第46話 「シードクラッカー」
11階層へと降りると、森がより一層と生い茂り、まるで熱帯雨林にあるジャングルのようだった。
気候もそれに近い。湿気が…。
「この階層は、ちょっと暑いですね」
「蒸し暑い…」
「そうだね…」
「キュィ…」
今まで以上に、果物や野草などの素材が取れそうな良い階層だな。
でも、これだけ視界や足場が悪いと、大分進みにくいだろうな…。
3人と一匹で進んでいると、サーチフィールド内に前方から結構な速度で何かが飛んできた。
「おっと!」
地面に剣の鞘で打ち落とすと、乾いた音とともに拳大の大きさの物が地面に埋まった。
なんだこれ?
「木の実…ですか?」
「そのようだね」
遠くの方を見ながら鑑定すると、あっちこっちに見える見える。
■名前:シードクラッカー
種 族:魔法生物・植物種
年 齢:11
性 別:不定
レベル:11
クラス:シードクラッカー
状 態:固定
●スキル:『種子生成Lv2』『砲撃Lv2』『狙い撃ちLv1』
シードクラッカーか。初めて見る魔物だな。
「シュウ様、これが落ちていた木の実」
クスノが拾った木の実を手に取ると、拳大で表面が皺々(しわしわ)の白い脳みたいな木の実だった。
んー?これどっかで見た覚えがあるな。
試しに割ってみると、白い岩のような種子が出てきた。
これってクルミじゃないか?
「あ、それ、ミルクルミ。食べれる」
「おっ!それは良いな。是非回収していこう」
ミルクルミに鑑定をかけて毒がないことを確認して、試しに少し齧ってみるとミルクのような濃厚な味がした。
「美味いな…!」
「私も欲しいです」
「私も頂戴」
「あいよ」
二人にも渡す。
これはパンやお菓子に合いそうだ。
というよりも、そのまま紅茶のお茶請けにするだけで十分な美味しさだ。
次々と飛んでくる木の実を、バレーボールのレシーブのように、剣の鞘に当たったら、その運動エネルギーに逆らわないように弾いて受け止める。
溝の真ん中にビー玉でも置いて、ビー玉を転がして当てると、転がした方が残って元々置いてあったビー玉が弾かれる。
慣性の法則だっけ。鉄球を幾つも合わせた振り子のCMとかあった気がする。
MOTHER、Mを取ったら…みたいなやつ。…多分、記憶が古いな。
素手でも取れるけど、毬栗みたいな物が飛んできたら嫌だから、剣の鞘を使っている。
というか、魔法で水球を作って受け止めたほうが早い気がする。
拳銃をプール内で撃った時に、5mも進まない内に勢いが止まるような動画を見たことがある。
それを、カラカラと音が鳴るクルミだともっと簡単に止まる。
中に空気があるからそんなに速度が出ないんだろう。
試しに射線上に水球を置いてみると、弾である木の実が当たった瞬間にチャポンという音がした後、水球の上の方に浮かんでいった。
正面だけでなく、周りからも飛んでくるようになった。
それを、周囲にいくつもの水球を生み出して浮かせておく。
「シュウ様、私も今のやってみたい」
「分かった。一番見やすい正面ので練習すると良い」
正面に浮かせていた水球を射線上から外す。
「クスノ、かなり早いと思うから気をつけてね」
「分かった」
試しに短剣で同じように受けようとする。
「危なっ!!」
「ゴメン、シュウ様」
クスノは、飛んできた木の実に短剣を当てるようにして振ったおかげで、こっちの方に弾き飛ばすように飛んできた。
多分力を入れて、振ったな。
クスノから短剣を鞘ごと借りる。
「もっと力を抜いていいよ。こんな風に剣を水平に持って、力を抜いているだけで…ほいっと。当たったら、弾かれた力に逆らわないようにその当たった勢いに任せて腕を引く。というか弾かれて良い」
「やってみる」
再度クスノが挑んでみると、始めの何回かはさっきと同じように正面や横に弾いていた木の実も、慣れたのかちゃんと受け止めることができていた。
「飛んできた勢いを後ろに逃がす…。なるほど、勉強になる。エリィちゃんもやってみる?」
「そうですね。ちょっとやってみます…!………きゃっ!!」
「おっと!エリィは逆に力を抜きすぎだな。はい」
「ありがとうございます、シュウ様。もう一度、やってみます」
弾き飛ばされた短剣を渡す。
その後、2回目からエリィはほとんどできるようになっていた。
力を抜くことに関してはエリィの方が上手いのかな。
50mほど歩いていると、ようやくミルクルミを砲弾のように飛ばしてきていたシードクラッカーを見ることができた。
シードクラッカーは高さが1mぐらいの植物で、木の実を吐き出している30cmほどの頭に口がついている。
拳大のミルクルミを砲弾のように勢いよく吐き出しているだけあって、頭を支える茎は太くてとても丈夫そうだ。
茎から生えている双葉が手のように動いていて、これでバランスを取っているのだろう。
さすがに近くで木の実を放ってくると、さっきのようには止められない。
まあ、今の僕なら目の前ですら、手で止められるんだけど。
剣の鞘でシードクラッカーに打ち返す。
[■シードクラッカーのコア:Lv11]
[■太い蔓:Lv11]
素材としてこの太い蔓は何かに使えそうだな。Lv1になるけど。
「それにしても大量のミルクルミが手に入ったな。まだ飛んでくるし」
「これはこれで結構売れる」
「ミルクルミを練りこんだパンとか美味しそうだよな」
「それは良いですね。とても美味しそうです!」
「名案。私も食べたい」
これでお昼のメニューは決定しそうだ。
昼食後、同じように進んでいると、ミルクルミ以外の木の実も飛んできた。
なるほど。僕の骨生成と一緒で、生成する木の実は任意なのか。
飛んできた木の実を確認してみると、クリのような形で簡単に二つに割れる木の実、アーモンドのような木の実、銀杏のような木の実と、色々な物が飛んできた。
これ、鑑定してみると毒があるわけでもなく、食用と問題なく出てたしクリ、アーモンド、銀杏そのままの使い道ができそうだ。
他にもカカオやコーヒーの実、ピスタチオまで飛んできた。
食べ物ばっかじゃないか。なんて良い場所なんだここは!
「色々な木の実があるんだなー」
「そうですね。見たこともないような木の実が一杯ですね」
今までと違う物が水球に入ってきたので手に取ってみたら、茶色で本来なら信号機のように3つの豆が袋状のものに並んで入っている―――
「大豆じゃねーかっ!!」
木の実じゃないよっ!?
大豆=枝豆。いや、種子という意味では一緒か。
確かに緑色で塩で茹でる枝豆まだ柔らかいけど、茶色までいった大豆は硬い。打ち出すのに必要な武器にはなるだろうけど。
それで良いのかシードクラッカー…。
大豆が飛んできたってことは、その内、小豆でも飛んでくるかもしれないな。
料理をする上ではとても便利な植物だな。
僕のダンジョンに帰ったら、シードクラッカーを多めに召喚するとしよう。
「こんなに楽をして良いんでしょうか?」
「え、何が?」
「これって当たると痛いでは済まないですよね?」
「あーそうだね。当たり所が悪ければ大怪我では済まないかもねー」
拳大の石が飛んでくるってだけでも、かなり脅威だと思う。
重さは兎も角、硬さは同じようなもんだ。
「どう見ても致命傷」
「だね。魔力を使えばあんまり脅威でもないけどね」
「そうなんですか?」
「そういえば、二人には魔力操作からの魔法の使い方しか教えてなかったっけ」
「他にも何か使えるんですか?」
「使えるよー。魔力を体に纏わせたり、体の中に維持すると…」
木の実が飛んでくる射線上に、僕の腕を差し出す。
すると、木の実が当たって大きな鈍い音がするが、僕は痛くない。
「い、痛くないんですか…?」
「へーきへーき。何か当たったかな?ぐらい。で、これをそこら辺の枝でも取って、魔力を纏わせると…」
指の太さもないような細い枝を、そこらの木から折って腕と同じように…いや、野球でいうバットでボールを打つように構える。
「ほいっと!」
飛んできた木の実をかなり強い力で打ち返す。
すると、簡単に折れそうな枝は欠けた様子もなくそのまま、飛んできた木の実の方が割れて中身をぶちまけた。あ、勿体無い。
「と、まあこんな感じに性能以上に強くなるんだ。エンチャンターの身体強化とか、クスノが短剣に炎を纏わせていた属性付与の類も大体同じ感じだと思う」
「シュウ様が変異種を斬った時のは?」
「あれは純粋に魔法かな?とりあえず、魔力操作ができると攻撃防御どちらも便利ってことだね。というわけで、やってみようか」
魔法を使ったときもそうだけど、ステータスを見る限り、MP消費が早くてあまり長くはやれないだろうし。
周りへの警戒を僕とガルでやり、エリィとクスノには無詠唱で魔法を使ったり身体強化の練習に励んでもらう。
僕は魔力切れになった二人に魔力を注ぐ。
飛んでくる弾は僕が防いでいるため、陽が落ちかける頃には13階層に辿り着いていた。
「今日もお疲れ。二人とも大丈夫?」
「暑いのもそうですけど…」
「ジメジメしてる」
「キュィ…」
「お風呂入れるし、魔法で湿度は保っておくから、ちょっと待ってね」
シードクラッカーの攻撃なら、石壁ぐらいなら壊せると予想できるので、今日はいつもとは違って外側からスライム、石壁、砂、石壁の順番で配置。さらに防音として空気、石壁と念には念を入れる。
これぐらいで大丈夫かな。
通気口の都合で、どうしても音が聞こえてくるのは仕方ないか。
さらに魔法で湿気を払い、室内の余分な湿気を吸ってくれるスポンジュウムという植物を置く。
大分快適になったな。
その夜は、外からガンガンとぶつかるような音が聞こえていた。
あ、これは逆に規則正しくて眠れそう。




