【陽愛子編】 テニスプレーヤー陽愛子!! その3
…………。
「――ふっ! よいしょ! はっ!」
「いいわよ陽愛子、その調子!」
「はい! もう一度お願いします!」
「…………」(穣)
…………。
「――やぁっ!」
「お、今のスマッシュいいわね~! キレがあるわね」
「ありがとうございます!」
「よし、もう一回やってみましょう!」
「…………」(穣)
――そして、しばらくすると、夕方の5時を告げるチャイムが鳴り響いた。もうそんな時間になってたのか。
テニスの試合を観戦するのは楽しいと聞くが、確かに分かったような気がする。
俺が見ているのは練習風景なんだが、それでも迫力があって、身のこなしも美しい。
そして何より、普段ほんわかした空気を醸し出してる陽愛子が機敏にコートを動き回り、強烈なスマッシュを決めているのに圧倒された。何だか別人を見ているような感じである。あんな一面も持っているんだなって、今初めて気付いた。
現在テニスの練習はチャイムと同時に休憩に入っており、陽愛子は水分補給をしてベンチに腰掛けている。
「――時間も大分経ったし、そろそろお暇しよう」
自販機で買ったお茶をチビチビ飲んで時間を稼いでいたが、さすがに今はすっからかんだ。切り上げるにはちょうどいいタイミングだろう。
俺は立ち上がり荷物をまとめる。
…………。
「――ふう」
「お疲れ~陽愛子」
「あ、美希。ロードワークお疲れ様」
「そっちもお疲れ様。今度は陽愛子たちが行くのよね? 大丈夫? 大分息上がってるように見えるけど?」
「あはは、ちょっと頑張りすぎちゃったかな。でも、平気。良いイメージで動けたから気分はいいよ」
「そう。じゃあ、大丈夫ね~。あたしも頑張ろうっと。――あ、ふふ」
「ん? どうしたの?」
「うふふふ~、う・し・ろ」
「後ろ? …………あ」
…………。
――荷物をまとめ、さあ帰るかと思って立ち上がると。
「…………あ」
今まで俺の存在に気付いてなかった陽愛子が、俺に気付いて手を振っていた。その様子は――。
「…………♪」
はっきり見えないが、何処となく嬉しそうだ。……恥ずかしいけど、気付かないフリをするわけにはいかないよな。
「…………ん」
俺は陽愛子に同じように手を振り返し、拳を握って頑張れのサインを出した。
「…………♪」
陽愛子も、俺の真似をして同じジェスチャーを返した。
――結局気付かれてしまったが、嫌な顔されてないからいいか。よし、今度こそ帰ろう。俺は荷物を手に取り、帰路に着いた。
…………。
「…………♪」
「(上手い具合にあたしがいたのはみのるんに見えてなかったみたいね)」
「穣くん、どうしてあんなところにいたんだろう?」
「空き缶手に持ってたから、ちょっと休憩してたんじゃない?」
「そっか。もう帰ってるとばっかり思ってたな~」
「よかったじゃない? 応援してもらえて」
「うん、おかげで元気でたよ。この後のロードワークも頑張れそう」
「そう。じゃあ、あたしも負けずに頑張らないと」
「お互いにファイト、だね。じゃあ行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃい。(やっぱりみのるんに会えて嬉しそうね、陽愛子。……うふふ、あたしってやっぱりエスパーの才能あるかも?)」
……………………。
…………。
……。




