第30話 「訓練本番 と 探索者 ギルド」
「教えることがないぬ」
「は?」
「シュウ殿には教えることがないぬ」
「え? いやいや、何かあるでしょう。常識とかマナーとか…」
「ないぬ」
「………」
どうしてこうなった。
事の始まりは、町の外の森に入ってからのこと。
エリィに、パーティで戦う上での弓の扱いについて教えている時に、遠くでゴブリンを発見した。
そのゴブリンを討伐しようと近づいて、エリィが弓を構えようとしたが、他の冒険者たちがすでに戦っていた。
「エリィ、他の冒険者が戦っているみたいだから、手出ししないようにね。あと、すぐにここを離れよう」
「え?はい…」
「とりあえずね。理由も説明するから」
「は、はい」
20mほど離れてから止まる。
「さて、ここまで離れれば良いかな」
「あの…」
「あーゴメンね。基本的には、他の冒険者と関わるのはなしにしよう。助けを求められて、自分達にどうにかできそうな場合を除いてだけど」
「その理由を聞いても良いですか?」
「うん。獲物を横取りした、みたいな揉め事や面倒事を避けるためかな」
「横取り、ですか?」
「そう、僕達に横取りしようという気はないけど、向こうがどう思うかは分からない。冒険者は、基本的に魔物にトドメを刺した人がその魔物の魔石や素材を得る権利があるんだ。でも、さっきみたいに戦っている人が先にいて、その状態でエリィがトドメを刺した場合、エリィが獲物を横取りしたっていうことになる。結果的にだけどね」
「?」
「例えば、さっきの人たちが戦っていたのはゴブリンだからそんなに問題にならないと思う。けど、これが10年に1回しか出会えないような珍しい魔物がいる群れに出会った場合、手助けするフリをして横取りするやつが出るかもしれない。そんな時に相手に誤解を与えないようにするためにできるだけ関わらないようにした方が良いんだ」
「本当に助けて欲しい人がいるかもしれないのに、ですか?」
「そこは聞いてみるしかないね。本当に死にそうになっていたら、助けがいるのかどうか、その場合の魔物の素材などはどうするのかを確認した上で助けるかどうかを決めたいところだね。じゃないと揉めるから」
「揉めるんですか?」
「うん。例えば、エリィが魔物に追いかけられている他の冒険者を助けようとするとして、助けた後に、”その素材は、魔物を見つけた俺達のもんだから素材を寄越せっ!”って言ってくる人だったら、助ける?」
「それでも、助けることができる命があるなら、私は助けたいです。命は大切だと思います」
「あー、うん。その優しさはエリィの良いところだと僕は思うよ。でも、助けて気分が良いか悪いかって言われたら?」
「あまり…よくありません」
「そうだね。その時に助けてそう言われたら、次にそういう人に出会った時にまた言われるのも嫌だからって助けたくなくなるかもしれない」
「はい」
「これが、助ける方だったら良いんだけど、助けられる方だった場合、”素材は全部そっちの物で良いから助けてくれ!”って渡す方が、助けてくれると思うんだ。つまり、助けられる方は命を、助ける方には素材をっていうどっちにも得がないといけないんだ」
「助けたいと思って助けてはダメなんですか………?」
「ダメってことはないけど、その方が揉めにくいからね。助けられた後で、”100万ゴールド寄越せ!”とか言われても困っちゃうよね?」
「はい……そんな金額払えません」
「そういうことがないように、助けてもらう時は、素材の権利はあげちゃった方が良いんだ。命があれば、また取りに行くことができるけど、命を落としたら二度とそんなことはできないし」
「分かりました」
「基本的に僕達が助けてもらう時は素材はあげるってことで。偶に、助けられた後に素材を寄越せっていう人がいるから、助けるのも考え物なんだけどね」
「その時はどうしたら良いんですか?」
「ギルドに報告したら良いと思う。そういう人なんだっていうのが他の冒険者にも知られるから、困った時にも誰も助けなくなる。それは困るからね」
「はい、分かりました」
オンラインゲームだと横取りや狩場の独占や占拠は、マナー違反だったよな。ゲームによるだろうけど。
「そんな感じで合ってますか?ドランさん」
「………大体そんな感じだぬ」
「どうしたんですか?渋い顔して」
「シュウ殿はぬ、本当に記憶喪失なのかと思っているぬ」
「どうしてですか?」
「冒険者や探索者のマナーをちゃんと把握しているからだぬ」
「記憶がなくても、考えることはできますから」
「それもそうかぬ」
で、教えることがない、と言われたわけだ。
「補足だがぬ、中にはその魔物を横取りするためにぬ、魔物の相手をしているパーティを後ろから殺そうとする者もいるんだぬ。嘆かわしいことだぬ」
「やっぱり、そういう人もいるんですか」
「分かっていたのかぬ?」
「欲に目が眩んだ人は、何をするか分からないですからねー」
「そうだぬ……。二人も気をつけるぬ」
「「はい」」
「今日はどうもありがとうございました」
「ありがとうございました!!」
「礼には及ばぬ。寧ろこちらが礼を言わねばならぬ。非常に有意義な時間であったぬ」
昼頃には、ドランさんの訓練は終わった。
本当に最低限、初心者に教えることだけのようだ。
後は自分達で経験せよ、ってことらしい。
ドランさんとの手合わせは、シグと同じ方法でやってみた。
始めは鞭のしなりに戸惑っていたドランさんも、最後の方には慣れていた。
というか、シグの鞭を使う方法って本当に勉強になるんだな。実感しておいてなんだけど。
ついでにエリィにも、弓が使えない状態になったらっていう状況を考えてやってもらった。
流石に、二人とも気持ち良いとは思わなかったようだ。良かった。こっちが普通だよね。
お昼ご飯は、ドランさんの初心者にオススメの、安くて量の多いところを教えてもらった。
ちょっとエリィには多過ぎたようで、僕が半分ぐらい貰ったけど。
ドランさんとギルドに行き、依頼の報告をした。
「シャロンさん。ダンジョンに入ってみたいんですけど、何処かの許可が必要だったりしますか?」
「ルイズリーダンジョンですね。そうですね。この町を出て西へ少し行くと、探索者ギルドがあります。そこで探索者ギルドカードを作ることができますので、そのカードを持ってダンジョンの入り口へ行けば入ることができます」
「冒険者ギルドと探索者ギルドのカードの二つを持つってことですか?」
「そうですね。ダンジョンのある町というのは珍しいですから、探索者ギルドカードというのは、このルイズリーの町でしか使えないカードになります」
「わかりました」
「気をつけて下さいね。ダンジョンも奥へ行くほど危険になりますから」
「ありがとうございます。とりあえずどんなものかを見学するだけなので、大丈夫だと思います。行こうか、エリィ」
「はい」
ガルを引き連れて、西の門へと向かう。
「身分を表すものはあるか?」
「はい」
僕とエリィの冒険者ギルドカード、ガルの従魔の証を見せるとエリィの髪色やガルが珍しいのか、ジロジロと見てくる。
「何か?」
「いや。なんでもない。よし、通っていいぞ」
「どうも」
「キュィ!」
やっぱり、初めて通る所では、エリィとガルは目立つね。
人混みならすぐに分かりそうだ。
10分ぐらい歩くと、一つの建物と、その奥に小さな岩山が見えてきた。
「シュウ様。ダンジョンは山の近くにあるんですか」
「そうみたいだね」
ふと、鑑定をしてみると、
■『東窟洞』のダンジョン
種 族:魔法生物・鉱物種
年 齢:97歳
性 別:???
レベル:137
クラス:ダンジョンコア
うっわ…。
全部で137階層か。
シグに聞いたダンジョン知識からすると、「年齢=レベル」が普通らしい。
「年齢<レベル」の場合、それだけ他の生物から魔力を得ている証拠だとか。
僕も入ったことないような階層の多さだな。
これはクリアするには骨が折れるな。
今まで以上の準備がいるだろうなー。
これは先に森で見つけたダンジョンをクリアした方が良さそうだな。
とりあえず、建物に入っていく。
「今日はどのような御用でしょうか」
「すいません、こちらでギルドカードの発行をしていただけるとお聞きしたのですが」
「分かりました。では、他所のギルドカードをお持ちですか?お持ちでしたら、情報をリンクすることもできます。ないのでしたら、こちらに記入をお願いします」
「では、ギルドカードでお願いします。それと従魔に関しての手続きは等はありますか?」
「はい、確かに。従魔に関しては、特にありません。ただ、ダンジョン内ではダンジョンの魔物と間違えられやすいので、何か分かりやすい目印を付けると誤解が少なくて済みます。ただ、場合によっては、攻撃されることもありますのでお気をつけ下さい。その場合はギルドでは責任が持てません」
「分かりました」
じゃあこのダンジョンに入る時は、ガルを宿に預けて行くしかないかな。
でもまあ、今日は見学だけだから、攻撃されても対処できるだろう。
「はい、冒険者ギルドカードをお返しします。そして、こちらが探索者ギルドカードになります。このカードはこちらのギルドでしか使えませんので、ご注意ください。また、こちらのカードには到達階層がギルドランクの代わりに表示されるようになっております」
「注意事項等はありますか?」
「そうですね。基本的に、ダンジョン内では緊急時以外での他のパーティとの接触は避けて下さい。偶にですが、そういったことでトラブルになることが多々あります。あとは、最近ダンジョンに入って、帰ってこない方がいらっしゃいますので、無理をなさらないようにお気をつけ下さい」
「分かりました」
基本的には冒険者と一緒かな。
「そういえば、今の最高到達回数は何階層ぐらいですか?」
「今は32層となっております。それと、公開されているダンジョンの情報をこちらで買うこともできます。値段は情報によって違いますが、買っていかれますか?」
「いえ、今は良いです。今日はダンジョンがどんなところか見学に来ただけですので」
「わかりました。御武運を」
このダンジョンは初めて入るっていうだけだしね。
外へ出て、エリィとガルと一緒にダンジョンの入り口へと着いた。
「初めて見る顔だな。死なないように頑張れよ」
「ありがとうございます」
ギルドカードを見せて、中へと入る。
さあ、ここはどんな所かな。




