第45話 「10階層 の 主」
料理ばかり書いている気がします。あと、やっぱり戦闘って難しいですね。
翌朝、いつも通りエリィとクスノに抱きつかれた状態で起きた。
慣れたわけじゃないけど、一緒にお風呂入ったり、一緒に寝たりを当たり前にしてはダメな気がする。
じゃないと、僕の理性が………!
昨日はなんとかお願いして、寝巻きをネグリジェからパジャマに変更してもらった。
「おはようございます、シュウ様」
「おはよう」
「………おはよう」
うん。パジャマ姿は、ネグリジェに比べれば心穏やかで居られるね…!
なんて…思っていたのに…。
パジャマはパジャマで、体のラインが出る服だというのを初めて知ったよ。
ネグリジェが目に見える形(透けるって意味)で目の毒なのに対して、パジャマは見えないからこそ想像力を掻き立てられる。
しかも、二人とも寝起きで無防備なのがいかんね。
嬉しいけどね!
顔を洗って、キッチンに入る。
「今日は二人でパンとスープをお願いするよ」
「分かりました。今日はどっちにしますか?クスノちゃん」
「私がパンやる」
二人が役割を決めている間に、僕はボウルに黄鶏という鶏のような鳥の卵を二つ割る。
そこに牛乳と塩、砂糖を足して、菜箸を左右に動かしてダマがなくなるまで混ぜる。
ふむ、こんなものか。
フライパンに油を多めに引き、魔法で熱する。
ある程度温まってきたら、溶いた卵を流し込む。
固まってきたら、まだ焼けていない部分を少しずつ中へと包み込むように、フライパンを持っている手の手首をトントンと叩く。
うむ。いい感じに包めているな。
「ほっ!」
ポーンという効果音が放物線を描きながら皿に乗せる。
「うん。うまくいった」
それを続けて3つ作る。フライパンと魔力操作さえあれば、10人分一気に作ることも可能だ。
これも練習になる。飲食店で使えたら物凄い戦力になるだろう。
ふわふわオムレツの完成だ。
「ふんわりとしてとても美味しいです」
「ふわふわ…美味しい」
「それは良かった」
あとはブロック上に切った野菜を入れても美味しい。
次作るときはそうしてみようかな。
朝食後、ダンジョンの探索を開始する。
10階層まで進むと、高さ5m、幅3mぐらいの大きな樹の門が見えてきた。
「ボス部屋か」
「ボス部屋、ですか?」
「ああ、ボス部屋っていうのは…」
二人に簡単に説明する。
ほとんどゲームの時の知識だけど。
今まで戦ってきた魔物より強い固体、特殊な能力を持っている等々。
「変異種とは違う?」
「変異種はダンジョンのどこかに稀に出てくるぐらいだけど、ボスは純粋に強化された個体だな。ボスを倒せないと次の階層へいけないし。あとは入ったらどっちかが倒れるまで出れないっていうぐらい」
「出れないんですか?」
「変わりに他の魔物が途中で襲ってくるっていう心配がないけどね」
「後は、倒したら特別な物を残したりする」
「特別な物、ですか…それはどういうものなんですか?クスノちゃんは知っていますか?」
「残念だけど、私は知らない。そもそもこんな短期間で10階層まで下りるって事が異常」
「僕は知らないけど、どれぐらい探索者としてやっていれば10階層までこれるかクスノは知っているかい?」
「分からない。呪いがマシな時に、『蜥蜴の尻尾』は10年ぐらい探索者をやっているって聞こえて、20階層ぐらいが限界っていうのは聞こえた。使い捨ての奴隷を使って、だけど」
「うーん。1年で2層ぐらいか。確かにそれに比べれば早いな」
ダールソンさんに走らされて攻略させられたから、他の人の攻略速度を聞きたかったんだけど、一つの例じゃ判断がつかないな。
次に探索者ギルドへ行ったら、適当に聞いてみるか。
「普通は食料や装備などの入念な計画、地図を作って、危険がないかを確認して慎重に進む。じゃないとすぐに命を落とす。でもシュウ様はしっかりと休める場所を作れて、アイテムボックスっていう荷物要らず」
「大分楽な探索をしている自覚はあるよ」
宿屋より良い布団、食事処に負けない食事、貴族の生活でも一部しか使わないお風呂。
これって本当に冒険?って感じがするよね。
「そうですね。シュウ様のおかげで奴隷だった頃より良い暮らしをさせてもらっています」
「確かに。かなり健康的になった。むしろ、奴隷どころか貴族並の生活になってる」
「貴族並は言い過ぎじゃないかな。奴隷相手だろうが、ちゃんと働いてもらうなら、心身ともに健康じゃないとダメだと思ってるからそうしてるんだけどね」
衣食住は大事。
これで精神が病んでいたら、衣食住があってもそれをぶち壊しにするからな。
会話をしながらのんびりと扉を開ける。
これ本当にボスへ挑む人?って感じがする。
「じゃあ、入ろうか」
扉を潜ると、そこは50m四方の、周りの壁が植物が蔓延っている部屋だった。
中央へと進んでいくと、部屋の中心に魔力の靄のように集まって形を形成する。
あ、これって!
「エリィ!こんな感じだよ!魔法を発動させる時って。魔力に形を与える感じで」
「あの、シュウ様。今はボスと戦っているのですが…」
「シュウ様にとってボスは脅威にならない…と」
「なんかごめん」
二人に謝っている間に、魔物の形ができあがる。
そこにいたのは、5mほどの巨大なプランテスだった。
■名前:ジャイアントプランテス
種 族:魔法生物・植物種
年 齢:30
性 別:不定
レベル:10
クラス:ジャイアントプランテス
状 態:普通
●スキル:『毒攻撃Lv3』『酸攻撃Lv3』『遠隔操作Lv2』『自動再生Lv1』
よく見たら、プランテスの根元が地面に突き刺さっている。
自動再生があるのは、ここに根を張っているからか。
これを相手にするのは面倒くさそうだ。
「シュウ様、今度こそ私達に任せてください」
「リベンジする…!」
そういえば、変異種は僕が勢い余って倒しちゃったんだっけ。
「分かった。相手は変異種が持っていた毒、酸攻撃、遠隔操作のスキル以外にも、自動回復のスキルを持っているから気をつけてね」
「はい!」
「今度こそ…!」
クスノが前衛、エリィが後衛につく。
通常のプランテスどころか、変異種よりも太い蔓が幾重にも重なって二人に襲い掛かる。
クスノが短剣で切り飛ばそうとすると、蔓の中程までしか切れずに止まる。
「…っ!」
他の蔓が迫る中、クスノが短剣から手を離して後退する。
片手のみになった短剣で、どうするのかを見ていると、蔓が迫った瞬間に短剣に炎を纏わせて蔓を切り飛ばす。
クスノを追い詰めるかのように上から振り下ろし、下から掬い上げ、横からなぎ払うように迫る無数の蔓。
それを、上からくるのを横に避け、下から掬い上げるものに対しては同じように下から短剣を当てて逸らし、横からなぎ払うものに対してはしゃがんで躱す。
炎の短剣を当てたところからダメージを与えているが、それも微々たるもの。
クスノのステータスを見るとMPがちょっとずつ減っている。
常時、炎を出したままだと倒すより先に長時間戦うには向いていない。
このままだと、5分もしない内にMPが尽きる。
しかも、自動回復のおかげで、切り飛ばされて焼けて黒くなっていた部分が少しずつ元に戻っている。
エリィの方はと言うと、クスノとボスプランテスとの攻防の隙間に矢を放って、何本か当てていた。
それが中まで貫通していたのか、消化液が外へと垂れ出している。
矢が刺さったままなら多少なりとも栓の役割を果たすのに、消化液が強力過ぎて、刺さった矢を全部溶かしている。逆にそれが、自分の消化液で自らの外側にダメージを与えている。
しかも、その消化液でのダメージが自動回復の速度を上回って侵食し、自らの下に溜まって根を溶かし始めている。
これで、自動回復が使えなくなる。
ただ、エリィは兎も角、クスノはギリギリの回避とMPの消費で動きが段々と悪くなってきている。
クスノへの牽制が容易になれば、今度はエリィへと蔓の攻撃が伸びるだろう。
現在のボスプランテスのHPからすると半分も減らせていない。
ギリギリまで戦うと勝てるかもしれないけど、ちょっとしたイレギュラーがあっただけで負ける危うい状態。
さて、二人はどうするのかな。あっ、クスノが炎を解除した。
「…ふぅ………」
「…クスノちゃん」
「………ゴメン、エリィちゃん。できれば二人で倒したかったけど…」
「いえ、大丈夫です。私もできればそうしたかったですけど…」
「うん。シュウ様、助けて」
「良いのか?」
「良い。私達にはまだ早かった」
「お願いします、シュウ様」
「分かった。良い状況判断能力だな、二人とも」
手の平に魔力を集めて、二人の前に出る。
向かってくる無数の蔓を全て紙一重で避けて進んでいく。
そして、ある程度まで近付いて、腕を袈裟懸けに払って発動する。
「『シャープ・ブレイズ』」
振り切った腕と同じ方向に、灼熱の線が走って上下に分かれる。
その際、消化液が溢れることなく、熱せられた断面で消化液ごとボスプランテスが蒸発して消えていった。
蔓に食い込んでいたクスノの短剣が降ってきたのを、難なくキャッチする。
「………すごい、です。シュウ様」
「……シュウ様は規格外」
「二人とも、お疲れ」
クスノは、ある程度蔓を避けていたようだけど、何回か当たっていたのか蔓の跡がついている。
ヒールをかけながら二人を労う。
「意気込んだのに、情けない」
「そうですね…」
「いや、二人ともかなりすごいからね?ダンジョンのボスを、戦い始めて間もない二人で相手するっていうのは」
「シュウ様に言われても…」
「そうですね…」
「………」
ダンジョンを5つクリアした僕と二人を比べられても…。
それに、二人を引き取ってまだ10日も経ってないんだけどね。




