第66話 「偵察 と 監視 の 結果」
一緒にお風呂に入るエリィとクスノをなんとか躱し、小屋の外へ出て涼んでいると、ダンジョンの入り口から二つの人影が入ってきた。
ん?この場所がバレたか?と思ったのも束の間、その人影は真っ直ぐこちらへと向かってきた。
近くまで来ると、黒い布を被っていることが分かる。
っていうか、盗賊団の通った道を監視させていたスケルトン・アーチャーのツァロとスケルトン・アサシンのテールナーじゃないか。
肩には、もしもの追跡用に放ったクロウという鳥の魔物が止まっていた。
二人(?)は近づいてくると、一つの巻物を渡してきた。
喋れない代わりに文字を教えたんだけど…なんで巻物やねん。
「何々…」
ツァロとテールナーが書いた文書を読んでいく。
うわぁ…これは思った以上に面倒くさいことなってるな。
書いてあることに対して、いくつか質問する。
話せないスケルトン部隊に対して、できるだけYESかNOで答えれるように考えて質問しないとな。
人の言葉を理解はしているクロウからも、なんとか意思の疎通を図ってみる。
あー、なるほどなるほど………。
……面倒臭いことになってきたな。
盗賊団『蛇の牙』。あれだけ大量のお宝を溜め込んでいると思ったら、ルビーライト王国からレイラント神聖国に入るもの、また、逆に出て行く物の両方から強奪していたようだ。
その襲った中には、人を奴隷に落として人身売買をしていたようだ。
僕が助けたゴルドーさんの娘さんこと、ルビーライト王国の王女。しかも、呪い持ちであると分かってて襲った可能性が高くなってきたな。
………襲わせた依頼主がいるっていうことで。
その依頼主が、ルビーライト王国側なのか、レイラント神聖国側なのかは分からない。
ただ、盗賊団が溜め込んでいたお宝の類を、運んでいる先が間違いなくある。
しかも、僕が助けた上にお宝を横取りしたお陰で、ゴルドーさん達を含む王女が無事なのと、奪ったやつがいることがバレるのも時間の問題だな。
ルイズリーの町まで行けば、僕が盗賊団を捕まえたことがすぐに調べられる。
幸いにして、一緒にいれば目立つガルが、ダンジョンの表に出せないのが救いかもしれない。
盗賊団『蛇の牙』のアジトを訪問した人間を、隠形術に長けているスケルトン・アサシンのテールナーの追跡と、クロウというカラスのような魔物に監視させることによって、『蛇の牙』の関係者の場所はある程度絞り込めた。
…ちょっと面倒だけど、ギルドからお金を受け取ったら、レイラント神聖国に行く必要が出てきたな。
ただなー…。レイラント神聖国は、噂で聞いた限りじゃ人間至上主義らしいんだよなー。
エルフであるエリィ、狐耳族であるクスノ、ドワーフであるセナ。連れて行ってもルイズリーの町以上にいい顔をしないだろう。
………先入観でそう思われるって決め付けるのもよくないか。
もし、噂どおりの国なら、配下を使って迅速に関係者を当たって潰していけばいっか。
レイラント神聖国には神官とか多いみたいだし、うちのスケルトン部隊とは相性が悪そうだけど。
でも、スケルトン・アサシンとはいえ、町のそれなりの場所に入り込めたなら、いけるかも。
駄目だった場合、エリィたちには近くのダンジョンを攻略してもらうか。今のエリィとクスノなら、そうそう遅れは取らないだろう。スケルトン部隊をつけておけば尚のこと。
「ツァロもテールナーもお疲れ。とりあえず、明日の昼まで自由にしてくれ。ダンジョンの2階層なら自由に使っていいから」
頷いたツァロとテールナーを見送る。
鍛えただけあって、音もなく闇に溶け込んでいった。
「クロウ。お前たちも順番に休んでくれよ」
「クワァァア!!」
さて、お金の受け取りまで1、2日あるし、出来る限りのことはやっておこうか。
明日は忙しくなるな。
翌朝、起きるといつも通りエリィとクスノが僕の布団に潜り込んでいた。
いつも通り、って思ったらすでに手遅れじゃん。うん、駄目だな。
でも、クスノの尻尾はお風呂に入るようになってからフッサフサのモッフモフになった。
これに抗うことなどできない…!
物凄く気持ちが良いんだー!
まるで、冬に包まれる温かい布団のように。
これだけ気持ちが良いということは、冬にクスノの尻尾に触れたら、僕は陥落しそう。
それは危ないな。是非、このクスノの尻尾に匹敵する抱き枕を作らないといけないな。あと炬燵。
誘惑から抜け出し、食事の準備を始める。
今日は、セナがいるからうちの普通の食事を出すとしようか。
昨日の内に仕込んでおいたパンを焼き、野菜をトロトロになるまで煮込んだスープ、サラダ、ミルクや果実水等々。
パンに塗るためのバターと、ジャムを何種類か。
最近では、町の人との会話で得た知識を元に、色々とジャムの種類を増やしている。
こういうものはやっぱり現地の人に聞くのが一番だよねー。
僕では、作りたい料理があっても、似たような素材を探すところから始めないといけないし。
ただ、砂糖自体が希少みたいだから、甘味っていうと基本的に果物ばかりになるらしい。あとは、シュガーストローという背の低いサトウキビみたいな植物が極僅かな地域に生息しているぐらいらしい。
僕が旅に出る前に居た辺りには、逆に大木のように大きいものがあったんだけどな。あれは、ああいう品種なのか突然変異なのかは分からないけど。
「シュウ様、おはようございます」
「おはよう、シュウ様」
「シュウさん、おはようございまーす!…って、なんですかこれっ!?」
「ああ、おはよう」
テーブルに朝食を並べていると、三人が起きてきた。
「なんて豪華な…!今日は何かのお祭りだったりするんですか?」
「え、いや。いつもの食事だけど」
「これが…いつもの………!?」
「とりあえず、驚いていないで顔洗ってきなよ」
「昨日も魔法で家を建てたりと色々と常識外れだったけど、確かにこれならわたしの呪いも………ブツブツ」
セナは食事中、口に入れては驚き、喜び、顔の筋肉が緩み、最後には涙を流していた。
預かったりして大丈夫か、今頃心配になってきた。
まあ、感情表現が豊かなんだろう。
そういえば、エリィも随分と表情豊かになったなー。
引き取ったときなんて、まったく笑わなかったし、顔色を窺ってばかりだったしな。
「さて、突然のことで悪いんだけど、これからについてちょっと話すよ」
「はい」
「…何?」
「何ですか?」
三者三様の返事を返して、話を聞く体勢になる。
「急な話で悪いけど、明日ギルドからお金を受け取ったら、僕はレイラント神聖国へ向かうつもりだ」
「「えっ…!?」」
「………それは、私たちを置いていくってこと?」
「レイラント神聖国は人間至上主義らしいからね。皆を連れて行くと何をされるか分からないし、何が起こるか分からない。だから、嫌な思いをするぐらいなら連れて行かない方が良いかもしれないと思ってね」
「何をしに行くの?」
「僕が以前捕まえた盗賊団がいたんだけど、そのことでちょっと調べ物をね」
王女とその護衛と思われる人に、態々(わざわざ)あんな呪いをかけたんだ。
もし呪いをかけた人物が分かれば、僕以外に呪い持ちを見つけたときに、僕の呪いで上書きする必要がなくなる。
今後、セナのような知り合いが増えないとも限らないしな。
王女の呪いの種類も気になるけどね。
あからさまに王女とその護衛を苦しめるためだけの呪いだったしな。
ダールソンさんから聞いたのは、呪いの基本についてであって、呪いのかけ方は聞いていない。
「私は………着いていきたいと思います」
「私も着いていく」
「うーん、私も行きますよ。出来るだけ早く魔法を使えるようになりたいですからね!!」
「分かった。もし途中で辛くなったら、近くのダンジョンの攻略をお願いするかもしれないけどね」
スケルトン部隊も、今の内に配下召喚スキルで呼び出しておこうか。




