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第28話 「準備運動 終わり」

最近目が痛いです。疲れてるんですかね。



「なんだなんだ」

「登録して間もない新人が自分より上の冒険者に喧嘩売ったってよ」

「なんだと?…って、あいつら銀級シルバー目前の『蜥蜴の尻尾(リザード・テイル)』じゃねえか」

「ってことは喧嘩売ったのはあいつらか」

「でも、そんなやつらから喧嘩買うなんて」

「誰だ、命知らずな新人どもは」

「複数人じゃねえぞ。一人だ」

「はあ?バカじゃねえのか、そいつ!?」

「しかも手に持っているのは鞭じゃねえか!」


 周りから聞こえてくる情報がエリィの耳に入って、唯でさえ白い顔がさらに青くなる。

 気付けば、エリィは歩いていく背中の心配で、エリィを見る奇異な目線を、今この時だけ気にならなくなっていた。


「そんな、シュウ様―――」






「我が手に集いて―――」

「おらぁ!!」


 ソーサラーの女がディフェンダーの男に守られ、魔法の詠唱を始める。

 ウォリアーの男が正面から打ち下ろしで斬りかかってくるのを半歩横にズレて足を引っ掛けて転ばせる。盾役がいるのに突っ込んでくるとか……。まだ舐められてるかな。

 そして、僕の後ろから斬りかかってくるローグの男と横から来るスカウトの女。

 二人の間に入って、それぞれの足を踏みつけ、頭を掴んでぶつける。

 その二人を無視して、ソーサラーの女の方へと向かうと、ディフェンダーが立ちはだかり剣を振るってくる。

 その剣を持った腕を片手で押しのけるように回転して、ディフェンダーの男の背中側へと移動し、背中を蹴りつけて転ばせる。


「―――我が前の敵を焼け!ファイヤーボール!」


 その時、詠唱が完了したソーサラーの魔法、30cmぐらいの炎の玉が僕の方へと飛んでくる。

 それを姿勢を低くすることで避けて、前に出て鞭でソーサラーの首を撫でる。


「はっ!5人揃ってこの程度ですか?ちゃんと全力を出してくださいよ」


 頭に血がのぼって、まともな戦いができていないのもあるだろうけど、それにしても酷いな。

 1対5なのに、まともな連携を使おうともしないし、動きも雑だ。

 これなら、うちのスケルトンたちの方が強いな。

 というか、『怨恨』のダンジョンの近くに住んでいたゴブリンたちの方がマシだな。

 ゴブリンたちは、生死をかけているだけあって、もっと必死だった。

 判断を間違えれば、文字通り命がなくなるからね。


「てんめぇ!」

「後悔すんじゃねえぞ!!」


 始めからそうすれば良かったのに。


「我が手に集いて―――」


 さっきと同じようにソーサラーが魔法の詠唱を始める。

 ディフェンダーが僕の前に立ちはだかって、当てるのではなく僕の動きを阻害するように小さく剣を振るってくる。

 その左右からウォリアーの男とローグの男が斬りかかってくる。

 スカウトの女は………後ろか。

 左右と正面にいるから後ろに逃げたところを、スカウトの女が攻撃してくる、ってところかな。

 うん、ようやく連携らしくなってきた。

 さて、僕はどうしようかね。

 誘いに乗って後ろのスカウトの女から対処するか、そんなの必要ないとゴリ押し気味の正面突破か、左右のどちらかの相手をするか。

 訓練って言ったし、誘いに乗ろうか。

 一歩後ろへと動いて、スカウトの女が切りかかってきたのを、背中を向けたまま手首を掴んでローグの男の方へ引っ張って背中を鞭で打ちつける。


「あうっ!」


 その間に近付いてくるウォリアーの方へと踏み出し、横薙ぎにしてきた剣の腹を鞭の柄で下から打ち上げると、胴体ががら空きになった。

 そのまま、がら空きになった胴体…は皮鎧があるから当てても意味がないから、剣を持った腕の篭手を避けるように手首を鞭で強打する。


「ぐっ!」

「まず一人目」


 怯んだところを狙って、胸当てのない脇腹を鞭で横薙ぎに打ちつける。剣道の胴のように。すると、痛みで持っていた剣を手放した。


「戦闘中に武器を手放すとか、ゴブリンでもしなかったよ」


 あーやだやだ。そんなことをすれば、シグに嬉々として襲われるのは間違いないじゃないか。

 よくもまあ、そんな背筋が凍るようなことができるもんだ。


「余所見してるなんて随分と余裕だなぁ!!」


 ローグが気配を絶って後ろから斬りかかってきた。

 狙いは僕の首か。悪くない。ただ、


「奇襲するなら…」


 それを軽く屈みながら反転して避けて、カウンター気味にローグの男の顎を思いっきり鞭の柄で打ち上げる。


「黙ってやれ!」


 ダメな所があれば、すぐさまシグから鞭が飛んで来るからね!


「………さて、これで二人目。残るは3人か」


 ローグの男以外は気絶していない。

 けど、ウォリアーの男は脇腹を打たれた痛みでか、動けなくなっている。

 残るはディフェンダーの男、ソーサラーの女、スカウトの女か。


「くらえっ!!」

「ほいっと」


 ディフェンダーの男が当てる気のない牽制を半歩ズレて避ければ、後ろから迫るスカウトの女のナイフと向かってきたファイヤーボールの間に入る。

 ファイヤーボールを避けて、スカウトの女に当てようか。いや、この目の前の男の方がなんかムカつくから、こいつにしようか。


「はっはー!!これでテメエは火達磨………ダバァ!!」


 避けた勢いで、ディフェンダーの胴を蹴り上げる。丁度、ファイヤーボールの軌道上になるように。


「ぎゃぁあああ!!!!」


 ファイヤーボールの直撃を、背中から受けたディフェンダーの男は消火と痛みでゴロゴロと転がりながら動かなくなる。

 どうやら気絶したようだ。


「これで3人」


 背後から向かってくるナイフを、振り返りながら鞭で絡めとって背後に打ち上げる。


「あっ」


 ナイフを打ち上げられたスカウトの視線は、そのままナイフの方にいっている。


「っ!」

「目の前に敵がいるのに視線を逸らさないでくださいよ」

「ああっ!!」


 太腿の横側を思いっきり鞭で叩く。痛いよね、ここ。

 蹴られたりすると、ジンジンして動かしにくくなったことがある。 


「―――我が前の敵を焼け!ファイヤーボー………ひっ!!」


 さっき打ち上げたスカウトのナイフが、上から降ってきてソーサラーの衣服に掠って、足の間に突き立った。

 その結果、魔法を使おうとして最後の制御を誤って、魔力が暴発した。

 ダールソンさんに教えてもらったんだけど、魔力の制御に失敗すると、使おうとした魔力が暴走して弾ける。

 弾けた魔力は、使おうとした魔法―――この場合は、火魔法だから、炎の衝撃となって自身に返ってくる。

 ファイヤーボールぐらいの初級魔法なら、顔に少しの火傷と髪の毛が縮れるぐらいだ。

 そのまま、自身の魔法を受けたソーサラーは後ろに倒れた。

 良かったね。上級魔法を唱えてなくて。


「さて………残るはあなただけですね」


 振り返ると、ビクッと怯えた目で、スカウトの女が尻餅をついた状態でこちらを見る。


「ひっ!!こ、こないで…!!」

「はあ、訓練なんだからこれ以上の攻撃はしませんよ。………不意打ちでも、しない限りはっ!!」


 振り返りながら、今にも振り下ろされそうになったウォリアーの剣を、鞭で叩き折る(・・・・・・)

 その驚いた顔に鞭をくれてやる。


「へぶっ!!」


 これも、僕が魔法を覚えた後に探った戦い方の一つ。

 武器のレベルは、上がるとそれだけ攻撃力に(プラス)される。

 Lv1、攻撃力10の鉄の剣があったとして、Lv2の鉄の剣は攻撃力が12になる、みたいなちょっとしたボーナスポイントがあるようだ。耐久値もそんな感じで上がる。

 だから、持っている武器のレベルが高いほど強くなれるし、持久戦になった時に有利だ。

 でも、僕が持つ以上、全ての武器防具が呪いでLv1になる。

 それを解決するために思いついたのが、前世の漫画とかを参考にした方法、魔力で武器を覆うということ。

 これをすると、使っている魔力に応じて、剣の切れ味などの攻撃力、強度や耐久値といった防御力などが格段に上がった。

 盗賊の頭に放ったスケイルファングの鱗もこの方法で投擲した。

 鉄の剣が、折れたのでも割れたのでもなく、切れたのは僕にも予想外だったけど。

 魔法は詠唱するものっていう、この世界の常識からすると、出来ないどころか思いつかない方法らしい。

 魔力を抜いた鞭で打たれて、倒れていくウォリアーの男。


「よし、終わり」


 それにしても、一つ疑問に思っていることがある。聞いてみようか。

 唯一意識があって、喋れそうなスカウトの女の所に行く。


「すいません、一つ質問しても良いですか?」

「な、なにっ………!?」


 なんで、こんなに怯えているんですかね?

 殺したわけじゃないのに。まあいいや。


「ええ、鞭で叩かれて痛かったですか?それとも………」


 まさか、ないとは思うけど…。

 大声で聞くわけにもいかないし、ちょっと小声だと聞こえにくいかな。

 顔を寄せるようにして、問いかける。


「気持ち良かったですか?」

「ひっ!!き、気持ち良かったです!!」


 何………だと………。

 え、マジで?気持ち良いのが普通なの!?


「そうか。どうもありがとう」


 シグだけが特別おかしいと思っていたのに。

 この世界の人の見方が変わりそうだ…。

 いや、まだだ。まだ二人だけだ!

 他は大丈夫のはずだ。

 でも、確認するのが怖いな…。

 聞きたいことも聞き終わったし、鞭を片付けて、エリィの方へと歩いていく。


「エリィ」

「シュウ様っ!!………心配しました」

「あーうん。ゴメン」

「シュウさん、すごかったですね。彼らは『蜥蜴の尻尾(リザード・テイル)』という銀級(シルバー)に届く実力の持ち主です。素行が悪くて、冒険者ランクをあげる試験を受けられなかったのですが」

「そうなんですか?物凄く口が悪かったですけど、よく今まで何もありませんでしたね」

「いや、問題自体はあったんじゃよ。被害にあった冒険者が何もなかったの一点張りで通しておったでな。証拠を掴めなんだ」

「ギルド長」


 シャロンさんの後ろから、好々爺然とした風貌の達人を思わせる人が出てきた。




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