第29話 「ギルド 長 と ぬ の 人 再び」
「はじめましてじゃな。シュウ君。儂はこの冒険者ギルド・ルイズリー支部のギルド長をしておるワイナールじゃ。お主が『蛇の牙』をたった一人で捕まえたと、騎士団から聞いておるよ」
その言葉を聞いて、ギルド長が現れた以上に周りが騒がしくなる。「あの『蛇の牙』を…!?」とか「討伐じゃなくて捕獲!?」とか色々と聞こえてくる。
「お主等、さっさと散らんか」
ギルド長の一声でギルド職員がこの場に集まっている野次馬を散らしていく。
「これで少しは彼奴等も懲りるじゃろうて」
「ギルド長、彼らに処罰とかはないのですか?」
「あんなでも、それなりの実力があって、魔物の討伐をしてくれるんじゃよ」
「需要と供給……ってわけですか」
「ほっほ、シュウ君は年齢の割には知識もあるし、割り切れておるようじゃな。それに、これだけの大勢の前で、銀級目前の5人がたった一人の、それも木級に負けたんじゃ。彼奴等にとってはこれ以上の罰はあるまいて」
あいつ等は、今まで以上に誠実にしっかりと働かないと冒険者ギルドを除名されるだろう。
ギルドを自主的に辞めて、違うギルドへ移る場合はちょっとした審査や、元居たギルドからの推薦や紹介などもあり、割と簡単にできる。怪我で引退して商業ギルドの商人になったり、農業ギルドの農夫になったりする人もいるらしいし。服飾店のオリヴィエ店長はお金が貯まったかららしいが。
ただ、除名となると話は変わってくる。
除名になった問題の経緯と明確な理由が、他のギルドに報告されて、立場的に監視される。そして、何か問題があればすぐに処罰される。まあ、当然だよね。
「ただ、報復などがあった場合は……容赦なくやりますよ?」
「……まあ、その時は、 止む無しじゃな」
いざという時の正当防衛は、これで認められたね。
冒険者ギルド長のお墨付きで。
「そういえば、シュウ君は記憶喪失ということじゃが……その過去に色々とありそうじゃのう。さっきのも『蛇の牙』相手にした戦い方はしておらんし、本気ではなかったんじゃろう?」
「記憶に関しては思い出せないのでどうしようもないですよ。実力に関しては、本気ではないですね。訓練でしたし」
ギルド長も盗賊を引き渡した騎士団経由で、僕が魔法を使うのは知ってるってことか。
確かに、一切使ってないし。
「ふむ。ああ、そうそう。『蛇の牙』の捕獲の功績があるのでな、シュウ君のギルドカードを銀級に更新しておこう」
「あ、それ、ちょっと待ってもらえますか?銀級に更新すると、鉄級や銅級の依頼って受けられないですよね?」
「そうじゃな」
「僕は記憶喪失なので、いきなりのランクアップは困ります。そう言った冒険者の知識に欠けているから、依頼を一つずつ受けている状況ですし」
「じゃが、シュウ君はそれだけの実力があるしなぁ。できれば実力のある者は、それ相応の立場にいて欲しいというのもあるんじゃよ」
「せめて、順番に一つか二つだけでも受けさせて欲しいんです。この子、エリィもいますし」
「……あぅっ……!」
そう言って、エリィを前に押し出す。
「ふむ、分かった。ちと特殊じゃが、二人のギルドカードを銅級に上げておいて、エリィ君用に木級、鉄級の依頼をいくつかこちらから指定させてくれ。シュウ君はそれを手伝うだけにしてくれ。それを達成したらランクを上げる。そして、銅級になったら二人で指定した依頼をいくつかこなしてもらったら銀級にする、ということでどうじゃ?」
「こちらにもダンジョンに入ってみたりと、色々とやりたいこともありますので、銅級以上にならないようにっていうのと、急な依頼というものでなければ…」
「むう、銀級以上にある強制依頼や指名依頼は避けたいのか」
以前、冒険者ギルド登録時に、シャロンさんに聞いた規則の中には銀級以上になると、指名依頼が入ってくると聞いた。
銀級ではほとんどないっていう話だけど、そもそもそういうのは面倒臭い。
それに、今はダンジョンから離れているけど、本格的にダンジョンの管理をするなら、冒険者なんてやってられないよ。
「できれば見聞を広げるために、いずれは旅に出る予定なので」
「じゃが、銀級で指名依頼はそんなにないんじゃがのぅ」
「これだけ、目立っておいて…ですか?」
指名依頼というのは、知名度が物を言う。
今日のことが噂という形で広がっていくとして、依頼する方はそれを鵜呑みにして依頼してくる人もいるかもしれない。それは困る。
「まあ、そうか。分かった。こちらも緊急性の高い依頼を回さないように配慮しよう」
「お願いします」
「頼むぞ、シャロン君」
ギルド長が選別するんじゃないんかいっ!
いや、長ともなると忙しいんだろうけどね?
「私ですか?」
「うむ。ギルドに勤めてそれなりに経つじゃろう。実力と合った依頼を出してくれれば良いんじゃよ」
「はあ、しかし………いえ、拒否権はなさそうですね。分かりました」
「はーしかし、勿体無いのぅ。銀級目前とはいえ5人をひとりで相手できるだけでも、軽く金級ぐらいの実力があるじゃろうに」
「旅に出たいので」
「仕方ないのう。儂も若い頃はそうじゃったしな」
「ところで、シャロンさん。僕たちの本来の訓練教導の人ってどこにいるんですか?」
「私だぬ。いつ会話に入ろうか迷っていたぬ」
この特徴的に語尾に「ぬ」の付く人って、一人しかいないな。
「ドランさん」
そこには、『語尾に必ず「ぬ」の付く呪い』にかかった人、ドランさんがいた。
「さっきの戦いを見ていてぬ、正直私が教えることはないと思ったぬ。というか寧ろ私が教えて欲しいぬ」
「えーっと、戦いは少し教えてもらったぐらいで後は我流ですし、冒険者としての心構えとか常識みたいなものも是非教えていただきたいのですが。僕は記憶がないので。エリィも似たようなものだよね?」
「は、はい。私はシュウ様に買っていただくまで、戦ったことはありません。ずっと奴隷でしたから…」
「というわけで、初心者が学ぶものとか、冒険者にあるマナーとかを教えて欲しいんです」
「そういうことなら分かったぬ。だがぬ、後で良いから軽く手合わせをお願いしたいぬ。私も強くなりたいのだぬ」
「分かりました。そういうことでしたらお願いします」
うん。初めて聞くと慣れないけど、二回目聞いてもやっぱり慣れないわ。この呪い。
嫌いな奴がこの呪い持ちだったらイライラして手が出そう。
「エリィ?」
「は、はいっ!よろしくお願いします!!」
「うむぬ。ではぬ、町の外へ行くかぬ」
「はい。行こうか、エリィ」
「はいっ!」
「とりあえずぬ、自己紹介を忘れていたなぬ。私の名前はドランだぬ」
「ドランダヌさん?」
「あーエリィ、違う違う。この人の名前はドランだよ。しゃべる語尾に『ぬ』が付いてるだけだから。基本的に最後の『ぬ』を抜いて聞いてみると良いよ」
「やはり君はすごいぬ。私のこれを初対面から理解しているだけあるぬ」
「エ、エリィと申します。シュウ様の奴隷です」
厳密には今は違うんだけどね。
「奴隷ぬ?肌も健康的に見えるしぬ、服や装備を見ても奴隷には到底見えないぬ」
奴隷じゃないからね。
「僕が服や食事は必要なものだと思って取るように言っていますからね」
「納得したぬ。シュウ殿はエリィ殿を大切にしているのだぬ」
「そういえば、ドランさんに一つ聞きたかったんですけど、その『ぬ』が付く呪いってどこで付いたんですか?」
「君はそんなことまで分かるのかぬ!?」
「記憶喪失の僕に色々と教えてくれた人がいたんですよ。その人が呪いに詳しくて。呪いかどうかの判断はできるようになりました」
鑑定で。
「うむぬ。これはなぬ、ダンジョンの中になる宝箱を空けたらそうなってしまったんだぬ」
「ダンジョン…ですか」
そういえば、この町もダンジョンがあるんだっけ。
まだ一回も行ってないけど。
「ってことは、ドランさんは探索者でもあるんですね。呪いは軽いものなら教会が解いてくれるって聞いたんですけど」
「そうだぬ。だがぬ、呪いを解くにはとても高額の寄付金がいるのだぬ」
「寄付金、ですか?」
「そうだぬ。金額にするとおよそ50万~100万Gはかかるんだぬ」
「え、そんなにかかるんですか?」
「それにぬ、呪いが解けるかどうかは運次第だぬ」
「運次第?」
「解ける呪いもあれば、解けない呪いもあるという話だぬ」
えー…。呪いを解くのはただじゃないにしても、初級の呪いなら安くできると思ったのに。
ダールソンさんに聞いた話では、解くことのできる呪いの上限があるって言ってたしな。
「というわけでぬ、今は呪いを解くためにお金を貯めているのだぬ」
「そうだったんですか」
「では、そろそろ話を終わろうかぬ。訓練はぬ、ちょっと動いて話をするだけぬ」
「「お願いします」」
訓練が始まった。




