第62話 「私 の 救い」
あけましておめでとうございます。
5万PVいきました。ありがとうございますー。
■2017/01/07 55話の真ん中ちょっと下ぐらいに4行ほど追加しました。ダンジョンの階層数が減っていないことの説明を入れました。
■タイトルの横に「◆」マークが入っているものには、イラストが付きました。
私が物心ついた頃には、周囲から向けられる視線が、気持ちの良い物ではないことに気付きました。
侮蔑、侮辱、軽蔑などの汚物を見るような目で見られ、エルフの村の誰もが私のことを居ない子として扱っていました。
エルフの中でも産まれるはずのない白い髪と赤い目は、幼心にも私が他のエルフとは違う物だと認識するまでに、対して時間はかかりませんでした。
外に出れば同じ年頃の子どもたちに石を投げられ、同じ赤い血が流れていると分かっても、それはなくなりませんでした。
幸いにして、体が弱かったために怪我をすることはなくなりました。外に出るだけの体力がなかったのです。
子ども達にも、呪いだと思われたことも怪我をしなくなった原因の一つでしょう。
呪われた子に怪我を負わせた者が、同じように呪われないようにと親が言ったのもあったのでしょう。
ただ、そんな中、私が私でいられたのは、お母さんができるだけ私の傍に居てくれたからだと思います。
私のお母さんも私と同じように、生まれつき体が弱かったそうです。
そして、お母さんが亡くなって私が9歳の時、ある転機が訪れました。
私達エルフの村に、ある魔物がやってきたのです。
その魔物を討伐することには成功しましたが、村に甚大な被害を出してしまいました。
沢山の人が亡くなり、村にも村人の心にも深い傷跡を残したのです。
私のお母さんも…その時に亡くなりました。私を守って。
その魔物に襲われた事件から間もなく、魔物に襲われたという話を聞いたのか、偶々(たまたま)村へと立ち寄った人間の商人の人がいました。
そして、私を含めた何人かの孤児となったエルフを、援助と称して買い取りたいと言ってきました。
始めの方は、同族を売るなんてと話し合っていた村の人たちですが、村の復興のためにお金が必要だったので、援助と引き換えに引き取ってもらうことにしました。
私は、お母さんが亡くなったことで呆然としており、そのショックが抜けることなく村長の言うとおりに奴隷へと落とされました。
呪われた子として村に嫌われていた私は、丁度いい厄介払いができると思われたのでしょう。
引き換えに貰ったお金も相当な金額だった気がします。
「これだけの数のエルフが手に入ったのは運が良かったな。シザーアント・クイーンの魔物を引き寄せる香りを、戦争に使えないかと研究していたのが役に立ったな」
「他国でバラ撒けば、魔物が集まってきて、簡単に疲弊させることができますからな」
「その実験も兼ねてだったが、結果は想像以上だったな。ただでさえ手に入りにくいエルフの奴隷を援助という名目で手に入れることができた。それに何より、白いエルフが手に入ったのが一番の収穫だったな。奴らエルフは、呪いだとか言っておったが、そんなもんあるわけないだろう。馬鹿な奴らだ」
「仰るとおりで。それに、教会と繋がっている我らにとって、呪いは大した問題もないですからな」
「全くだ。本当に呪われていたとしても、聖女の力を借りれば済む。神聖教会は金が欲しい。我らは呪われた子を救う敬虔なる信徒として扱われる。両者にとって損がない良い関係だ」
「今回買い取ったエルフも、好事家達に売れますしな」
「ああ、これだけの数がいるんだ。一気に出すのではなく、教育と称して一人ずつオークションにかければ更に金を積む奴はいるだろう。教育と称して、自分の手元に置いても問題あるまい」
「そうですな。エルフは美男美女揃い。将来を見据えて我らに逆らえないように教育すれば、いくらでも使い道がありますな」
「特に神聖教会の教皇は、亜人を尋問と称して拷問にかけるのが大好きなお方だからな」
「そのお陰で、我らが儲けることができておりますがな。教会様様ですな」
「違いない」
「「はっはっはっはっは!!!」」
そんな会話が私の耳に入ってきましたが、当時の私にはどうでも良いことでした。
既に生きることを諦めていたから。
陽が昇って沈むのを何回も繰り返し、日にちの感覚もなくなりながらも、馬車で何度も移動しました。
始めこそお腹が空いて、出される食事を見れば気になって見たりしていましたが、食べない内にそれすらも気にならなくなりました。
気付いたら、一緒に買われたはずのエルフも、見かけなくなっていました。
そんな時、また魔物に襲われました。今度は馬車の移動中に。
そして、次に気がついたときには、優しそうな商人の家族に拾われていました。
耳にぼんやりと入ってきた話からすると、私以外の人は馬車ごと潰されていたようです。
何故私が助かったかというと、隔離用に入れられていた檻があったおかげで助かったみたいでした。
「ねーねー、お母さん。この子の髪、なんだかキラキラしてるー。なんでー?」
「そうですね。雪が降るところで生まれたのかもしれませんね」
「雪ー?あの真っ白なー?」
「そうです。その雪です」
「綺麗だねー」
「そうですね」
どうやら私を拾ってくださった人は、私とあまり歳の変わらない小さな子供のいる、夫婦で商人をやっている人に拾われたようでした。
商人さんは、奴隷が相手でも偉そうな態度を取ったりせず、食事もできるだけ食べさせてくれました。多分、良い人なんでしょう。
そして、いつもより激しく馬車に揺られたかと思うと、馬車が横転していました。
「あぅっ!!」
横転した衝撃で、私は檻に頭をぶつけて意識が遠くなりました。
「頭ぁ!呪われた奴隷がいます!!どうしやすか!」
檻にかけられていた布を捲って、私の顔を覗き込む人を確認した時に、盗賊に襲われたのだと初めてわかりました。
盗賊の表情から窺い知れた感情は、故郷のエルフと同じように汚い物を見るかのような目で、私は嫌でも呪われているのだと再認識しました。
(……嫌………なんで、私は生まれて…きたんだろう……)
その後、外で争うような音や空気が裂けるような割れるような音が聞こえたかと思ったら、ふわっと浮き上がる感触があった時に、私は死んだのだと思いました。
その直後に背中をぶつけた痛みが体に走り、その痛みが私はまだ生きているのだと実感させてくれました。
朦朧とした意識の中で、力を振り絞って少しだけしか開かない目を向けると、私の白い髪と対になる黒い髪と目を持った人がいました。
それを最後に見ると、私の意識は途切れました。
次に目を覚ますと、視界を遮る布が檻の上から取り払われており、馬車は野営中でした。
火を囲んでいる人たちの会話や雰囲気から、盗賊ではなく商人だと分かりました。
盗賊に捕まったわけじゃないと分かり、少しだけ体から緊張が抜けました。
(私、生きてるんだ………。って、あれ?体が…痛く…ない………なんで………?)
私は、どれぐらい気絶していたのかは分かりませんが、打ちつけたはずの頭と体には痛みがありませんでした。
檻の中という場所は変わってないけど、ようやく生きていると実感することができました。
身動ぎをした所為か、誰かが近付いてくる足音が聞こえて振り返ると、私と対称的な黒髪の男の人が目の前にいました。
「………っ!」
突然のできごとに、喉まで出掛かっていた悲鳴をなんとか押し殺すと、それに気付いたのか黒髪の人は少し困った顔をしていました。
「食事と水を持ってきたんだけど、食べられそうかい?」
質問を頭でなんとか考えている私に代わって、くぅという音でお腹が先に返事をしました。
「はははっ!お腹は空いてるようだね。いきなり多く食べると吐いちゃうかもしれないから、ゆっくりと少しずつ食べると良い」
恥ずかしくて顔が真っ赤になった私に、黒髪の人は優しく声をかけていってくれました。
(………あ…お礼。言い忘れ…)
この呪われた白い髪で生まれてから、私を見て優しくしてくる人なんて、お母さん以外にいないんだって思っていました。
でも、私を引き取ってくれた商人さん家族、それと食事を持ってきてくれた黒髪の人は、そういったものをあまり気にしないで接してくれました。
それが理解できた途端、私の両目から涙が溢れてきました。
「それが、シュウさんとの出会いなんですか?」
セナさんの部屋で、頭を寄せるように敷いた布団に入りながら、私とクスノちゃんとセナさんが会話をしている。
「そうです。私はこの髪と目だったので、他の奴隷の方とは別にされていたんです。呪いが他の方にうつらないように。シュウ様が言うには、呪いではないそうですけど」
シュウ様から聞いた説明は、難しくてあまり理解できませんでした。
ただ、この髪と目の色は体が弱いって言ってました。でも、シュウ様の言う通り、外に出るようになってからは寝込むこともなくなりました。シュウ様の言うことは正しかったです。
「へー、そうなんですかー!」
「初めは、男の子に間違われたんです…」
「え?そうなの?」
「はい…。私はエリオットという名前なので………」
なんで、お母さんが私に男の子の名前をつけたのかは、未だに分からないままです。
商人の人に名前を聞かれた時に、男の子だと間違われたのも覚えています。
だから、初めてシュウ様に出会った時にも男の子扱いされたのも、仕方がないことだと思っています。
シュウ様に、エリィという名前も名付けてもらえました。
「エリィという名前は、シュウ様が呼んでくれたんです。男の子じゃなくて、女だと分かった時に」
「私も助けてもらった。呪いの首輪で死に掛けていたから」
「良いですねー!私もピンチのところを助けてもらいましたし、是非旅についていきたいですね!」
「ダメ」
「何故ですっ!?」
「なんとなく」
「だったら、どうしたら一緒に連れて行ってくれるんですかー!」
「私達はシュウ様の奴隷として引き取られた」
「じゃあ私も奴隷になりますっ!!」
「えっ!?そんなに簡単に決めて良いんですか…?」
「大丈夫です!実際に接してみて悪い人じゃなさそうだと分かりましたし、そもそもお二人を見ていれば悪いことにはならないと確信できますから!!」
「分かった。でも、ダメ」
「ありがとうございますっ!って何でですかっ!」
「それは…」
ワイワイと夜が更けるまで、私達は話していました。




