【陽愛子編】 テニスプレーヤー陽愛子!! その2
…………。
――ふう、無事に校舎から出ることができた。これで校長先生からのラブコールが飛んでくることはない。一安心だな。
「……お、あれは豊だな」
どうやら無事に間に合ったようだ。相変わらずすごい球を投げるもんだ。軽くキャッチボールしてるように見えるが、実際は結構な距離をとって投げている。俺が本気で投げて届くかどうか……やはり推薦で入った人間はモノが違う。
――今更言う必要もないかもしれないが、俺は部活動に所属していない。所謂帰宅部という奴だ。理由は特にない。入学当時は良い部活があれば入ろうと思っていたが、そこまで心に響く部活はなかった。
まあ、この学園は部活動が強制ではないし、俺みたいな無所属も結構な人数がいるから気にはならない。だからってわけじゃないが、勉学には力を入れるよう意識している。部活もやってないのに成績が悪いなんて、最悪だからな。
ちなみに、陽愛子と浜中はテニス部で、ほのかは俺と同じ無所属、ユリア先輩は天文部に所属している。野中は……生徒会だから無所属なのかな? 聞いたことがないから分からない。
「陽愛子と浜中は、今日は部活やってるのか?」
教室に二人の姿はなかったから、今日は行っているのかもしれない。
「……ちょっとだけ、見に行ってみるか?」
そのまま帰ってもいいんだが、豊の様子を見たら二人の様子も気になってしまった。ちょっとだけ遠回りして校門を出るとしよう。
俺は踵を返し、テニスコートのある方へと向かった。
…………。
――さあ、二人はいるだろうか? あんまり近付いて部員に「あのメガネの人誰?」って思われたくないので、遠巻きに確認できる程度まで近付いて二人を探してみる。
……………………。
――お、陽愛子発見。どうやらラリーの練習をしているようだ。浜中は……見つけられないな。
「ひょっとしてあたしをお探しですか?」
「わぁお!?」
「うひゃあ! あ~、びっくりした」
「それはこっちの台詞だ!」
「いや、そんなにびっくりすると思わないでしょう? にしてもすごい声出たわね、外国人でもあんな発音飛び出さないわよきっと」
「浜中……何でお前はここにいるんだ? 陽愛子はあそこでテニスやってるのに」
「何でってコートに限りがあるから、向こうがああやって練習してる間、あたしたちはロードワークをやるの。今はその最中よ」
「そうなのか。……というかその最中に俺に話しかけていいのかよ?」
「今は小休止の時間だから大丈夫。で、水分補給しようと思ったら、みのるんの姿があるじゃない? これは話しかけないわけにはいかないでしょうって思って、話しかけたの」
「別に話しかけなくてもよかったが……」
「え? そうなの? じゃあ何でわざわざテニスコートの方に来てるの? 校門はあっちにあるのに」
「……別に俺の勝手じゃねぇか」
「ひょっとして……あたしたちのアンスコを狙いに――」
「んなことするか! 俺はアンスコに興味なんてない!」
「……相変わらず大きい声で大胆な発言をするわね」
「お前がさせてるんだろうが~!」
「あ~ごめんごめん。分かったから興奮しないで」
「ふぅ、ふぅ……全く、浜中に絡まれるとろくなことがない」
「あら、ひどい言い方。……で? どうしてあたしたちの様子を見に来てくれたの? おぎっちの練習する様子見てたらテニス部のあたしたちも気になった……とか?」
「……お前、エスパーか何かか?」
「って返事を返すってことは、ドンピシャってわけね?」
「……俺は無所属だからな。他の人がやってる姿を見たくなる時があるんだ」
「そうなんだ。ま、別に悪いことじゃないんだし、隠す必要もないと思うけど」
「そ、そういうもんか?」
「うん、あたしはそう思うけど。どんな理由だって、友達が様子見に来てくれるのは嬉しいもんだよ~。……ほら、陽愛子にも声かけてあげなよ?」
「い、いやそこまでしなくていい。まだラリーの真っ最中だし」
「そう? じゃあ後でみのるんが見に来てたってお知らせはしといてあげるわ」
「それも、別にしなくていいんだが」
「も~、みのるんは変なところで恥ずかしがりやなんだから~」
「男っていうのはそういう生き物なんだ」
「あんなに性癖は曝け出すのに?」
「あれは俺の魂の叫びだ」
「魂の叫び……まあ、とんでもなく気持ちは伝わってくるものね」
「……そろそろお前も戻らなくていいのか?」
「え? ……後3分大丈夫」
「休憩時間目いっぱい俺に使うのかよ」
「どう時間を使おうがあたしの自由だもん~」
「…………」
「はい、じゃあ次はボレーで返してちょうだい」
「はい、分かりました! お願いします」
「…………」
「意外と上手でしょう? 陽愛子」
「そうだな」
普段のキャラや立ち居振る舞いを見ると、あまり運動は得意じゃなく感じるのだが……。
「人は見かけによらないってことよね。陽愛子、結構運動神経いいのよ。まあ、スポーツ推薦の子とかと比べちゃうと勝てないけれど、あたしたちみたいに一般入試で入った子の中じゃ、かなり上位の部類に入るわね」
「お前は、陽愛子に勝ったことあるのか?」
「うーん、練習試合は何度かやったことあるけど、五分五分って感じね。テニスってテクニック以外にも色々試合を左右するものがあるし」
「それは、テレビとかで見てると分かるな」
「でしょう? テニスに限らず、スポーツはメンタルも大きく勝敗に響いてくるものなの。言わば生き物なの」
「……浜中が言うと若干説得力に欠けるな」
「あら、失礼ね。あたしだって真面目なこともしゃべれるのよ? というか、その言葉そっくりそのままみのるんにも返せるんだからね」
「う……」
「まあ、もしよかったらしばらく見てってあげてよ。ギャラリーがあった方が気合いが入るから。とりわけ陽愛子は、みのるんに見られたら頑張れると思うよ?」
「はい?」
「陽愛子、結構みのるんのこと好きだからね。ああ、変な意味じゃなくてね? 友達として、結構気に入ってると思うのよ」
「そうなのか?」
「男友達としてはかなりね、本人がそう言ってたわけじゃないけど。ただあたしは、みのるんがいない時にみのるんの話が出てくるから、そうなんじゃないかなと思ってるわ」
「ふーん」
「嬉しいでしょう?」
「まあ、悪い気はしないが」
「あの子、男の子がそこまで得意じゃないからね。表には出さないけど、結構無理してるな~って時は見えるわ、近くにいると。だから、みのるんは唯一普通に話せる男の子の一人なのよ。ああ、後はおぎっちも」
「何か理由があるのか? 男が苦手になったのには?」
「あたしもそこまでは聞いたことがないのよね~。大した理由じゃないよっては言ってたけど」
「そうなのか……」
「美希~、そろそろ休憩終わりよ~」
「あ、分かったわ。――じゃあ、あたしは練習に戻ります。じゃあ、暇ならもうちょっと見てってね~」
「あ、ああ。……まあ、頑張れよ」
「ふふ、ありがと」
浜中は手を振って向こうへ戻っていった。
「ねえ、美希が今話してたのって、よく話に出てくるみのるんって人?」
「うん。ちょっと変わった趣味を持ってるメガネのお友達」
「おい!」
「えへへ」
――ちょっと見てすぐ帰ろうと思ったけど、あんな風に言われたらすぐには帰れないよな。
「――もうちょっと、見てから帰るか」
その前に飲み物だけ買ってこよう。気付かれた時のため、ちょっと休憩してるって雰囲気だけ出しておきたい。




