺に向かってVサインを向けてくる。その表情はとっても満足気だ。
「どうだった? 穣くん。朝と今と、どっちの方がびっくりした?」
「え? いや、その……どっちも同じくらいです……っていうか先輩、どうして……」
「うふふ、朝、たまたま思いついた悪戯を穣くんにやったら、想像以上に驚いてくれたでしょう? それが結構嬉しくって、また悪戯したくなっちゃったの♪」
「そ、それじゃあ、今の何気ない会話も……」
「えへへ、迫真の演技でしょう? 本当はワクワクしっぱなしで抑えるの大変だったよ~」
「そのお面は?」
「これ? さすがに穣くんでも同じ手には引っかからないって思ったからね。何か使えそうなものは、と思って、演劇部から借りてきたの?」
「わ、わざわざ俺を驚かせるために?」
「うふふ、そうだよ?」
「……………………」
「あたし、そっち系統の演出家の才能あるかもしれないね」
「多分、トップクラスの演出家になれると思いますよ。……今だから言いますけど、先輩に声をかけられた時、若干身構えてました」
「あ、やっぱりそうでしょう? ちなみに、考え事っていうのも、あたしに驚かされるかもって考えてたんでしょう?」
「……はい、その通りです」
「やっぱり。えへへ、ますます自分に自信が出てきたよ~」
「俺はリアクション芸人の自信が少し出てきました」
「あはは、聞いたことないような声出してたもんね」
「自分でも初めて聞きました。人間ってあんな声が出せるんですね」
「あはは。――うん、二回目も想像以上に驚いてもらえてとっても満足♪ ありがとね、穣くん」
「え、いや、お礼を言われるようなことは……」
「そう? ……あ、ひょっとして、ちょっと怒っちゃったりとかしてる?」
「い、いえそれは思ってないですけど……先輩も、そういうことするんだなってちょっと思いました」
「えへへ、面白いことは好きだよ? でも、驚かせるっていう行為にはまったのは、今日の朝の穣くんの反応を見てからだからね?」
「そ、そうですか……」
じゃあ、これからも時々驚かされるかもしれないってことか? 先輩のブームが去るまでは?
「せっかくだし、途中まで一緒に帰ろう? 今日はあたし部活お休みだから」
「あ、はい。俺でよければ」
「じゃあ行こう」
――先輩の悪戯にまんまと引っかかった俺であった。




