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第77話 「エレメンタル・リング」

色々と作っていて、こっちの更新がー!




「………っ!?」

「っ!?…サーっ……シャさ…ま…!!」


 抱きしめられて体温を感じることで、なんとか呼吸することができた。

 その頃には、自分たちにかかっていた威圧感プレッシャーも薄れて、平静を取り戻すことができた。


「ゴホッ…ケホケホッ…!!今、のは…」

「シュウさん…のようですね。無差別に魔力と殺気が放たれていたようです」


 馬車の窓から外を覗くと、ゴブリンの群れの前まで一息で、一人の男の人が飛んでいった。


「ゴブリン・キングが気圧されているようですね」

「あれだけの濃密な魔力の奔流(プレッシャー)に耐えられる者など、ほとんどいないでしょう」


 ただでさえ群れを作るという厄介な習性があるゴブリンと、一体でも居たら討伐難易度が上げざるを得ない、クラスを冠しているであろうソードマンやメイジ。

 そして、並みの冒険者が束になっても敵わず、上位の冒険者や騎士を動員しても少なくない被害を出すほど個体としても強靭だと認識されているゴブリン・キング。

 そのキングがいることで個体としても群れとしても強化された100を越えるゴブリンの軍勢。

 間違いなく国の軍をあげての討伐対象になるだろう。本来なら。


「本当に…敵には回したくないですね」

「ストロングホーンを含むラッシュホーンの群れと、ゴブリン・キングを含むゴブリンの群れが、数瞬の内に全滅ですか…」

「あれも魔法なのでしょうか?」

「分かりません…」






「『エレメンタル・リング』!!」


 クスノがゴブリン・キングに吹っ飛ばされて頭に血がのぼり、気付けば飛ばされたクスノに追撃をかけようとしていたゴブリン・キングの前に立ちはだかっていた。

 後ろにいるクスノを様子見すると、うめいて今にも立ち上がろうとしているようだ。とりあえず致命傷ではなさそうで良かった。

 僕の隣にはゴブリン・キングの剣を受け損なって、肩から血を流しているセナがいる。


「シュウさん…」

「大丈夫か?」

「ええ…まぁ、なんとか」


 セナと離れているクスノに向かって、光の回復魔法である『ヒール』をかける。

 今の僕の周囲には、バレーボールほどの大きさの4つの球体が僕を中心に回っており、そこに込められた魔力の量にゴブリン・キングは怯んでいるようだ。

 その玉は一つ一つが凝縮した魔力の塊であり、それぞれに『燃え盛る炎』『流動する水』『荒れ狂う風』『隆起する土』の4種類がうごめいている。

 普段使う魔法は、魔力を放出、変換する範囲を指定、変換する属性(方向性)を選択、発動という手順を通していて、場合によってはそこから飛ばしたりしている。

 しかし、このオリジナル魔法『エレメンタル・リング』は、先に放出から発動までを経た状態で固定し、そのまま動かすだけで攻撃と防御が可能な攻防一体の魔法だ。


「ガァァアアアアアアアア!!!!」


 魔力の圧力に怯んでいたゴブリン・キングが斬りかかってくる。

 剣の軌跡と僕の間に、炎の玉を配置する。

 そして、剣が振り抜かれた後には、炎の玉に触れて半ばから熔けてなくなった剣が、ゴブリン・キングの手に残っていた。


「『エレメンタル・フレイム』」


 炎の球体を撃ち出す。

 すると、殴った球体の中から新しい炎の塊が生まれ、寸分違わずゴブリン・キングの体へと沈んでいった。

 その瞬間、圧縮された炎の魔力が解放され、爆音とともに紅蓮の炎となって空高く昇っていく。

 後には僅かな燃えカスすら残らず、ゴブリン・キングが装備していた金属だろうが骨だろうが魔石コアだろうが関係なく、跡形もなく焼き尽くされ消えていった。

 っと、炎を使うと後ろに見える森が燃えそうだし、炎を使うのは控えないとな。

 4つの球体(エレメンタル・リング)を回転させて、土の玉を正面にえる。


「『エレメンタル・アース』」


 今度は魔力をまとわせた手で土の玉を殴ると、石のつぶてが飛んでいって生き残っているゴブリン・メイジへと突き刺さる。と同時に、ゴブリン・メイジの体を食い破って石の花が咲き誇る。


「ギ……ィ…ガッ!」

「ゥギィ…!!」


 よし、これでゴブリンとラッシュホーンの群れは終わったな。


「キィイイ!!」

「キィィィイイイイ!!!」


 鳴き声に振り返ると、レインムル山の上空から向かってきていたバラバムとハーピィの群れが、姿形がはっきりと分かるほど間近に迫っていた。


「『エレメンタル・ウィンド』」


 飛行する魔物の群れに向かって風の玉を弾き飛ばす。

 玉に込められた魔力に反応して、バラバムとハーピィが散開する。が、残念。その行動は、風の玉には逆効果だ。

 風の玉が散開した群れの中心で弾けると、周りへと逃げた魔物に向かって無数の風の刃が無差別に襲い掛かる。

 風の刃が通った後には、血のついていない(・・・・・・・・)バラバムの蝙蝠のような皮膜、ハーピィの羽、鉤爪かぎづめのある足、首、胴体、魔石などがバラバラと雨のように降ってくる。


「キィィ!!…グッ…ギィ!!!」

「キェェエエエエ!!!!!!」


 そして、数秒後に傷口が思い出したかのように血を溢れさせて赤い雨を降らせた。いや、あまりの数の多さにゲリラ豪雨を通り越して真っ赤な滝へと変化した。

 うわっ…自分でやっといて思うけど、グロいな…。やり過ぎた。

 一瞬の内に、空にいた魔物は全て肉片となり落ちて血の海に沈む。

 サーチフィールドで周囲を探り、他に魔物がいないことを確認する。うん、森の中から出てこようとしたゴブリンとラッシュホーンの残党は、うちのスケルトン部隊が片付けている。

 あぁ…クスノがやられて、ついカッとなってエレメンタル・リングを使ったけど、やり過ぎちゃったなー。

 『フリーズ・ロック』で氷の彫像と化したゴブリンとラッシュホーンの群れ。その中に転がるように佇む、ゴブリンの血で赤く染まった毬栗いがぐりのような岩。

 ストロングホーンを蹴り飛ばして地面を抉った軌跡に、土の玉(アース)で穿たれ隆起したデコボコした地面。

 人も馬車もこのままにしておいたらくぼんだ穴にはまるな。

 後で、ちゃんと直しておこう。


「セナ。動けるか?」

「あっはい。大丈夫です!」


 エレメンタル・リングを解除して、クスノの方へと歩いていく。


「クスノ…大丈夫?」

「………」

「クスノ?」


 俯いたまま、動かないクスノを心配してしゃがみこむ。


「…大丈夫」


 顔を覗き込もうとしていた僕から逃れるように、立ち上がって馬車の方へと歩いていく。

 聞こえた声は、ちょっとだけ震えていたような気がする。垂れ下がっている尻尾がよりそう思わせたのかもしれない。

 ゴブリン・キングの体当たりは、当たり所が悪ければ命を落としかねないほど危険なものだった。

 車と生身でぶつかるようなもので、無事ではいられないだろう。

 ヒールで回復はしたけど、ちょっと心配だな。

 魔法で窪んだ地面を平らにならし、自分が倒した魔物を全部回収していく。

 ゴブリンの群れは適当にダンジョンボックスへと放り込み、ラッシュホーンは状態の良いものと悪いものを大雑把に分けてダンジョンボックス内へと振り分ける。

 状態の良いラッシュホーンだけでも群れの半分ぐらいの数が残り、ざっと50頭は越えていた。

 ダンジョンボックスがあるから大量にあっても困らないけど、何頭かはゴルドーさんに譲ってしまおうか。結果的に護衛対象を危険に曝しちゃったしな。魔力での無差別の威圧もちょっとやっちゃったし。

 同じように細切れになったバラバムとハーピィの群れも、血だけ抜き取ってダンジョンボックスへと放り込む。

 ダールソンさんから教えてもらった呪い関係の話で、血液が大量に染み込んだ土地や地面をそのままにしておくと良くないとの事で、地面に染み込んだゴブリンやラッシュホーン、バラバム、ハーピィの血も魔力を浸透させていって掬い上げる。

 そして、凍らせて同じようにダンジョンボックスへと放り込む。

 スケルトンなどのアンデット系の魔物は、こういった血を使って強化することができる。

 使えなかったら光魔法で浄化してしまえば良いし。


「すごい数の魔物でしたね」

「そうですね………。このレモルンの町は聖都の一つ手前の町だけあって、教会が抱えている神殿騎士団によって出来得る限り魔物は排除されています。それだけではなく、冒険者への依頼も討伐系の依頼が多いのですが…」

「ゴブリン・キング率いる群れに、100頭を越えるラッシュホーンの群れ。レインムル山から餌を求めてきたバラバムとハーピィの群れ…どれか一つの群れだけでも、かなり危険なものなのでは?」

「シュウ殿がいなければ、我々も命を落としていたでしょう。シュウ殿にはいつも助けられてばかりですね」

「護衛としての仕事ですから。それに、ゴルドーさんには色々とお世話になっておりますから、気にしないで下さいよ」

「ありがとうございます。それにしても、何故これだけの魔物が集まってきたのか…」


 確かにそれは謎だな。

 いくら魔物とはいえ、動物と同じように食物連鎖がある。

 草食であろうラッシュホーンに、それを狩る側の人型種のゴブリン。

 それに、一匹に対して群れで襲うバラバムとハーピィ。これらが一緒に襲ってきたのもおかしい。それも、レインムル山を大きく離れた平地にまで出てきた。

 シグ曰く、こういう時はより強力な魔物に住処を追い出されたり、住処の周りの環境が急激に変化して餌を求めて大移動する場合があると聞いた。

 しかし、ダンジョンボックスに入れる前に見たバラバムとハーピィの細切れにした部分を見ても、特別に痩せ細っているわけではなかった。

 少なくとも餌に困って山から離れた平地にまで出てきたわけではなさそうだ。

 後は、ダンジョンから一時的に溢れてくることがあるとも聞いたけど…コアを残して消えた個体はいなかった。

 3~4種類の魔物が一斉に襲ってくるなんて…この近辺に何か異常でもあったんだろうか。






 豪華そうな部屋の中に、扉をノックする音が鳴る。


「入れ」

「失礼します、アホーダ枢機卿。報告に上がりました」

「ふんっ。レモルンの町が少なくない被害を出していることだろう?」

「…アホーダ枢機卿。それに関して誠に言いにくいのですが………レモルンの町はほぼ無傷です」

「なんだとっ!?何かの間違いではないのかっ!!」

「その…報告によりますと、丁度町の近くに来た冒険者が非常に優秀だったらしく………ゴブリンやラッシュホーンの群れどころか、レインムル山からも下りてきていたバラバムとハーピィの群れ…それぞれ100を越える群れにも関わらず、全てが討伐されたとのことです」

「馬鹿なっ!!!」


 握り締めた手を机に叩きつける。

 ありえない。

 それだけ集まっていれば、神殿騎士団すら少なくない被害を出せる規模だぞっ!?

 クソッ!態々、使い捨ての冒険者に薬と称して、シザーアントのフェロモン袋を破かせて魔物を引き寄せたというのに…!!

 聖女による呪い解呪の優先権をチラつかせて利用した冒険者諸共、レモルンの町を魔物に始末させる計画が台無しではないかっ!!


「それで、サーシャ王女の殺害の依頼をした『蛇の牙』を捕まえて邪魔をした冒険者は今どこにいるっ!!」

にわかには信じがたいのですが………」

「何だ、もったいぶらずに言えっ!!」

「その…報告によると、その魔物の群れを討伐したのはその冒険者とのことです…」

「そんな馬鹿な話があるかっ!!!」


 そいつらが生き残るどころか、本命の…呪いをかけた王女の馬車を足止めすらできんだとっ!!?

 間違いなく土砂崩れを起こしたはずだぞっ!なんで、あの山を越えてこれるっ!!

 日数的に迂回していてはこんなに早く辿りつける訳がない!

 となれば、土砂崩れが足止めにすらなっていないということではないかっ!!あの役立たずどもめっ!!

 クソッ!クソッ!!クソッ!!レインムル山に人為的に土砂崩れを起こさせ、馬車が山を迂回するルートを通る間にレモルンの町を潰してさらなる時間稼ぎをする計画がっ!!!


「嗅ぎ付けられるとも限らん。冒険者は始末しておけ」

「よ、よろしいのですか?」

「構わん!やつら(・・・)を差し向けろ」

「分かりました」


 なんとしても、聖都に辿り着く前に王女を葬らなければ!!




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