第74話 「事故 の ような 故意」
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土砂降りの雨の中、レムートの町の外壁を飛び越えて山道を駆ける。
岩で出来た山ではあるけど、一歩一歩踏むたびに踏んだ場所が脆く崩れ去る。
ちょっと強く踏み抜いただけで、崩れるような山だ。
こんな山なら土砂崩れぐらいあるだろうと思う。
爆発と閃光が見えなかったら…だけど。
ステータスに任せて問題の場所へと辿り着くと、馬車が何とか通れるだけの道に、人が通る隙間がないほどの大岩が道を塞いでいた。
それと同時に、雨の中でも僅かに漂う何かが燃やされたような異臭がした。
やはりというか、誰かが山の一部を爆発させて、意図的に道を塞いだようだ。
サーチフィールドを大岩の向こうまで広げていくと、立ち去ろうとしている人が何人か確認できた。
どうやら、山越えの道を進もうとしているようだ。
魔力で空中に足場を作り、道を塞いでいる大岩を越えてその人たちを越えて着地する。
大岩を背に、僕に挟まれた男たちには、崖下に落ちるしか逃げ場がない。
「よっ…と!」
「「「………!!!」」」
ふむ。目で確認すると3人。
思ったより少人数だな。
すぐに臨戦態勢に入ったあたり、結構場慣れしている感じがする。
何者なんだろうか。
「何者だっ!!」
「それはこっちのセリフなんだけど」
3人いる内の一人の男が、剣を抜き放ちながらこちらに言葉を飛ばしてきた。
あ、急いで出てきたから剣とか宿に置いてきちゃったよ。
まあ、いっか。ガシューさんには悪いけど、ほとんど使う機会ないだろうし。
相手はソードマン(剣士)が一人、スカウト(斥候)の男が一人、ウィザード(魔術師)の男が一人。
「こんなところで何をしていたんですか?」
「はっ!てめぇに話すことはねぇよっ!!」
「そうですか。じゃあ、無理矢理にでも話してもらいましょうか」
「―――足枷となれ!!『アースバインド』!!」
ウィザードの男が地面に手をつき、僕の足元から岩の手が出て足に絡みつこうとする。
足元に気を取られた隙に、ソードマンの男が突きを主体に足と手を狙って僕に攻撃してきた。
足止めして、接近戦に持ち込む。不意を討つには良い手だな。
ソードマンの男が喋っている間に、ウィザードの男が詠唱していた。
しかも、土砂降りの雨の中では、魔法の詠唱は聞こえにくい。
それを合図もなく上手く使った良い連携だった。
僕が並の人であれば。
足元から伸びていた岩の手を踏み潰し、突きを放ってきたソードマンの剣を、剣の腹を指で押すことで軌道をズラす。
そして、攻撃の動作で隙ができたソードマンの頭を、魔力を込めた掌で叩く。
「ぅがっ!!」
それだけで、ソードマンの男が崩れ落ちた。
そして、僕が攻撃した隙を狙うように飛んできた投げナイフの腹を叩いて落とす。
すると、その後ろに同じ軌道で飛んできていた矢を、慌てることなく同じようにして途中で叩き折る。
「無駄な抵抗はやめて、おとなしくしてくれませんかね?」
「くそっ!なんだこいつは………!!」
「魔物が山を下りないように、道を塞ぐだけの簡単な仕事じゃなかったのかよっ!!」
「へえ、それは誰に依頼されたんですか?」
足元に落としたナイフを、男たちの後ろにある岩陰に向かって投げる。
「そこにもいるでしょう。出てきて下さい」
「………さっきのを防がれるとは思ってなかったわ…」
そう言って、弓を持った女が出てくる。アーチャー(弓使い)か。
飛んできていた投げナイフと時間差で同じ軌道に放ってきただけあって、腕はかなり良いんだろう。
さっきのウィザードとの連携と良い、『蜥蜴の尻尾』とは明らかに違うちゃんとしている冒険者だ。銀級以上であるのは間違いない。
こっちが一人だったのに油断なく攻撃を加えてきたし、ちゃんと隠すべきことを隠している。
「もう一人、その岩陰に隠れているでしょう?出てきて下さい」
「………本当にとんでもない奴だね」
アーチャーの女の後ろから、もう一人獣人の女が出てくる。
鑑定して見るとアサシンで、うちのスケルトン・アサシンであるテールナーとスケルトン・アーチャーのツァロと同じく『隠形』という気配を消すスキルを持っている。
僕も、テールナーとツァロを相手にして隠れている気配に慣れていなければ、見逃していたかもしれない。
サーチフィールドは、全体をなんとなく把握するのには役立っても、ピンポイントで調べるためには調べたい場所を明確に意識しないといけない。
それにしても、この国で獣人は珍しいな。
レッゾルッソからレイラント神聖国へと入ったが、うちのパーティを除いて一度も見かけなかったぐらいだ。
よく探せばいたのかもしれないが、それぐらいこの国には獣人は少ない。
ドランさんのように呪われている人が、呪いを解きに来ることがあるとゴルドーさんに聞いてはいたんだけど。
「で、何故この道を塞ぐような真似を?」
「………俺たちが受けた依頼は、この山にいる大型の魔物を討伐するために、逃げ場である道を塞いでくれっていう依頼だった」
男たちが道を塞いだこの場所は、山の断面だけで見れば階段状になっており、その一つ一つが高さが10m以上もある。
まあ、幅3mの高さが10m以上のあべこべの階段ではあるけど。
片や10m以上もある人が登れないほどの直角の岩壁、片や足を踏み外せば命がないであろう崖。
いくら大型の魔物といえども、この高さで落ちれば無事では済まないだろう。
「それは誰から依頼されたものですか?」
「………ギルドからだ」
ギルド…ね。
本当にそうだろうか。
仮に本当にギルドから依頼を受けて道を塞ぐのなら、この人たちがレムートの町に近い方が良い筈だ。態々(わざわざ)近い町へ行く道を塞ぐようにする必要はないはずだ。しかも、こんな雨の日に。
このレインムル山では、コウモリのようなバラバムや人型の鳥であるハーピィなどの空飛ぶ魔物が多くいると聞く。
安全に帰るなら、レムートの町側にこの人たちがいるのが正しい。
「そうですか」
レイラント神聖国の最初の町、レッゾルッソでも『蛇の牙』の話は振っておいた。
レッゾルッソから物資の補給をして、僕たちは比較的ゆっくりと進んできた。
その間に早馬で知らせに行ったり、ギルド並みにどこかと連絡する手段があれば、『蛇の牙』という名前を出したということが伝わるだろう。
うちのパーティは、ただでさえこの国では目立つエルフや獣人、ドワーフを連れているし。
しかも、エリィはこの世界では呪いとして扱われている。
いくら呪い関係のものが集まるとしても、ステータスが見れる人はほとんどいない。
呪われているか呪われていないかの判断は、見た目でしかしていなかった。
だから、目印としては申し分ないだろう。
少しは『蛇の牙』の話に引っかかる奴らが出てきたのかな。
「何故、態々町に遠い方から道を塞いだんですか?近い方が安全でしょう」
「このままレモルンの町へと戻って、大型の魔物の討伐に加わる予定だからだ」
「あなたがたが、その大型の魔物に襲われるかもしれないのに?」
「それは…」
「それに、ギルドから大型の魔物に関して依頼されたのであれば、何故町の人が知らずに家から飛び出している人が大勢いたんですか?」
大型の魔物は町の人にとっては脅威だろう。
オーガやヘヴィフォレストなどの魔物が大量発生しただけでも、あれだけギルド内が慌しかったぐらいだから。
それよりも一回りも二回りも大きい魔物なら、ギルド間で連絡を密にして事に当たるだろう。
町の人に知らせない…なんてことはないだろう。
場合によっては、レムートの町自体が危なくなるような出来事なのだから。
「あなた方の言うことが本当なら僕が悪者になりますが、もし嘘だとしたら………問題ありですよ?」
「くっ…!」
「私が話すよ」
「スイファ!!」
「ありがとう、でもゴメン。………実は、私の妹が魔物にやられて重症なんだ」
獣人の女が話し出す。
妹ってことは、同じ獣人なのかな。
本来は6人パーティなんだろうが、今は5人しかいない。
「教会の治療を受けるにはとてもお金がかかる。それで、今回の依頼を成功させる報酬として、優先的に教会の治療が受けられるんだ。それも無料で」
うちにもエリィやクスノ、セナがいる。
例えレイラント神聖国が人間以外を嫌っていても、普通では治らないような病気や怪我、呪いなんかも治してくれる可能性がある。受けられるなら、受けたいだろう。
つまり、優先的に教会の治療魔法を受けさせようと口利きできるってことは、ある程度の権限は持っているだろう。
「司教ですか?それとも、もっと上の?」
「分からねえ。一応はギルドを通しての依頼になっているんだが、話を持ってきたのは僧兵なんだ」
「僧兵、ですか…」
それは、これから調べれば良いだろう。
元々、『蛇の牙』を通じて財宝や各種物資を集めさせていたのは、この国の教会関係者か、権力は小さいが王侯貴族辺りの誰かだと思っていた。
理由としては、態々(わざわざ)ルビーライト王国とレイラント神聖国の境に近い森を根城にしていたことと、アジトから伸びていた車輪の跡の方向から予測してのこと。
ただ、スケルトンとクロウに調べてもらった馬車の車輪は、途中でレッゾルッソを経由せずにレイラント神聖国へと持ち込まれていたことまでは分かった。
そこから先は、町に入るしか情報を得ることができずに、一つずつ町を調べていくしか方法がなかった。
雨で多少足止めされたとはいえ、最短距離の山道をご丁寧にも自然災害に見せかけて塞ごうとしたなら、このレインムル山の向こうのどこかにいるやつが指示を出している可能性が高い。
レムートの町はサーチフィールドで探った限り、それほど高位の人間が常駐していないようだったし。
「それで、依頼された内容の詳細は?」
「レインムル山の、レムートの町側の道を塞いでくれ、と」
「それだけですか?」
「ああ。できれば、塞いだ後にレモルンへとすぐに戻って欲しいってことだったからな」
「大型の魔物に関しては、ギルドかどこかで話に上がったりしましたか?」
「いや。ただ、ここ数年ぐらい魔物の数が増えているという話がギルドではよく挙がっている。それが今回の道を塞ぐことと関係があるかは分からないが」
そっちはまあいっか。
大型の魔物に関しては、高さが4~5mぐらいの岩で道を塞ぐだけで通れないぐらいの魔物なら、相手をするのも特に問題はないし。
大きさだけでいえば、『森木』のダンジョンのギガントトレントよりは小さいだろう。
今回の話、『蛇の牙』とその溜め込んでいた財宝に関わっていなければ、割と素直に話が聞けたんだけどなー。
冒険者ギルドが色々な国にあるとしても、国に置かれている以上はある程度その国と繋がりができるものだろう。
そうなると、権力が絡んでくるのも仕方ないのかな。
まあ、レモルンへと戻るこの人たちに、監視役をつけさせてもらおう。
僕の目的は、あくまでも『蛇の牙』に関係するやつらだしな。次にダンジョン。
魔物の素材とかはついでだな。
「そうですか」
その後、いくつか質問を重ねていく。
今は、これ以上のことは聞けそうにないようだ。
そのまま、そのパーティを送り出した。
当然のように監視役も送り出した。
依頼の成否を報告するため、その依頼を持ってきた僧兵と接触するだろう。
その後は、教会関係者に接触するだろうから、それをスケルトンやクロウを使って監視する。
場所か人が分かれば監視の方法なんていくらでもあるしね。
スケルトン・アサシンに潜入させるとか、スケルトン・アーチャーに遠くから見張らせるとか。
さて、後はレムートの町の冒険者ギルドで今回のことの情報収集と、ゴルドーさんたちへの事情説明だな。




