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第35話 「クスノ」

今更ながら、あらすじを書き直したくなりました。

近日中に変えるかもしれません。


「ただいま戻りました!!」

「キュィ!」

「おかえりー」


 少し日が翳ってきた頃、軽く薪割りをしていた時にエリィとガルが帰ってきた。

 

「って、なんですか、これ!?」

「え、今朝エリィが出発していった小屋だけど」

「家ができています………」

「寝室しかなかったから、トイレとお風呂とキッチンを作ったぐらいだけど」

「町にある家より良い家です………」

「そうかな?精々お風呂ぐらいじゃないかな。町にある家にないのは」

「………」


 魔法で即席とはいえ、できるなら家作ったほうが早いと思うけどね。

 これからダンジョン攻略していくんだし。


「ところで今日は大丈夫だった?一度も帰ってこなかったけど」

「大丈夫です。なんだか体も軽かったので」

「へーそれは良かったよ」


 鑑定で見てみると、送り出す前より大分ステータスが伸びていることが分かる。


「あと、これが魔物から落ちた素材と魔石です」

「………すごいな。袋が一杯じゃないか」

「はい、頑張りました!」

「お腹空いているだろう?今日は腕によりをかけて作ったから、楽しみにしておいてくれ」

「シュウ様の作るご飯はおいしいので楽しみです」

「ありがとう。その内エリィにも料理を教えるから覚えてね。ちょっとした確認もしたいし」

「私にできるでしょうか?」

「大丈夫。簡単なものから覚えていけば良いから。あとは慣れだから」


 テーブルに、じっくりコトコト煮込んだシチューもどきと温野菜のサラダ、以前から作っていた酵母を入れて作ったパンとオランジュの果実水。

 ガルには、シザータートルの甲羅とフレイルウルフの尻尾を出す。


「シュウ様。質問なのですが、何故食器が3人分あるのでしょうか?それと、こちらのスープは今朝の残りですよね?」

「うん。その答えはこれから分かるよ」


 そう言って、クスノが寝ているベッドへと近寄る。


「さっきから起きてるよね?」

「………いつから」


 閉じていた目を、しっかりと(?)開けてこちらを見る。まだ眠そうにも見えるけど、分からないな。


「夕飯の仕込みをしている時から…かな。僕は離れている人が相手でもある程度の動きは分かるからね。その時間ぐらいから身動みじろぎや耳を動かしているのは気付いていたよ」

「……そう。あなたが…私のご主人様?」

「まあ、そうなるかな。僕の名前はシュウ。こっちはエリィ、そこで食事に没頭しているクロウラーがガルラドだ。ガルと呼んであげてくれ。よろしくな」

「私は……狐耳族ルナーユの…クスノ。ここは天国?」

「いや、残念ながら天国じゃないな。君は生きているし、首輪も外れているだろう?」

「…ない。苦しくない」


 驚いた表情…なのかな?あまり表情が豊かではないのかな、それとも、出さないようにしているのかよく分からないな。

 喋り方も淡々と喋るから余計にその印象に拍車を掛けているし。

 警戒されているんだろう。


「君を苦しめていた呪いならすでにないよ」


 僕の呪いで上書きしたからね。ただ、依然として呪われているけどねー。


「首輪もなくて、寝心地の良い布団、おいしそうな食事の匂い。………天国みたい」

「君は、呪いで常に瀕死の状態だったからね。そう思うのも不思議ではないと思うけど、今の状況が現実だ」

「そう。………私はこれからどうなるの?」

「とりあえず体が動かせるようになるまで休んでいるといい。お腹は空いているよな?食べられそうか?」

「私は奴隷…。食べても良いの?」

「働いてもらう以上、体が資本だ。そのためには十分な食事と睡眠をとって貰う」

「………そう。よろしく」

「ただ、今までまともな食事を取っていなかっただろうから、始めは具のないこのスープを飲んでくれ。どれぐらい空腹だったのかは分からないけど、いきなり普通の食事をすると、突然のことで体が受け付けずに吐き出してしまうことがあるらしいから」

「……分かった」

「もちろん、そのまま食べられそうだったら僕達が食べているのと同じものを用意するよ。量は十分過ぎるほど作ったからね」

「………ありがとう」

「それより、器は持てそうか?腕が動かしにくいとかないか?」

「…大丈夫」

「分かった。あと、他にもなにかあれば気軽に言ってくれ」


 頷いたのを見て、スープの入った器とスプーンを渡す。

 口数が少ないのかと思えば、質問したらちゃんと答えてくれる。


「………」

「さっ食べようか、エリィ」

「は、はい」

「いただきます」

「い、いただきますっ」

「………シュウ様はマシュラ出身?」

「ん?いや、違うけど。どうしてそう思ったんだ?」

「勇者が最後に住んでいたマシュラ出身か、勇者の血縁の人がその挨拶をするって、母様から聞いた。黒髪黒目だとも」

「そうか。でも、多分違うと思うよ。僕は2ヶ月ぐらい前に目が覚めたんだけど、それ以前の記憶がないんだ」

「記憶喪失?」

「そうだね。ちょっとずつ思い出せることはあるんだけど、マシュラの名前もここ最近になって初めて聞いたぐらいなんだ」

「…ごめんなさい」

「ん?何が?」

「知らなかったから。記憶喪失のこと」

「いや、気にするほどじゃないよ。僕も記憶喪失に関して、深刻に捉えているわけじゃないからね」

「…分かった」

「折角温かいから冷める前に飲むと良い」


 話で止まっていた食事の手を動かす。


「………おいしい」

「気に入ってもらえたようでなによりだ。そういえば、今日エリィはどんな感じだった?」

「あ、はい。始めは魔物を探すのに苦労していたんですけど、ガルさんが教えてくれて。その魔物を弓で倒していたんですけど、何回も繰り返している内に魔物がいるっていうことがなんとなく分かるようになってきて…」

「へー、すごいね。魔法は使ってみた?」

「いいえ、まだです」


 ふむ、なら…。

 その辺の床にある土や埃を扉の外へと掃除してみる。


「あっ」

「気付いた?」

「はい。シュウ様が、今、魔法を使いました」


 エリィにとって入り口は背中に近い。

 だから、見て判断したわけではないのは分かる。


「そっか。魔力を感じ取れるようになったのなら、魔法もすぐに使えるようになるかもしれないね」

「本当ですか!?」

「うん。ちょっとずつ慣らしていこうか」

「はいっ!」


 食事を終えて、3人で「ごちそうさま」をする。

 クスノはスープで体が暖まったのか、今にも寝そうになっている。


「眠いなら寝たほうが良い」

「………うん、そう…す…る」

「おやすみ」


 屋根はとっくに閉じていて、外に出てみると陽が落ちるまであと少しのようだ。

 魔法で、優し目の明かりを室内の何箇所かに作った後、浴槽をお湯で満たす。温度はこれぐらいで良いかな。


「エリィ、お風呂沸かしておいたから入っちゃってー」

「シュ、シュウ様と一緒…ですか?」

「え?いや、一人で。前はお風呂の入り方を教えようと思って一緒に入っただけだから。石鹸とタオルも置いてあるから自由に使ってくれ。僕は、これから朝食の仕込をしないといけないから」

「は、はい…」


 キッチンへと入り、朝食のメニューを考える。


「とりあえずパンは必要だから―――」


 朝食の仕込を終えて、アイテムボックスへと入れた後、寝室兼リビングへと入るとエリィが立っていた。


「あれ?エリィ、お風呂は?」

「あの、暗くて怖いので、できればシュウ様と一緒に入ろうと…」

「………」


 お、おかしいな。

 明かりとしては確かに眩し過ぎるのもよくないかなーと思ってちょっと弱めにしておいたのも事実だけど、これだと僕がエリィと一緒にお風呂に入りたくて調整したみたいになってる気がする。

 違うんだ!っていうと、なんか余計に言い訳みたいになるな………。

 なんかどつぼに嵌まっていっているような…?気のせいだよね。


「だ、ダメ…ですか?」

「ウウン…ダメジャナイヨ?」


 ダメだー!!なんか断りにくい!

 服を脱いで風呂場へと入ると、エリィも入ってきた。

 体を一度お湯で流してから頭を洗おうとすると、エリィが奴隷だから主人である僕の頭を洗うのは私の役目と言い張って洗ってくれる。

 僕はできれば一人で入りたいんだけど。

 あっ、前一緒に入ったときは、お風呂は男女別っていうのを言い忘れていたかもしれないな。

 頭からお湯を流した後、体を洗おうとしてくれたので断ろうとしたら、泣きそうになったので、背中だけお願いした。


「その、まだ慣れていないので、洗うのをお願いしても良いですか………?」

「………」


 うん、嫌じゃないよ?

 嫌じゃないけど、手出しできないわけだから生殺しですよ。

 そういえば、エリィを引き取ってから、まだそんなに経ってないけど、僕の理性のタガが外れる前になんとかお風呂を別にしないと…!

 無心でエリィの髪を洗い、無心で優しく背中を洗い、無心で一緒の浴槽に入る。

 浴槽を広めに作っておいて良かったな。


「シュウ様、その、嫌…でしたか…?」

「嫌じゃないよ…?」


 これは本心だ。

 だけど、ちょっとね?精神的にはよろしくないと言いますか。

 エリィを引き取ってまだ数日のはずだけど、この若い肉体はちょっとしたことで反応しちゃいそうだ。

 うん、まだ大丈夫。


「じゃあ体も暖まったし、僕は先に出るね」

「あ、はい」


 タオルで体を拭いて、魔法で髪を乾かして服を着る。

 なんか………今日で一番疲れたかもしれない…。

 今日は早めに寝よう、そうしよう。

 体を拭いて濡れたタオルを、乾かすために棒に引っ掛けて干していると、


「あの、シュウ様」


 浴室からひょっこりと顔を出したエリィがいた。


「どうかした?」

「その、髪を乾かしてもらっても良いでしょうか?」

「ああ、分かった―――」


 服ぐらい着ているだろうと思って浴室へと入ると、エリィが一糸纏わぬ姿で佇んでいた。


「………エリィ、服は?」

「え、髪を乾かしてからじゃないと濡れてしまうと思って」


 そうですね、僕が間違っておりました。

 すぐにエリィに後ろを向かせると魔法で髪を乾かす。

 その際、櫛でブラッシングしながらゆっくりと乾かしていく。


「はい、終わったよ」

「ありがとうございます、シュウ様」

「どうしたしまして」


 先に寝室へと戻って寝る準備をする。

 あの年頃ってあんなに無防備なのが普通なのかな?

 いや、でもここは異世界だし、どうなんだろう。

 気軽に聞けることじゃないのがなー。

 キッチンで水分補給をした後、寝室へと行くとエリィがすでに待っていた。ネグリジェ姿で。

 そういやこの問題もあったな。あんのオネエ店長め。


「そろそろ寝ようか。明日も早いし」

「はい」


 室内の明かりを、月の光のようなものに変える。

 僕がコケコットンの羽毛布団を敷いたベッドに入ると、エリィも僕のベッドへと入ってきた。なんで!?


「えっと、エリィのベッドはあっちなんだけど…」

「一人だと暗くて寝られないので、一緒に寝ても良いですか?」

「………うん」


 よくないけど、断るのもよくない。なんか断りづらい。

 引き取ってからまだ間もないし、仕方ない…よね?


 今日一日動き回っていたおかげか、エリィはすぐに眠りについた。

 そして、僕は逆に眠れなくなった。

 どうしよう…!




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