第34話 「看病」
前話(33話)の最後に、魔法についての話をエリィにしていましたが、前にしていたのを忘れていたので直しました。スイマセン。
魔法で室内を薄暗く照らしている。
この小屋には魔物対策として、カッターリーフが通れないほどの通気口を除いて、窓を付けていないから明かりがない。
「さて、今日はもう遅いから、食べた後に寝ようか」
「そう…ですね」
朝から訓練したり、昼にダンジョン行って戦闘したり、夕方から暗い森を移動したりと密な一日だったな。まだ終わってないけど。
その所為で、僕の向かいに座っているエリィの頭が、船を漕いでいる。
「キュィ!」
「っと、悪いね、ガル。今出すよ」
ダンジョンボックスから、クラッシュスパイクの殻とホーンウルファントの角をガルの前に山積みにする。
積み上げている途中でガルは食事を始めた。
「エリィ?」
「…すぅ………すぅ…」
無理もないか。
急激にステータスが上がっているとはいえ、元々体力がなかったんだから。
まだ、今のステータスで体が慣れていないんだろう。
このままだと、スープの中に顔を突っ込んで寝てしまいそうなので、エリィを起こさないようにそっと抱き上げてベッドまで運んだ。
「ガル、悪いけど魔物が入ってきたら二人を守ってあげてくれ。僕は一応外の確認に行ってくる」
「………(ガリガリガリガリ」
あ、食事に夢中で聞いてないや。
まあ、大丈夫だろう。小屋の入り口に一番近いのはガルだし、流石に食事の邪魔をされればどうにかするだろう。
机の上の料理をアイテムボックスに入れて、小屋の外へ出て、サーチフィールドを発動。
あーやっぱりいるな。
植物が木に絡みついている森を抜けながら、反応のあった一つの場所へと向かう。
辿り着いた場所を見渡してみると、何事もない森に見える。
けど、僕のサーチフィールドに引っかかったところに、ギザギザした葉っぱが見えている。
夜だから視界も悪いし、注意しててもこれは気付きにくい。
いやー、見事に森に溶け込んでるね。
「僕相手じゃ意味ないけど」
■名前:カッターリーフ
種 族:魔法生物・植物種
年 齢:30
性 別:不定
レベル:1
クラス:カッターリーフ
状 態:擬態
●スキル:『擬態』
鑑定で見えるからね。
土でビー玉サイズの塊を作ってぶつける。
当たったカッターリーフは煙となって消えた。
【レベルアップしました。Lv2になりました】
【呪いの効果でLv1になりました】
〔■カッターリーフのコア:Lv1〕
〔■ギザギザ葉っぱ:Lv1〕
拾ったアイテムをダンジョンボックスへと入れて、安全確保のために小屋から半径100mぐらいにいたカッターリーフ全てを倒して戻る。
1階層だし、これぐらいで大丈夫だろう。
小屋へと戻る途中に薬草や食べられる果物も生っていたし、明日は取りに行こうか。
ようやく元の小屋へと入って、入り口を魔法で塞ぐ。
ガルは食事が終わったのか、僕が入り口横に用意したバリバリーフの寝床で寝ている。扱いは完全にペットだな。
クスノの様子を見ると、死んだように眠っている。あの呪いとあんな扱いで蓄積していた疲労は、並大抵のことでは回復しないだろう。
いつ起きても良いように、クスノのベッドの横に水差しとコップをダンジョンボックスから取り出して置いておく。
魔法で作ったお湯で全身を洗って魔法で乾かすという、簡易シャワーで自分を洗浄して、ベッドへと倒れこむ。
あ”ー………コケコットンの羽毛布団は最高だな。
「………はっ!」
気付いたら、小屋の中に陽が差し込んできていた。
コケコットンの羽毛布団、恐るべし…!
疲れていたのもあったんだろうけど、気持ち良すぎてすぐに意識が落ちたようだ。
体を起こして右隣のベッドを見ると、エリィはまだぐっすり寝ているようだ。
さらに左隣のベッドを見るとクスノが寝ていた。
まあ、こっちはもう何日かかかるだろう。
エリィを起こさないように、石壁を入り口へと変化させて外へ出る。ガルはもう起きているようだな。入り口を通る時に一度顔を上げた。
寝床以外の住み心地をよくするために、小屋の周りにお風呂やトイレを増築しようと思ったけど、寝ている人が二人もいるし後にしようか。
地球でやる工事と違って、騒音や振動で起きるかもっていう心配はしなくても良いのは助かるけどね。
「さて、朝食に使う食材の調達と、軽い運動として、この辺のカッターリーフを片付けておこうか」
「おはようございます、シュウ様」
「ん、おはようエリィ。もうすぐ朝食…とうか昼食ができるから、今の内に顔洗っておいで。タオルはそこにかけてあるし、水はそこの桶に入ってるから」
「は、はい。ありがとうございます」
挨拶を返しながら、味見をした鍋をかき混ぜる。
今日は時間もあったから、長時間煮込む必要のあるスタンプボアのスジ肉を入れた、ポトフのようなスープに、パン、目玉焼き、ベーコンを焼く。
んーポトフはちょっと薄味すぎるかな?
でも、この朝食だしちょっと薄めの味付けの方が良いかもしれないし。
味が薄いなって思ったら、個人で塩入れるとかしてもらおう。
「エリィ、悪いけど一緒に運んでくれるかい?」
「はい」
小屋の中へとできた朝食を運び、机の上に乗せる。
「ずっと暗い室内ってわけにいかないから開けるか」
魔力で屋根の部分に当たる石壁を開いて、屋根を壁の延長線に上に伸ばしてオープンテラス風にする。その際、クスノの顔に陽が当たらないようにある程度陰にしておく。
「「いただきます」」
「キュィ」
食べる挨拶をして、食事に手をつける。
あ、飲み物出してなかったな。
魔力でポットに水を入れて、オランジュというオレンジのような果物を魔法で絞って果汁を足す。手が汚れずに絞れるって本当に魔法って便利だよなー。
「シュウ様、いつの間にか眠ってすいません」
「いーよいーよ。昨日はちょっと疲れることばっかりやってたし、仕方ないって。よく眠れた?」
「は、はい、お陰様で。あの、色々と疑問があるので質問しても、その、良いでしょうか?」
「うん、良いよー」
「ここはダンジョンなのに、なんで日の光が入ってくるんですか?」
「ダンジョンが持っている空間魔法っていうのが、地上と同じ天気や環境っていうのを作り出しているんだ。このダンジョンは森の中にあるから、ダンジョンの中も森があるわけだね」
「あと、あの寝る道具なんですけど………」
「あ、羽毛布団苦手だったりした?」
アレルギーみたいなものがこの世界にもあるかもしれないな、羽毛アレルギー。いや、あれはどっちかというとダニとかだっけ。
「い、いえっ!ウモウブトン、と、言うのですか?苦手ではないのですが……その、とても肌触りがよくて寝心地も……。それに、貴族様が使うようなもので、奴隷が使うものではないのでは……」
「ここでは、僕とエリィしかいないし、人目を気にする必要はないよ。だから、エリィも遠慮なく使ってくれ。前にも言ったと思うけど、体を動かす上で食事と睡眠はとても大事だからね」
「その、物が良すぎて逆に落ち着かないというか………」
「うーん、そうか。とりあえずいくつか種類があるから試せば良いか」
「あの、あんまり高級なのは…」
「僕がいた森からこっちに来るまでにあった魔物の素材とかだし、高級ではないと思う。多分」
その価値を知りたかったから冒険者になったはずなのに、知らないままダンジョンに篭ることになるとは。
というか聞きたければ全部商人のゴルドーさんに聞いた方が早いな。
クスノが目覚めて、町に行く機会があればそうしよう。
あっ、ゴルドーさんで思い出しだ。
「そういえば、エリィは文字の読み書きや計算ってできるかい?」
「い、いえ、できないです、すいません。奴隷でできる人は、元々できる人が奴隷に落とされたぐらいだと思います」
「ああ、いやいや。いずれ別行動で買い物したりもするだろうから、学ぶ場所は必要だよな」
ゴルドーさんに、そういう教えてくれる人材がいないかあたってみよう。
あと、割と近いうちにエリィはすでに奴隷じゃないっていうのも伝えておかないといけない。クスノの首輪を外したことに関してもあるし。
ただ、そうなると僕の呪いの話もしないといけないな。本当にどうしようか。
「す、捨てられるんですか?」
エリィが泣きそうな顔になった。
「違う違う!旅の準備で買い物を頼んだりする時に、騙されないように文字や計算を覚えてもらう必要があると思っているだけだよ。男の僕では買いにくいものもあるだろうし」
エリィ用の女性用の下着とかね。この世界にあるかどうかは知らないけど。恐ろしくて聞けないし。
そんな話をしながら食事を終えて、「ごちそうさま」をして食器を熱湯で洗い流す。
「で、今日の予定だけど、エリィにはこの階層のカッターリーフを一人で倒してもらう」
「一人で、ですか?」
「一人と言ってもガルについていってもらう予定だ。この子が目覚めるまでこの小屋で暮らす予定だから、僕は今日中に台所やお風呂、トイレを作る予定なんだ」
「本当に野営…なんでしょうか?」
「周りでは聞かないと思うけど、できることなら休める内に休むのが良いと思う。これからダンジョンの攻略をして下の階層に行くとこんな野営ができなくなるかもしれないからね」
できないとは言わない。
「それと、ダンジョンの魔物は倒したら魔石と素材を残して消えるから、それもちゃんと回収してきてね。とりあえず今はお昼だから…夕方までかな」
「はい」
「あとは、短弓と長弓とナイフを武器として渡しておくね。それと、魔石や素材を入れる袋と水筒。水筒の中身がなくなったり、袋が一杯になったら戻ってきたら良いからね。あとは、疲れたらすぐに戻ってくることと無理はしないこと」
「は、はい」
「他には―――」
「あの、シュウ様。お母さんみたいです」
「………」
ソウダネ。気を付けよう。
過保護に接しすぎたか。
「すいません」
「いや、良いよ………。とりあえず気を付けてね」
「はい、行ってきます」
「頼むよ、ガル」
「キュィ!」
エリィを見送って作業を始める。
まずはトイレだな。ここはダンジョンだし、匂いを吸収してくれる吸匂花をいくつか置いておけば問題ないかな。必要があればその都度僕が土で埋めればいいし。
あとはお風呂だなー。
日本の昔の焚くお風呂も良いけど、魔法があるとその必要もなくて助かる。
それとキッチンはかまどとして、ちょっと煙突みたいな煙が抜ける通気口を作ればいいかな。カッターリーフは焚き火ですら通ってこれずに燃えるし。使わないときは塞いでおけばいいか。
作業をしながら途中途中でクスノの様子を見る。
エリィには明るいうちに戻ってくるように言ってあるし、クスノの体を拭くのをお願いしておかないとな。
「………」
「………うーん。栄養というか水分すら全く取らせてないのは問題があるよな…。ストローでも作れば飲むかな…。でもこの世界はストローがないから使い方を知らなくて吸うとは限らないし」
その辺もエリィに相談してみるか。
「………」
「狐耳も触ってみたいけど………そういう行為に何か特別な意味があるとマズイし、そこもエリィに相談だな」
狐耳を触る、という単語辺りで耳がちょっと動いた気がしたんだけど…気のせいかな。
まあ、いいか。
あとは―――
「………時間もあるし、時間のかかる煮込み料理でも作ろうかね」
作ったばかりのキッチンへと向かい、夕食の準備を始める。
エリィが疲れて帰ってくるだろうから、さっぱりした飲み物も必要だな。
頭の中で夕飯の献立を考える。




