第71話 「配下 の 意外 な 弱点」
ルイズリーの町を出発して3日。
レイラント神聖国の最初の町、レッゾルッソまであと3日というところで夜営をしていた。
今回の移動は馬車だ。
その馬車での移動中、スケルトン部隊には、襲ってきそうな魔物をすべて排除させるために、馬車から見えない距離で円で囲うように付いてきてもらっている。
もし、人に見つかりそうになった場合、隠れるように指示を出していたのもあって、他所の馬車や旅人とすれ違ってもトラブルにはならなかった。
ダールソンさんから教えてもらった隠密技術を元にスケルトン達を鍛えただけあって、ちょっとやそっとじゃ見つからないようになった。
隠れたり動かないようにするのには体力や気力が必要になるけど、アンデットだから疲労とは無関係だし。
というか、本当にあの人は魔法使いなのか疑わしくなるな。隠密技術がいる魔法使いって、何をやっていればその技術が身に付くのかさっぱり分からないな。
まあ、あの館の住人はどっちもおかしかったから、気にするだけ無駄だな。
あの主にしてあの従者あり、だな。
と、それはさて置き。
近付いてくる魔物を排除するところまでは良い。
その倒した魔物を、予め渡しておいたアイテムボックスに回収してもらうというのも大丈夫。
ただ―――
「へへへ、見ろよ。護衛が少なくねぇか?」
「だな。しかも、女が多いな。結構な綺麗どころが揃ってやがる」
「おい!見ろよ、あそこ!!髪の色はあれだが、エルフがいるぞ!?」
「あっちには狐耳族もいるじゃねえか。今日はツいてるな」
「とうとう、俺たちにもツキが回ってきたか?げへへ」
人に出会いそうになったら姿を隠すように指示を出してしまった結果、盗賊たちが近寄るのを許してしまった。
そうだね。魔物じゃないから排除しないよね。
サーチフィールドを張っているから大丈夫だとちょっと気が抜けていた。
要反省だな。
暗い森の中へと右手を向ける。
「じゃあ、そろそろ仕掛けるか。お前ら、しくじるんじゃねぇぞ?」
「分かってらあ。こんな上玉、逃したくはねぇからな!へっへっへ」
「合図を出すまで、抜かるな…ぎゃぁああああ!!?」
「あばばばば………!!」
まあ、サーチフィールドで会話は筒抜けだし、雷魔法ですぐに鎮圧できるから良いんだけどね。
白い閃光がバチバチという音を響かせながら闇夜を切り裂いた後に、人の倒れる音が聞こえてくる。
やっぱり魔物たちと会話ができたらなー…。
筆談で意思の疎通ができるようになっただけでも、かなり楽にはなったんだけどね。
最近は始めに教えた一部のスケルトン以外にも、文字の読み書きができるようになってきているし。
一つの部屋で勉強を教え合っているスケルトンたちの光景は、充分すぎるほどシュールだった。
夜の学校にでも配置されていたら、間違いなく怖いと思う。少なくとも僕は出会いたくない。
「シュウ殿、今の声は?」
「盗賊らしき集団が取り囲もうとしていたので、雷魔法で痺れさせておきました。なので、拘束してきますね。もしもの時のために、エリィたちを残しておきますので」
「は、はい。お願いします」
「あれが雷魔法ですか。馬車での移動中も思いましたが、探知魔法で半日ほど周囲を探り続けているだけでも規格外なのに、疲れた素振りも見せないどころか…」
「今、彼の者がやったのは、闇夜に隠れた盗賊を探知魔法で位置を特定し、見えない相手にたった一度で正確に雷魔法を当てて無力化しました。しかも、無詠唱です」
あれは本当に何者なんだろうか。
「確か彼は記憶喪失だとか…。以前の私も聞いたのかしら?」
「はい。ただ、その時は調べるように言われただけですので」
「何か分かった?」
「いえ。情報はどこにもありませんでした」
「そう」
「ただ…」
「ん?」
「町に流れている噂を集めた結果と、冒険者ギルドに出入りしている者からの情報を統合すると、盗賊団『蛇の牙』を始め、銀級の冒険者『蜥蜴の尻尾』を無傷で倒されたこと、先日ルイズリーの町の周りで起こった魔物の大量発生の時に、周りの少女を含めてかなり活躍していることをお聞きしております」
記憶にはないけれど、出会った時にからすでにかなりの実力を持っていた。
あの年齢でそれだけの実力を持った人が、何故今まで噂一つ聞こえてこなかったのかがとても気になる。
騎士や冒険者の中にも、実力者と呼ばれている人たちはいる。
でもそれは、同年代、同世代に比べてという意味でしかない。
「あれだけの魔法使い、あなたならどれぐらいまで戦える?」
「以前も申し上げましたが、完全装備でも5分と戦えないかと。私が仮に完全装備で臨んだとしても、銀級の冒険者6人を相手に無傷とはいきません」
あの年で稀代の魔法使い並みかそれ以上の魔法を使い、身体能力の方も王国でも上位に入る私の護衛を凌ぐ実力者。
そんな実力は、御伽噺や伝承に出てくる勇者や英雄でも限られている。
ましてや、誇張表現や拡大解釈がされている口伝や書物なら、余計に信憑性には欠けるというものだ。当てにはならない。
「あと、これはルイズリーの町防衛に関しての話なのですが…」
「何ですか?」
「今まで素人同然どころか、起き上がってられないほど病弱だった少女が、たったの1ヶ月ほどでオーガやヘヴィフォレストを仕留めるまでになったとか。しかも、一人で」
「………」
あまりの内容に、私は絶句した。
そんなことありえない。
普通の冒険者が6人パーティを組んでオーガを倒せるようになった場合、一人前扱いされる。
ただそれは、普通の人が何年もかけて地道に鍛え上げた結果、身に付く実力。
普通の人がどれだけ頑張ったとしても、パーティでオーガを倒せるようになれる人は冒険者全体で見ても少ない。
ましてや、一人で倒せるほどになる人となると、極々僅か。騎士団でも限られた人にしかできない。
「出鱈目ですね………。それで、本当にルビーライト王国やその他の国が、勇者………召喚儀式、をしたという情報はない?」
「いえ、今使えるものを全て使いましたが、情報はありませんでした」
「そう」
魔力の吹き溜まりができた時、魔物が形作られると言われている。
その中でも、人が近寄れぬほどの魔力が溜まると、ドラゴンなどの国が滅ぼされるほど大型の魔物が生まれるという。
そうならない様に、定期的に冒険者や国の騎士が魔物を狩ることで、大きな魔力が溜まる前に発散している。
もし、人の入らぬ秘境や絶海の孤島などで、その魔力溜まりができた場合、ドラゴンより上位の魔物が生まれる。
その上位の存在が、ほぼ全ての魔物を従え、魔物界の頂点に立つ存在。魔王、と呼ばれている。
勇者とは、その魔王が生まれた時に同時期にこの世界へと産み落とされると聞く。
他にも、強靭な魂を数百人単位で魔方陣に魔力を送り込んで呼び寄せ、魔力で体を再構成する儀式、召喚魔法で形作られることもある。
100年前にあった魔王との戦争も、この世界にいた英傑たちと、呼び寄せた勇者で倒したと聞く。
魔王という人智を超えた存在を相手にする為に呼び出す勇者。
これを、魔王もいないのに呼び出すとなれば、過剰戦力に他ならない。
もし呼び出していたら、武力による脅しで、戦争する間もなく全ての国が従わざるを得ないほどだ。
「もし彼が勇者であれば、家の者が大喜びでしょうね」
「はい、それは間違いありません。100年前の勇者も、我が国が召喚したというお話ですので」
勇者には、仲間の力を増幅する力があると伝え聞く。
もしそれが本当ならば、一ヶ月で強くなったという少女の話も頷けるというものだ。
「では、私が少し話かけるとしましょうか」
「危険です。その役目は私が………!!」
「彼の人となりを把握しておきたいのです」
「ですが……!!」
「それに、以前の私が感じた通りならば、盗賊に助けてもらった時に力尽くで従えられています。さらに言うのであれば、一緒に行動する限り、その危険は常に付き纏います」
「それは………そうですが」
「大丈夫です。それに、あれだけの力があるのです。もし彼に取り込まれた方が、逆に安全かもしれませんよ?」
「しかし………」
既に生殺与奪の権利は向こうが持っている。
もし殺すつもりがあるならば、いつでもできるでしょう。
それに接してみた限り、悪意のある感じはしません。
逆に悪意を隠すのがとても上手かったのであれば、私が人を見る目がなかったというだけのことです。
「今の私の立場はとても危ういものです。どちらにせよ後がありませんから、どこかで賭けに出ないといけないでしょう」
「それが、今である…と?」
「私はそうだと思っています」
「…分かりました。お気を付けて」
「っと、盗賊はこれで全部みたいですね」
夜営場所に盗賊をドサドサと積み上げる。
また近くにアジトでもあるんだろうか。
スケルトン部隊に探させて回収しておこうかな。
道中の魔物は、僕がサーチフィールドで探して弾き飛ばすか倒すかしておけば大丈夫だろうし。
「で、どうしましょうか。ゴルドーさん達は旅を急いでいるんですよね?」
「ええ、そうですね。ただ、シュウ殿のおかげで予定より早く進めています。魔物も出てきてませんし」
魔物は、人が近くで戦ってない限りは、うちのスケルトン部隊が掃除してるしなー。
始めの頃は、ダンジョン内のゴミ掃除をさせていただけあって、連携もバッチリで討ち漏らしもないし。
「次の町ってもうレイラント神聖国なんですよね?国境を越えても、盗賊って引き取ってくれますかね?」
「それは大丈夫です。盗賊はどの国にとっても脅威になりますから、退治してくれるだけでも謝礼は出ます。何より、全てのギルドの敵となりますから、町の入り口で冒険者ギルドにでも連絡してもらえれば、引き取ってもらえると思います」
「でも、手続きに時間かかったりしませんか?アジトの詳細とその確認なんかで」
「多少はかかるかもしれませんが、ギルド同士で連絡する手段がありますので、行き先を伝えれば報酬は別の町でも受け取れると思いますよ」
「そうなんですか」
そういえば、シャロンさんからそんな説明を聞いたような気がする。
ということは、地方へ行ってダンジョンを攻略してダンジョンワープで移動、っていうのは場合によってはやめた方が良いのか。
どうやって移動してるのかって聞かれても答えられなくなるし。
捕らえた盗賊たちは、ゴルドーさんと出会った時と同じように、魔法で作った馬車で引いていく事で話がついた。
なので、『森木』のダンジョンで手に入れた木材をセナに渡して加工してもらうことにした。
正確に言えば、僕が馬車を作ろうとしたら、セナがディティールがどうとかいって拘っていた。
職人魂が疼いたらしい。
盗賊を乗せていくだけって言ったんだけどな。
やっぱり物作りをやっているだけあって、セナは凝り性のようだ。
「お兄さん、どうぞ!」
「ありがとう」
盗賊を乗せる馬車が完成するまで時間がかかるようなので、サーチフィールドで辺りを警戒していると、ゴルドーさんの娘さんこと第三王女がお盆にお茶を乗せて差し出してきた。
どうやら周りの皆にお茶を配って歩いているようだ。
「お兄さんは、どこから来たんですか?」
「うーん………どこだろうねー」
「お家…分からないの?」
「目が覚めたら洞窟の中だったからね。森の中で会った親切な人が色々と教えてくれたけど、それ以外は全く分からなくてね」
まあ、前世で20歳ちょっとまでは生きていたってことまでは確実に思い出せているから、後は死因と享年が分からないぐらいか。
本当に何歳まで生きたんだろうね、僕は。
「………ごめんなさい」
「ん?何が?」
「……なんか………」
俯いて暗い顔をする王女。
それを見て、頭を撫でてあげる。できるだけ優しく。僕が気にしていないことが伝わるように。
「気にしなくていいんだよ。確かに記憶がないけれど、それで特に困っているわけじゃないしね」
「でも…」
「大丈夫。思い出せたこともあるし、全部が全部思い出せないことばかりじゃないしね」
「………そうなの?」
「うん。君にあげたコマやけん玉、お手玉があるでしょう?あれは、僕がいた所にあったものなんだ」
僕がいた頃は、光ったり妙な形になったりと、色々と形が変わったりはしてるけどね。
「これが…」
「シュウ様。ご飯ができたって」
「分かった。クスノはエリィたちと一緒に食べてくれ。僕は警戒してるから」
「良い。先にシュウ様が食べて。ずっと警戒を任せっぱなしだから」
「一緒に食べよ、お兄さん。もっとお話聞きたい」
「あー…うん、分かった。じゃあ、お言葉に甘えるよ」
「任せてください、シュウ様」
「エリィもありがとう」
ゴルドーさんから許可を貰って、第三王女と一緒にご飯をいただくことに。
奥さんことメイドの人も、申し訳なさそうに頭を下げていた。
僕と娘さんの分の器を受け取り、焚き火の近くで並んで座る。
僕はいつも通り、手を合わせて食事のあいさつをする。
やっぱり、こっちの世界で生活しても、根付いた習慣というものは変わらないものなんだなー。
それを見て、隣にいる王女が手を合わせる。
「「いただきます」」
「………ん?」
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