第27話 「訓練 ・ 準備運動」
ダンジョンを発見したものの、時間が時間だったので、ギルドでホップリ討伐の報告をした。
結構な数を狩ったおかげで、薬草も大分溜まった。これでHP回復薬を存分に作れるな。
その後、町の東側にある商業区で小麦粉や油、塩、胡椒、各種野菜などの食材を買った。ただ、年々不作気味で値上がりしているらしい。
「シュウ様、こんなに買って、大丈夫…ですか?」
「うん。盗賊を捕まえた時にちょっと多めにお金が入ってね」
僕も盗賊のアジトからのお金と報奨金がなければ買うのを躊躇したぐらいだし。
明日、午前中に訓練があるため、早めに宿に泊まって食事をして寝た。
魔力を使ってお湯を纏えば、シャワーを浴びたようにできるけど、出来れば毎日お風呂に入りたいな……。
どこかで気兼ねなく、そういうことができる場所があれば良いんだけどね。家を検討しようか。
それをエリィに伝えてみると、
「シュウ様は貴族様になりたいのですか?」
「いや、そういうわけじゃないよ。貴族はなんか面倒臭そうだし」
「でも……貴族でも、お風呂に入るのは2~3日に一度…と聞きました。石鹸も…高級品です」
「あー……」
平成日本育ちにとっては当たり前にあるものだから、この世界ではどうしても贅沢な生活になる。
というか、一般家庭の食費とかに比べると、この宿の宿泊費はかなり高い。
僕の場合、ガルを連れているから、余計に値段が上がっている。大金を手に入れたのに何言ってんだって感じだけど。
翌朝、二人部屋に泊まっていてベッドも二つあり、エリィとは別々で寝ていたはずなのに、起きたら僕のベッドに入り込んでいた。
僕もエリィを抱き締めて寝ていたようで、起きたらエリィがちょっと息苦しそうだった。やっぱり僕も人の温もりに飢えていたんだろうか。
二日連続で入り込んできたのをそれとなく注意しようと思っていたのに、これじゃあエリィに強く言えない。いやいや常習化されるのは嫌だから、今晩にそれとなく言っておこう。
朝食を食べてからギルドへ向かう。
早朝ではないから、混み具合も軽めのようだ。と言っても、どの列も7~8人は並んでいるけど。
受付の人と話をするため、エリィと一緒に列に並ぶ。すると、エリィを見た何人かの冒険者の表情に変化があった。
大半は、髪色を見た人が嫌そうな顔をした。呪い持ちだと思って侮蔑や嫌悪したのが表情ですぐに分かった。中には舌打ちをする者までいたし。
もう大半は、エリィの顔を見て厭らしい表情をした。分かりやすい……。
エリィはエルフという種族上、容姿が整っているし、町ではあんまり見かけない。それに長命な種族だから、子どものような容姿でも大人の可能性がある。つまり、性的な目で見たってことだ。こっちはもっと分かりやすい……。
「……っ」
舌打ちがエリィの耳にも入ったらしく、悲しそうな顔をして俯いてしまった。
そんなエリィを落ち着かせるために、頭をポンポンと撫でておいた。すると、今度は顔が真っ赤になった。
うむ、エリィの髪は素晴らしい肌触りだな。お風呂で石鹸を使った甲斐があったというものだ。………癖になりそう。
エリィの髪の肌触りが、あまりにも良すぎて僕が陥落しそうだ。
悔しい。でも、触っちゃう。
すると、周りからの視線と殺気が増えた。解せぬ。
もしかして、女の子とイチャついていると思われたのか。
よし、更にイチャついてやろうか。具体的にはエルフの特徴でもある長耳を撫で繰り回してくれよう。しないけど。
と、考え事に没頭していたら順番が回ってきた。
どんどん触りたい欲求が湧いてくるなんて、僕も溜まっているんだろうか。
「あ、シュウさん、訓練の依頼ですね?」
「はい」
「では、ギルドカードを預からせていただきます」
「分かりました」
シャロンさんに二人分のギルドカード(木級)を出して奥へ入っていくのを見送ると、後ろから苛ついた声が聞こえた。
「なんで、んな所に呪い持ちがいんだよ」
「っ!」
あ、エリィがちょっと泣きそうだ。あんまり言い過ぎるようなら、コイツを止めることも視野に入れておこう。
後ろを振り返ると、こっちを睨んだり侮蔑の視線を隠そうともしないでいる男たちがいた。男が3人、女が二人の全部で5人か。
外見で見る限り、男達の年齢は僕よりちょっと上のようだ。
「テメエ、その呪い持ちの連れか?周りに呪いがうつらねえように外の見えねえ所にでも待たせとけよ!っていうか二度とここには来んなよ!!俺は呪われたくねぇからなぁ!!」
「そうよそうよ!」
「ぎゃはははっ!!止めてやれよレオン!相手は初心者なんだ、ビビっちまって声も出てねえじゃねえか!!ぎゃはははっ!!」
「さっすがモルバド!やっさしぃー!!」
「………」
うわー、引くわー。
これも同じ冒険者かよ。関わりたくもないわー。
「シュウさん……」
戻ってきたシャロンさんが心配そうな顔をしている。
「ああ、ありがとうございます。大丈夫ですよ」
僕はね。ただ、エリィが大丈夫じゃなさそうだから、早くこの場を離れたいけど。
「あぁ!?無視すんじゃねぇよ!!っていうか、シャロンじゃねえか。いい加減俺の女になれよ。そんなチンケな男より、俺の方がよっぽどいい男だろぉが!!俺の女になれば満足させてやるぜぇ!!ぎゃはははっ!!」
うわー、いかにもなセリフ吐きおったわー此奴。あからさま過ぎて僕のテンションもおかしくなってきた。
冒険者のランクは知らないけど、流石にこれは酷いな。冒険者っていう括りに一緒にして欲しくないタイプの人間だわ。聞くに堪えない……。
エリィを落ち着かせるために、さっきから頭を撫でっぱなしだ。凄く落ちつくわー。
「それで、訓練はどこでやるのでしょうか」
「ぎゃはははっ!訓練なら俺がつけてやろうかぁ?初心者の腰抜け君よぉ!!」
「ギルドの裏に訓練場がありますので、そちらへ向かってください。すでに教導の依頼を受けた冒険者が待っていますので」
僕が悪口を言われるのは別に構わないんだけど、エリィやシャロンさんを巻き込むのは頂けないな。
それと、冒険者は力で解決するとはいえ、暴力的な言動と態度はやり過ぎかなー。手を出したわけじゃないけど、何か気に食わないことがあればすぐに手を出すぞ、っていうのを隠そうともしない。手口が恐喝と変わんないからね。
あと何より、こんな公共の場所でうるさい。こんなことでエリィがビクビクさせられているのも気に食わない。
何より、こんな近くにいるのに大声で話しやがって…うるさくていい加減ウザくなってきたわ。
「ところでシャロンさん」
「…はい」
「訓練で冒険者同士が戦う場合、どの程度の怪我をすると問題になりますか?」
「ぎゃははっ!今からてめぇの怪我の心配かよっ!!情けねぇなぁ」
うるさいな。一々大声で反応しないで欲しい。
「………殺人、欠損など、治らない傷を残すような模擬戦は、ギルドとしても許容できません」
「分かりました。なら………お願いしても良いですかねー?先輩。あと、こんな近くで大声出さないでもらえます?耳障りなんで」
「あぁ!?初心者が先輩に逆らおうってのか!?」
「違いますね。言葉を選んでください。訓練をお願いします、と僕は言ったんですよ」
「はっ!!良いぜぇ!その思い上がったテメエの自信、へし折ってやらぁ!!」
すぐにギルドの裏の訓練場に移動する。
すると、それなりの数の冒険者が訓練していた。
「エリィ。できれば、受付の方で待っていて欲しいんだけど」
「いや、です。私はシュウ様の奴隷です。だから、シュウ様の命を守る義務が、あります」
「あー…自分の命を捨ててまで守らなくて良いからね?」
命って。
「まあ、見てる分には良いけど、入ってきたらダメだよ?」
「………はい」
うん。僕が危険な目にあったらすぐに入ってきそうだ。
万が一にもありえないけど。
「先輩冒険者の俺が訓練をしてやろうってのに、何イチャイチャしてんだ!!」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえてますよ。エリィ、これ預かってて」
普段は使うことのない腰から提げた剣をエリィに渡す。
「シュウ様、これは…!!」
「大丈夫だから」
エリィに剣を押し付ける。
正直、こいつ等相手に剣とかいらないし。
レオンとかいう冒険者の正面に移動する。
「舐めてんのか、テメェ………!」
「勘違いしないで下さい。さっきも言いましたけど、訓練ですよ」
そう言って、ダンジョンボックスから取り出したのは、持ちやすいように柄に革が巻かれ、真っ直ぐに伸びた平べったい40cmほどの打撃武器。
―――所謂、「鞭」を持って相対する。
「あなた方の訓練をね」
「バカなのかテメエ!!?」
「バカとは心外ですね。あなた方をバカにはしてますけど」
「なんだとっ!!」
「すぐにその舐めた態度をとれなくしてやる!!」
「聞こえなかったんですか?あなた方って言ったんですよ?5人全員でかかって来てくださいよ。それでも………僕には届きませんから」
「…テメエ…上等じゃねぇか!!全員で訓練してやるよ!!」
「後悔すんじゃねえぞ!!」
「頭悪すぎぃ!」
「後悔させてあげるわ!!」
「泣いて謝っても許さねぇぞ!!!」
名前を見るのも面倒だから、鑑定でクラスだけを見る。
ウォリアー(剣闘士)、ディフェンダー(盾士)、ローグ(双剣士)が男で、スカウト(斥候)、ソーサラー(魔術師)が女。
バランスは良いんじゃないかな。




