第31話 「ダンジョン 探索 と 狐耳族」
ダンジョンに入ると、そこには体育館ぐらいの広いホールのようになっていて、中は人で溢れていた。
「回復薬が安いよー!」
「素材、高額買い取りするよー!!」
「誰か、斥候系のクラスはいねえか!!」
「良い武器があるぞー!!是非、見ていってくれ-!!!」
「白いクロウラーなんて珍しいな!!俺の獲物だー!!……ブゲッ!!」
なんだこの人集り。
武器を持った探索者と思われる人や獣人たちに、商魂逞しい商人たち、珍しい魔物を見ると襲ってくる山賊みたいなやつ。
最後のだけぶっ飛ばしたけど。
少し進むと、周りの視線がこっちに集まってきた。やっぱりここでも目立つか。
「シュウ様……」
「探索者として新人が入ってきたから気になっているだけだと思うよ」
エリィの頭を撫でる。
周りの視線を辿ると、白い髪のエリィ、白いクロウラーのガルも注目されているけど、それ以上にエリィの着ている服に注目しているようだ。
そういえば、オリヴィエ服飾店で店長が言ってたっけ。エリィの服は付与魔法されているって。どう考えても貴重な素材を使ってそうだよな。
「へっへっへ、おい兄ちゃん。よくもウチのモンに手を出してくれたな。今なら、そこの白いエルフとクロウラーを差し出せば許してやんぜ?」
「ダンジョンの奥に進む道は、あの人が並んでるところかな。ちょっと聞いてみるか」
「は、はい」
「おらぁ!無視してんじゃねえぞ!!」
「すいません。この列って、ダンジョンの奥へ行くための列ですか?」
「あ、ああ。そうだけど」
「テメエ聞いてんのか!!俺が『蜘蛛蠍』のメンバーと知ってのことか!!あぁん!!?…ブゲッ!!」
「どうもありがとうございます。それでですね、この列はなんで並んでいるんでしょうか?あ、これ情報料です」
聞きながら、銅貨を何枚か渡す。
「お、おう、悪いな。単純にこの列は人を整理しているんだ。これだけの人数が居ると、一気に入れないからな」
「なるほど、ありがとうございます」
「テメエ!よくも仲間をやってくれたな!今なら泣いて許しを請い、そこの白いエルフとクロウラーを渡せば許してやるぜ」
気付けば4~5人に囲まれていた。
「あ、エリィはこっち。ガル、丁度良いから、この人たち相手にやってみる?良い練習になるんじゃない?」
「プスー」
ガルから空気の抜ける音がする。お前、そんな器用なことできるのかよ。心持ちやれやれみたいに見える。
「え、何?相手にならないって?」
「キュィ」
「なんだと、テメエ!…ブゲッ!!」
「ふざけるのも大概に……ブゲッ!!」
「しろよ、おらぁ!!……ブゲラッ!!」
「殺すYO!!……チェケラッチョ!!」
ん?今、ラッパーがいなかったか?
まあ、良いや。これで静かになった。
気付けば、周りがシーンとしてた。
静かになり過ぎた。
「って、あいつ『蛇の牙』を捕縛したって奴じゃねえか?」
「そういや、今朝冒険者ギルドで『蜥蜴の尻尾』がたった一人に倒されたって聞いたな。白いのが隣にいるって話を聞いたが」
「ってことは、あれがそうなのか?」
おー、ここでも言われてるな。
ギルド長が、あの場で言って広めたのもあるだろうけど……。
周りの視線に晒されながら待っていると、ようやく順番が回ってきた。
「少々お待ち下さい。ここから先は、混雑しないように時間を置いて入ってもらっています。ご了承下さい」
「分かりました」
「(あの、シュウ様)」
「(ん?何?)」
「(ここって、ダンジョンの中なんですよね?)」
「(そうだね)」
「(なんで、魔物がいないんでしょうか?)」
「(ああ、それは……)」
エリィに聞かれて、ようやくこの部屋について気が付いた。そうか、ここは待機部屋なのか。
自分のダンジョンで、待機部屋だけは大して弄ってなかったな。これだけ広いと使い方によっては便利かもしれないな。検討しよう。
「(後で説明するよ)」
「(分かりました)」
「では、どうぞ」
「ありがとうございます。行こうか、エリィ、ガル」
「はい」
「キュィ」
後ろのパーティが止められるの聞きながら、奥へと入っていく。
歩いていると、始めの部屋に着いた。
さすがに、他のパーティが通った後だろうから、魔物はいないみたいだな。
「エリィ。さっきの話なんだけど、ダンジョンについて知ってることって何があるかな?」
「ダンジョンですか?…馬車の中ぐらいで聞こえたきたことしか知らないので、ほとんど知りません。場合によっては冒険者より探索者の方が稼げるということを耳にしたことがあるだけ、です」
「そっか。他の人もそんな感じなのかな。僕も教えてもらった側だから、偉そうには言えないんだけど―――」
シグに聞いたダンジョンの話を、移動しながら掻い摘んで話した。
ダンジョンは魔法生物で、スライム等と似たような種類の魔物だということ。
ダンジョン内に魔物や罠を仕掛けてダンジョンコアを守らせていること。
魔石に当たるダンジョンコアがある部屋の手前に、ダンジョンのボスを配置していること。
魔物にある核がダンジョンにもあり、それを破壊しない限りダンジョンが残ること。
などなど。
「シュウ様は詳しいのですね」
「さっきも言ったけど、僕も聞いた話だからね。その人が調べたことだと思うよ。すごいとは思うよ…」
中身がドMじゃなければね…。
「っと、魔物が向かってきたようだ。今までは一人で戦わせたりしていたけど、これからは一緒に戦う訓練をしようか」
「は、はい!」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。とりあえず、僕が前に出るから、エリィはちょっと後ろで、ガルはエリィを守ってあげてくれ」
「キュィ!」
「で、エリィにはこの長弓を使ってもらう。僕が前に居て、矢を放ち難いだろうけど遠慮なく放つように」
長弓と腰に提げる矢筒を渡す。
「え、でも…」
「まだダンジョンの始めだし、練習も兼ねているから。いざという時に攻撃できないと困るからね。大丈夫、試しに後ろから射ってみると良い」
「は、はい」
「来るよ!」
角から曲がってきたのは、身長1mぐらいの緑色の小人、いわゆるゴブリンと言われているような魔物だった。数は3。全員僕と同じ鉄の剣を装備している。
■ゴブリン
種 族:亜人種
年 齢:0歳
性 別:♂
レベル:1
クラス:ゴブリン
他の冒険者が通って倒しているだけあって、ダンジョンから生まれたばかりなんだろう。
それにしても、久しぶりだな。
シグたちに色々と教えてもらって旅立とうとしたら、ダンジョンの割と直ぐ近くにゴブリンの集落があったんだよなー。
そいつらをダンジョンに誘い込んだり、奇襲したりして全滅させた時以来だ。
「エリィ、僕とガルが守っているから矢を射ってみて」
「は、はい」
剣とバックラーと呼ばれる小さな盾を腕につける。
「慌てずに、焦らずに、深呼吸して。大丈夫、エリィのところには行かせない」
「はい………。すぅー…はぁー…すぅー…はぁー」
「ぎゃぎゃぎゃ!!」
「さて、悪いけどここを通すわけにはいかないな、っと!」
「シュウ様!」
「大丈夫、落ち着いて。ゆっくりと矢を番えて、弓を引いて矢を………放つ!」
「あっ!」
「おっと!」
僕の頭へと飛んできた矢を首を振って避ける。すると、僕と対峙していたゴブリンの、奥のゴブリンの頭へと吸い込まれて絶命した。そのまま魔石を残して霧散する。
「うん、今の感じでもう2体、いってみようか。大丈夫、僕には当たらないから」
「で、でも」
剣を振って近寄らせないように牽制する。
「ゴブリンを殺すことに抵抗がある?」
「そ、それは大丈夫、です。でも、またシュウ様の方に矢が向かったら…」
「それぐらい大丈夫だよ。さっきのも当たらなかったよね?」
「は、はい」
「だから、大丈夫。ちなみに………ガル」
「キュィ!!」
ガルをゴブリンの前に出す。
さっきから攻撃が当たらない僕よりか、当てやすそうな体が大きいガルに狙いを変えて剣を振り下ろす。
「キュィ!」
その瞬間にガルが力を入れると、鉄の剣はガルの皮膚に負けて2本とも折れた。
「ガルに当たっても、そこら辺の武器程度じゃ怪我一つしないんだ」
他のクロウラーではこうならないけどね。
やっぱりガルは色々とおかしいんだろう。
「ふっ!」
驚いているゴブリンたちの首を切り落とす。
すぐに魔石を残して消える。
「ご、ごめんなさい」
「いや、エリィは悪くないよ。ぶっつけ本番でやらせた僕が悪いんだし。まあ、ちょっとずつ慣れていこう」
「………」
「そこまで思いつめなくて良いって」
「でも………」
「始めからうまくやろうとしなくて良いんだ。僕の居た所では、世界一と言われるような人でもミスをすることがある。だから、気にしなくても良いんだよ。誰にだって失敗はあるから」
「シュウ様…」
「んー…そうだね。僕を信じているなら、射ってくれないかな」
「信じる…?」
「うん。僕の方に矢が当たらない。大丈夫って信じて欲しい。それとも僕が信じられないかな?」
「そんなことはありませんっ!!シュウ様は…!!…あっ、ご、ごめんなさい」
「じゃあ頑張ってみようか」
「はいっ!」
「それと、ダンジョンに入ってる間は謝るのは禁止ね。これ命令」
「え?」
「僕はダンジョンに慣れている。けど、エリィは初めてだ。だから、分からないこと失敗することが一杯あると思う。でも、失敗したらもう一回やってみれば良いんだ。僕の居た国に七転び八起きっていう言葉あってね、七回転んでも、八回起き上がれば良いっていう言葉なんだ。だから、もう一回やってみよう。今はそれだけの余裕があるからね」
「…はいっ!!」
「良い返事だ。じゃあ、奥へ進もうか」
「キュィ」
そのまま進む内に、エリィも慣れてきて3階層に到達した時だった。
他の探索者パーティに出会った。
そのパーティは6人組で、5人が探索者の格好をしていて、一人の奴隷と思われる首輪に鎖を繋がれて引きずられていた。
その奴隷は、髪も体もボロボロに汚れていて、本来なら美しい赤みがかった金色の髪から生えた耳と、同じ色の尻尾が膨らんでいるのが特徴的な、
―――狐耳族だった。




