第41話 「クスノ の 服」
「な、な……」
狐耳族は社会の嫌われ者だ。服のためとは言え、クスノを不用意に連れてくるべきではなかったのかな。
いつでも動けるように警戒していると、ようやく意識が戻ってきたのかヨロヨロとこちらに歩いてきた。まるでゾンビのように。怖い。
「る、狐耳族………」
すると、突然ブワッと涙を流した。怖っ!
長身のオネエが、いきなり泣き出すあまりの光景にクスノがそそくさと僕の後ろに隠れた。僕の服を掴んで。
やめて!それだと僕が逃げられないじゃないか!
そんな僕らに救いの手が差し伸べられた。
「オリヴィエさん?」
エリィ!助かった!
今日の夕食に、デザート一品追加しよう!
「はっ!私ったら一体何を……」
無意識かいっ!!
正気失ってましたよ。
「大丈夫ですか?」
「ごめんなさいね。あまりの出来事に意識がトんでいたようだわ~。ところで今日はどういった御用かしら?」
「この子、クスノの服を―――」
「コーディネートしたら良いのね!?というかさせなさい!!」
「あっはい。お願いします」
鬼気迫る顔が近づいてきて、怖くて頷いてしまった。
トんでたって、エリィ以上に琴線に触れただけかよ。
「シュウ、シュウ様……!!」
ゴメン、クスノ!僕にはどうする事もできない!
夕食にデザート1品追加するから!
店内に拉致られたクスノを見送った。
「エリィ、クスノについてあげてくれ」
「わかりました。シュウ様は店内に入らないんですか?」
どうしよう。このまま店に入るの躊躇うな。
かといって、店の前にこのまま立っているのも手持ち無沙汰になりそうだな。
うん。クスノの方も気になるし、店に入るか。
エリィを店の奥へ送り出すと、奥の方からキャーキャーという黄色い声が聞こえてくるのを尻目に、その辺に飾られている服を見る。
普段遣いできる服が結構な数並べられていて、他にもちょっとしたおめかしが必要な公的な服、フリルの多いゴスロリ服、メイド服等など。
店長がカワイイと思った服が多いんだろう。
あっ、これはエリィに似合いそうだな。おっ、こっちはクスノに似合いそう。
値段を見ると、買えない額じゃない。店長がクスノに合わせた服次第だけど。
女ものの服を物色する男、傍から見たらただの変質者だな。
しばらくすると、3人がこちらへと向かってきた。
オリヴィエさんは物凄く生き生きとした顔をしている。とても満足な仕事ができたんだろう。
「シュウ様。どう?」
「う、うん、凄く似合うよ」
今回はなんとか返事は返せた。
気の利いたことは言えなかったけど。
クスノの装いは、元々美しい赤みがかった金色の髪を肩下まで伸ばしていたけど、今では頭の上に付いている狐耳の根元で括ってツインテールになっていた。
そして、紅白の短めのキャミソールと、同じ紅白に黒をあわせた着物のようなスカートを穿いていて、足元まで伸びる赤い外套を羽織っている。
足元は赤い鼻緒が目を引く黒い下駄のようなものを穿き、白い足袋のようなものを身に付けている。
紅白色の上下の服が巫女服のようになっている。
「………って防御面は!?」
腕、足、おヘソが露出ている。
これは防御面が不安になるな。
「大丈夫よ~♪これはこの外套に自動回復と軽い防護魔法の付与魔法がかかっているから、見た目以上に高性能よ~。これも前にシュウちゃんが投資してくれたおかげよ~♪」
「えーっと、エリィの服もそうでしたけど、相変わらず高価なものを………」
「物凄く楽しかったわ~♪シュウちゃんは知っているかどうか知らないけど、狐耳族って嫌われているの。だから、町によっては入り口で拒否するところもあるぐらいだから出会えるのってとっても珍しいのよ♪」
まあ、確かに。
町中を歩いてるときに獣人やエルフはちらほらと見かけたけど、狐耳族は一度も見ていないな。
「だから、一度でも良いから服をコーディネートしたかったのよね~」
「あ、そうだ二人とも。悪いんだけど、この服を着てみてくれないかな。店長、試着室お借りします」
「は~い。良いわよ~♪」
二人を見送った後で店長を招き寄せる。
「(店長、エリィになんてもの渡してんだ!!)」
「(あら、喜んでもらえたようでなによりね♪)」
「(そういうことじゃねー!!)」
「(あら、好きか嫌いかで言えばあーいうのお嫌い?)」
てめえ、この野郎。と言いたくなる。
好きか嫌いかで言うと、だと?
なんて卑怯な聞き方だ。そんなもの、答えは決まっている。
勿論。
「(好きです!というかその聞き方、卑怯ですよ)」
「(シュウちゃんも、ちゃんとした男の子で安心したわ~♪エリィちゃんには優しくしてあげられた?)」
「(ぶっ!なんてこと聞いてんですかっ!)」
「(あら、やだシュウちゃんたら~。私は手を出したかどうかなんて聞いてないわよ?)」
嵌められたっ!
「(っていうか、エリィちゃんから話は聞いてるから、手を出したかどうかは知ってるのよね~♪)」
このオネエめっ!
僕が黒い殺意を飛ばしていると、店長はどこ吹く風と受け流している。
「シュウ様、着替え終わりました。どうでしょうか?」
「どう?」
振り返ると、二人に渡していた衣服、寝巻きを纏っていた。
「うん。良い感じだよ。店長、この二つを買いますね」
チッ!店長め。命拾いしたな。
「ありがとう~♪じゃあその二つの服のお代だけいただくわ~♪」
「(あっ、そうだ。店長、リボンってありますか?編んだ髪をまとめるやつなんですけど)」
「(な~に~?もしかしてエリィちゃんの分?)」
「(はい。クスノのチョーカーと同じようにプレゼントしたいので)」
「分かったわ~。あと、これはシュウちゃんが付けてあげてね。クスノちゃんのチョーカーだから」
二人が元の服に着替えて、パジャマのお金を払い、外へ出ようとすると、
「(そうそう、さっきの話だけど…クスノちゃんにも同じデザインの色違いを渡しておいたからね♪)」
「!?」
急いで振り返れば、店長の姿はすでにそこにはなかった。
やっぱりあのオネエ、一度絞めねば。
ステータス的には僕のほうが高いはずなのに、捕まえられる気がしない。
「シュウ様、これを付けて欲しい」
クスノに手渡されたのは、黒を基調として真ん中に赤色のラインが入ったチョーカーだった。
「分かった。ちょっと顔を上げて」
「んっ」
顔を上げた分、白い首筋がよく見える。
そこに黒いチョーカーを着ける。
「はい、できたよ」
「これで私はシュウ様の物」
「エリィもこっちおいで」
「?…はい」
エリィの左側へ移動して、緑色のリボンを取り出して三つ編してある髪へと結わい付ける。
「クスノだけっていうわけにもいかないと思ってね」
「………!!はいっ!ありがとうございますっ!」
「うん、じゃあダンジョンへと戻ろうか」
「シュウ様、冒険者ギルドへは寄らないんですか?」
「ギルドか。そういえばクスノの身分証を作っておくか」
「首輪あるのに?」
「まあ、首輪は無いに越したことはないからね。できるなら作っておこう」
「分かった」
冒険者ギルドへと行き、中へ入ろうとすると背後に視線を感じて振り返る。
「シュウ様?」
「どうしかした?シュウ様」
「ゴメンゴメン、なんでもないよ」
中へと入りながら魔力を薄く広く延ばしてサーチフィールドを発動する。
ふむ。こちらを覗き込んでいる人はどこかへ行ったようだ。
「シュウさん。先日はありがとうございました」
受付のシャロンさんの所に行くと、いきなりお礼を言われた。何かしたっけ?
「えっと、僕、何かしましたっけ?」
「オリヴィエ店長に服についてお聞きしましたので」
「ああー!」
シャロンさんへのお礼として、エリィの服を見繕ってもらったときに、お金を余分に渡しておいたんだっけ。
「いえ、お礼を言うのはこちらの方ですよ。おかげで良い装備を手に入れられましたから」
「それは何よりです。それで、本日はどのような御用でしょうか?」
「この子、クスノのギルドカード申請をお願いします」
「分かりました。以前ギルド長が言っていた依頼に関しては受けていかれますか?」
「あー。それはまた今度でも良いですか?ちょっと今行くところがあるので」
「分かりました。ではこちらに記入をお願いします」
「私が書いてもいい?」
「うん、良いよ」
そうしてクスノのギルドカードもできた。




