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第73話 「足 止め」

第55話と第56話の間にキャラクター紹介を入れました。よろしくお願いします。





 一騒動あったが、無事にレイラント神聖国の西端であるレッゾルッソに入ることができた。


「一先ず、冒険者ギルドへ向かいましょう。この盗賊たちに関して依頼が出ているかもしれません」

「分かりました。お願いします」


 冒険者ギルドに入って受付に辿り着くまでに、周りからジロジロと見られた。

 黒髪黒目は珍しいし、日本人って童顔だから実年齢より下に見られるとか聞いたことあるな。

 まあ、盗賊たちを一括ひとくくりにして引きってきたからなんだろうけど。


「ようこそいらっしゃいました。本日はどういったご用件でしょうか」

「ルイズリーの町から来る途中で盗賊を捕まえたのですが、盗賊関係の依頼が出ているかの確認をお願いしたいのですが」

「少々お待ちください」


 ギルドカードを見せながら話しかけると、すぐに奥へと向かって行った。

 しばらく待つと、ギルド職員の人が複数人連れて、地図と依頼書を持ってやってきた。


「どの辺りか、位置を教えていただいてもよろしいでしょうか?」


 広げられた地図を元に、馬車でかかった日数を計算して伝えていく。


「ありがとうございます。では、上に伝えてまいりますので、少々お待ちください」

「はい」


 盗賊を引き取ってもらい、冒険者ギルド内を眺めながら待つ。

 冒険者ギルドは、どこも同じような作りなんだな。

 これなら、どの町の冒険者ギルドへ行っても違和感なく入れそうだ。

 上に伝えてもらったのか、ギルド職員が一つの袋を持ってやってきた。


「お待たせしました。こちら、報奨金になります」

「どうも」

「ただ、アジトの確認をしますので、行き先などを教えておいていただけると…」

「一応、聖都へと向かう予定です」

「分かりました。そちらの方へと連絡させていただきます」


 盗賊は依頼書が出ていてもいなくても報奨金が出るんだとか。

 襲ってくる敵を排除してくれることは、旅をする者にはとてもありがたいらしい。

 一応ギルドの方でも、報告した情報を元にアジトがあるであろう場所を確認しに行くとのこと。

 盗賊団『蛇の牙』も結構なお宝を溜め込んでいたし、一応スケルトン2~3体向かわせて回収させておくのも良いかもしれない。

 ついでに『蛇の牙』について聞いてみると、ルイズリーの町と国境であるレッゾルッソの間に構えていただけあって、こっちでも結構な知名度があった。

 ただ、ギルド間で連絡する魔道具があるらしく、すぐに話が回ってきたそうだが。


「戻りました」

「どうでしたか?」

「報奨金を少しもらえました。アジトの確認があるとのことで、一応行き先を聞かれました」

「そうですか。それで、この後なのですが…」


 ゴルドーさんの話によると、食料などの買い込みや準備、情報収集で2、3日滞在するらしい。

 だから、ゴルドーさんが補給などに動いている間、娘を少し気にかけてあげてほしいと言われた。


「分かりました」


 僕たちがやることと言えばセナの魔法の特訓ぐらいで、後は休憩時間にエリィたちと町を回ってみるぐらいだ。

 セナの魔法の訓練と言っても、手をつないで魔力を送り込んで魔力を感じ取るやつだから、場所もとらないし。

 そして、今はゴルドーさんに宿の場所を教えてもらった後、セナの魔法の訓練のため、人のいない場所を探していた。もしも魔力を暴発させた場合を考えると、ね。

 行き着いた場所は、宿の裏に馬車の馬を世話する厩舎きゅうしゃがあり、宿との間に裏庭とも呼ぶべき丁度良いスペースがあったので、宿の人に許可を得て使わせてもらうことにした。

 一度、試しに皆で町を歩いてみたけど、エリィやクスノがいるからか、周りからジロジロとした目線を向けられた。

 目的が観光とゴルドーさんには言ったけど、入り口の町でこれだけ不躾ぶしつけな視線を向けられるとは…ちょっと甘く見てたな。

 これは、聖都に向かうにつれてもっと酷くなるだろう。

 この状態で僧兵の相手は特に面倒そうだ。何もなくてもいるだけで突っかかってきそうだな。

 一応、初めて見る食材や料理は購入して、アイテムボックスに入れておいたから良いんだけど。

 裏庭では、コンコンと木がぶつかる音が響いている。


「あっ」


 サーシャちゃんが、もう何度目になるか分からない声を出す。

 けん玉に手こずっているようだ。ただ、諦めるような素振そぶりは見せない。結構負けず嫌いなんだろうか。いや、単に楽しんでいるだけかな。それなら嬉しいけど。

 その隣では、一緒にけん玉やお手玉をするエリィとクスノがいる。

 それを横目に見ながら、手を繋いでいるセナに指示を出す。


「はい、そのまま指先に集中して」

「はい!」


 触れた先端からセナへと魔力流し込む。


「どう?」

「うーん………分かるような分からないような」


 さっきからセナへと魔力を流しているんだけど、エリィやクスノのように、何かを感じ取れる兆候が見えない。

 片や魔力の集合体の精霊に好かれる種族、片や並行詠唱で魔法を使えていた逸材。

 慣れが足りないだけかな。

 まあ、エリィもクスノも一回目からできたわけじゃないし、気長にやっていこう。

 どっちにしろ鍛冶で魔法を使えるようになっても、旅の間はそうそう作ることもできないんだし。


「じゃあ、ちょっと流す量を多くするよ」


 やっぱり、呪いが魔力を感知するのを邪魔しているんだろうか。


「今度はどう?」

「うーん、照れますね。こういうのは」

「真面目にやってくれ…」

「いやー!こういうのは初めてなもので。エリィさんやクスノさんも、これをやったんですよね?」

「うん。まあ、すぐに使えなくちゃいけないってわけでもないし。僕が魔法で家を建てたのを覚えてるよね?」

「それは、もう!ばっちりと!!」

「家ほど大きいのじゃなくても良いから、例えば…こんなのとか」


 そう言って、地面から球体や立方体を出現させる。


「おおっ!!こんなにあっさりと!!」

「後は慣れればこういうのとか」


 普段作っている椅子やテーブル、ミニチュアの家、皿やフォークなどの食器、けん玉やコマ等々、次から次へと作っていく。


「はぁー…凄過ぎて参考になりませんねぇ…」

「難しく考える必要はないよ。ただ、地面にある土をこういう形にしたい、こうなって欲しいって具体的にイメージしているだけだから。物作りしていると、ある程度頭にはあるよね?」

「そりゃあ、まあ、完成形をイメージしないと、物作りはできませんけど…」

「後は、手を繋いでいる所から、魔力を感じ取れればできるよ。そこが一番難しいのかもしれないけどさ」

「………うーん。なんとなく、魔法を使っているなーっていうのは分かるんですけどねー」

「試しに足元に箱を作ってみたら良いよ。暴発しそうになったら、僕ができるだけ抑えるし」

「分っかりました!!やってみますね!!………うーん、魔法……魔法………箱をー…」

「………」


 気が付けば、その様子をサーシャちゃんが遊ぶ手を止めて見ていた。

 サーシャちゃんの顔が、驚きすぎて表情が抜け落ちてるように見える。

 ふむ。

 試しに土でサーシャちゃんほどの一輪の花を生み出して、左右にクネクネと踊らせてみる。手を叩いたら勝手に踊りそうではあるけど。

 ついでに手の部分に生やした葉っぱを、サーシャちゃんの目の前で振ってみる。

 ダメだ、反応がない。


「おおっ!こんな感じですかね!?」


 セナの足元に魔力が集まり、魔法が発動する瞬間。

 僕が魔力で抑えるのが甘かったのか、セナの右足の辺りで暴発した。しかも、小指の辺り。


「ああああぁあ!!!こ、小指が痛いですっ!!」

「………はっ!」


 サーシャちゃんは、ようやく正気を取り戻したようだ。






 ゴルドーさんの準備がつつがなく終わり、予定通りレッゾルッソに2日滞在して出発した。

 そして、レッゾルッソの町を出発して、3日ほどの位置にあるレムートの町に到着した。

 このレムートの町は、レモルンという町を挟めば、聖都という位置にある町だ。

 ただ、このレムートとレモルンの間には、レインムル山という山があり、その山を越える険しくも短い北側の道を行くか、グルリと山を回って行く平坦で長い西回りの道を行くかを選ぶことができる。

 ただし、短い方である山越えは、バラバムというコウモリのような魔物や、ハーピィという鳥の翼の腕と足には鋭い鉤爪かぎづめの生えた人型の魔物が襲ってくることがあるとても危険な道。

 その代わり、平坦な道より遥かに早い日数でレモルンを経由して聖都に着くことができる。

 平坦で比較的安全な西回りの道は、大陸中央にあるロイヤル湖という湖沿いの道を進むのだが、レインムル山がある所為で、地理的には一度戻る道を行かねばならない。

 ゴルドーさんは旅を急いでいるため、短距離である山越えを選ぶようだ。

 そして、レムートの町について4日目。

 山越えのための物資の補給をして、そろそろ出発しようかという時に、雨が降ってきた。

 そのため、雨が止むまで出発が延期になった。

 雨の降る山に行って、足を踏み外して転落なんてしようものなら堪らないしな。

 徒歩で登っていっても危ないのに、馬車ごと転落なんてしたら洒落にならないし。


「雨…ですねぇ」

「そうだな」


 あてがわれた宿屋の一室で、手を繋いで座っているセナが、窓の外を眺めながらつぶやく。

 あからさまに特訓に身が入っていないようだ。

 それもそうか。

 この世界は、ビニールハウスなんてものはないから、雨が降れば農業は休みになる。

 同じように、冒険者も雨で足元が滑るかもしれない時に、魔物の相手をする人は少ない。

 魔物の攻撃が当たる時に足を滑らせる、と言ったもしもの時があっては命を落としかねない。

 そんな危険をおかしてまで、魔物を狩ったりはしないだろう。

 そして、駅地下街や室内で遊べる物が豊富にある現代と違って、室内遊戯というのは少ないらしいしな。

 町に繰り出す人も少ないようだ。本も、印刷技術が発達していない以上、読書もできない。それは、暇にもなるだろう。

 備え付けのテーブルを使って、卓球でもできるようにしようか。


「ただいま戻りました」

「ただいま」


 そんな風に考え事をしていると、エリィとクスノが帰ってきた。


「おかえり。どうだった?」

「ダメですね。やっぱり雨が降っているので、どのお店も閉まっていました」

「そうか」


 まあ、雨に対して傘のようなものはなく、あるのは雨合羽あまがっぱのような皮でできた外套がいとうだけ。

 仮に濡れた場合も、お風呂がある家自体が少ないため、外出する人がいなければ、お店を出しても人は来ないだろう。


「あっ」


 というセナの呟きが聞こえたと思ったら、ドォン!!という腹に響く音と地響きが伝わってきた。


「きゃぁっ!!」


 エリィがすくみ上がったと同時に、僕はすぐさまサーチフィールドを展開する。

 範囲を町の外壁まで広げると、町の中は問題なかった。


「何があった?」

「外を眺めていたんですけど、山の一箇所が光ったと思ったら、爆発が…」


 セナの言葉で窓まで行くと、山の一部から煙が立っている。

 レインムル山は、木がほとんど生えていない岩でできている山で、何か異変があれば、このレムートの町でもすぐに分かるようになっている。

 サーチフィールドの範囲を広げていくと、山から石や岩がゴロゴロと転がってきているのが分かった。


「シュウさん!!今の音は?」


 宿の部屋から出ると、ゴルドーさんも同じように出てきていた。

 この爆発と地響きについて調べるつもりなんだろう。


「僕は音のあったところを調査してきます。もしかすると土砂崩れの可能性があるので、ゴルドーさんたちはここに居てください。エリィたちはここに残ってゴルドーさんたちを頼む」

「はい、分かりました!」

「分かった」

「分っかりました!!」


 宿から急いで外に出て、雨の中を外壁まで走り抜ける。

 爆発音がレムートの町まで届いただけあって、土砂降りの雨の中でも人が通りへと出てきている。

 さて、面倒なことになっていなければ良いんだけど…。

 望み薄だろうけどなー。




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