第26話 「初 の 狩り と 新たな ダンジョン」
「……んー…」
なんか、少し熱いな。
右腕もちょっとだけ動かしにくいけど、なんか気持ちいいし。
薄く目を開けると、部屋の中はまだ真っ暗だった。
今の時間はどれぐらいだろうか。
「………んっ」
体を動かそうとすると、胸元から僕のではない声が聞こえてきた。
「………ま、まさか」
恐る恐るかけていた布団を捲ると、暗い中に見える白いサラサラとしたキレイな髪と僅かな息遣いが聞こえてきた。
なんで、エリィがここで寝てるの!?
いや、それよりも、僕の片腕がエリィを抱き締めているこの状況の方がマズい。僕、エリィと一線越えてないよね………?
うん、確認してみたらセーフだった。
自分の着ている衣服にも脱いだような痕跡はないし、エリィの衣服も(服装はともかく)特に乱れているということもないし、ベタついているとか湿っている気配もない。……よし、大丈夫だ。
「……ん…おか……あ…さん………」
エリィがどんな理由で奴隷になったかは分からない。聞ける内容でもないし。
ゴルドーさんの所は、奴隷を不当に扱っている訳じゃない。
でも、奴隷になってからは、自分の立場を気にして安心して眠れなかっただろうし、呪い持ちとして隔離されていたのもあって、人の温もりに飢えていたんだろう。
急いで何かをするわけじゃないし、今日の所は好きさせるか。あのオネエは許さないけど。
偶にはこんなゆっくりした朝も良いかな。
僕も二度寝しよう。これぞ至福の時だ。
エリィの目が覚めたのは、窓の隙間から少し光が射し込んで、外が人の生活音で騒がしくなってからだった。おねしょのおまけ付きで。
「ゴメンなさい…!ゴメンなさい…!」
うん、まあ久々に気が緩んだんだろうし、仕方ないんじゃないかな。
だから、布団の濡れている場所に魔力を通し、それを魔力で操作して抽出する。
ダールソンさんに教えて貰った世間で言う魔法というのは、スキルを得て(もしくはスキルを得るために)、詠唱をすることにより、魔力が魔方陣として浮かび上がり、魔法として発動するらしい。
けど、僕が使う魔法はその過程をすっ飛ばしている。だって、詠唱をするなんて恥ずかしいし。そのお陰で魔力という物を教えて貰っただけで魔法が使えた。
ダールソンさんが前に教えてくれた、スキルとして覚えたから使えるのではなく、使えるからスキルとしてステータスに出ると教えて貰ったが、世間ではスキルがあるから使えるというのが常識なんだとダールソンさんに教えて貰った。ダールソンさんがまだ人間だった頃、「使えるからスキルとしてステータスに出る」と言ったところ、世間の誰にも理解されずに笑われたそうだ。
それだけ世間では、スキルと言う物が重要だと思っているらしい。
で、ダールソンさんに習ったエリィに教えた魔法は、魔力に火や水という形を与えて使う方法だ。これは火魔法、水魔法、風魔法にしか使えない。
けど、元ある水や土を使う魔法を使う場合は別で、魔法として使いたいものに自身の魔力を通して干渉する。すると、焚き火の火を使って火魔法が使えるし、池や海の水を使って水魔法を使える。土魔法を使う場合は基本的にこっちの使い方しかできない。
つまり、服や布、体など、濡れた物はタオルで拭かなくてもこれで済ませることが出来る。
なので、触れることなく液体を回収することができた。
これを覚えて一番重宝したのは、料理をする時に、油に触らなくても油を移動できることかな。次に目にゴミが入った時。後は喉に小骨が刺さった時も使えると思う。
仕上げに、吸匂花という臭いも匂いも吸収する性質を持った花を少しの間置いておく。
「まあ、そんなに気にしなくても。とりあえず食事に行くために着替えよっか」
「は、はい………」
「って、ちょっと待った!着替えるのは僕が部屋を出てからね!」
突然、目の前で着替えられると焦る。
肌は白くてとてもキレイだったけどね!
いかん。死んだ年齢は分からないけど、今の年齢に思考が引っ張られ過ぎている。
状況確認ばっかで、そういうことを意識する暇がなかった反動もあるかもしれないけど。
シグ?別の意味で気が休まらないし、自家発電するドMを反応させないように会話するのって、気を使うから大変だよね。正直無理だと思う。
エリィの着替えを待って、部屋を出て朝食を取る。時間的には朝食と昼食の間ぐらいだけど。
んーこの後の予定はどうしようか。
もうお昼近いし、冒険者ギルドに寄ってシャロンさんに服屋を紹介してくれたお礼を言わないと。
その後に、エリィにホップリ討伐でもさせようか。
レベルとステータスが上がるかを見てみないと。
「じゃあ今日は冒険者ギルドに寄ってから、ちょっとだけ狩りをしよう」
「ゴ、ゴブリン…ですか?」
「いや、ホップリという草の魔物だな。とりあえず体を動かすのが目的だから無理そうなら言ってね?」
「は、はい」
ガルを転がしてギルドのカウンターに行くとシャロンさんがいた。
「本日はどういった御用でしょうか」
「昨日はオリヴィエ服飾店を紹介して頂いて、ありがとうございました。おかげで良い服が買えました」
「それは良かったです。………見たところ大分高価な服に見えますが、お金の方は大丈夫ですか?」
「ああ、それは大丈夫です。エリィを相当気に入ったらしくてお金は要らない、と言われまして。理由をつけて払いましたけど」
「それはすごいですね。オリヴィエ店長は気に入ったお客さんにしか服を売らないのですが、服をあげるほど気に入った方はその中でも極一部なんですよ」
「そうなんですか」
あんな服を渡したぐらいだし?
動揺したけど、良いよね。ああいうの。
「偶に行き過ぎて、ちょっと露出が多い服を渡したりしてきますけどね」
「………」
既に被害に合ってます。
というか常習犯かよ、あのオネエめ。
「でも、今日シュウさんが、ギルドに来ていただいて丁度良かったです」
「え?」
「明日の午前中に入れられている訓練の依頼についてなのですが、不都合がなければこのまま訓練教官を勤めて下さる冒険者に連絡をしようかと思いまして」
「あ、はい。依頼をお願いした時から一人増えているんですけど、大丈夫でしょうか?」
「その旨をこちらでも伝えておきます。時期によりますけど、訓練に関しては急遽人が増えることも想定して依頼を出しているので大丈夫だと思います。ただ、次からは早目の連絡をするように気をつけて下さい」
「はい、すみませんでした」
そして、エリィとガルを連れて近くの森まで移動する。
ホップリ狩りだー。
「これがホップリね」
草の塊を持ち上げてエリィに見せる。
「で、これがナイフね。あ、最初は近距離じゃなくて遠距離にする?一応弓もあるけど」
全部Lv1だけどね!…悲しい。
「えっと、弓でお願いします」
「はい、弓」
「ありがとうございます」
ついでに自分用の長弓もダンジョンボックスから出す。
僕も後でちょっとぐらい狩っておかないとね。
エリィに弓を扱わせると、最初は矢が全然飛ばなかったり、明後日の方向へと飛んでいったが、ある程度数をこなすと10mぐらいまではある程度命中させることができるようになった。
「や、やりました!」
エリィがホップリを初めて仕留めた。
【エリィがレベルアップしました。Lv2になりました】
【呪いの効果でLv1になりました。】
この世界の人はすごいな。
多少助言をしたとは言え、体が弱い少女が今では狩りをできるまでになっている。
うん、予定通りレベルは上がるようだ。
ステータスは、っと。
うん、僅かに上がっているな。僕と一緒だな。
「うん、良い感じだね。この調子で4匹続けていこうか」
「はい…!」
僕の鑑定で見て気付いたステータスの上がる法則みたいなのがあって、魔法を使ったりMPを使うことをしてレベルを上げるとMPやINTが上がり、素振りや筋トレをしてレベルを上げるとSTRが上がる。
上げたいステータスがあれば、それに関連したことをするとそのステータスが上がるっぽい。
エリィは体力や筋力が人より弱いし上がりにくいように見える。
だから、体を動かしたりしてレベルを上げれば、普通の人と同じぐらい活動することもできるはずだ。
「体を動かしているおかげか、ちょっとだけ、体が軽くなったような…気がします」
それは当然だと思う。
ホップリ5匹討伐する頃には、元々のステータスの低さもあって、STGとVITが倍近くのステータスになっていた。
このSTGとVITの二つは、HPにも関連する項目だから上げておいて損はない。
「うん、この調子で頑張っていこう」
「はい!」
途中、ルイズリーの町まで戻って昼食を挟みつつ、ちょっとずつ狩りをしていく。
「大丈夫?疲れてない?」
「はい、大丈夫です。なんだか、今日は調子が良いんです…」
「それは良かったよ」
今までとは違う、ちゃんとした食事、ちゃんとした睡眠、レベルアップによるステータスの上昇。
色々な要素が合わさって、エリィの体力を上げることができているんだろう。
「今日はそろそろ帰ろうか。調子が良くなっているとはいえ、いきなり飛ばしすぎてもダメだからね」
「はい、そう…ですね」
ちょっとだけ残念そうだ。
「これからは、毎日でも外に出れるからね」
「は、はいっ!」
頭を撫でると元気になった。
「じゃあ、これで最後にしようかな」
そう決めてサーチフィールドの範囲内に入ってきた魔物に向けて矢を放つ。
【レベルアップしました。Lv2になりました】
【呪いの効果でLv1になりました。】
「あ…」
「シュウ様?どうかしましたか?」
「あーうん。ちょっと確認したいことができた。今倒した魔物の確認に行こうか」
「? はい」
近付くと、そこには…魔石とドロップアイテムであるギザギザした葉っぱが残っている。カッターリーフっていう魔物の葉っぱかな。
全体が残らずにアイテムが残るってことは、
「あー…この近くにダンジョンがあるな」
サーチフィールドで探ってみると………あったわー。
■『森木』のダンジョン
種 族:魔法生物・鉱物種
年 齢:30歳
性 別:???
レベル:30
クラス:ダンジョンコア
前に盗賊のアジトへ行った時も、エリイを抱えて移動した時も見つけられなかったから、どうやら入り口ができたてっぽい。
「ダンジョン…ですか?」
「うん。まあ、害はないだろうから今は放っておこう。報告義務とかあるのか知らないし」
寧ろ、知られていない間に僕がクリアしておきたいぐらいだ。
名前からして森林系、植物系魔物のダンジョンかな。
明日、訓練を受けた後の予定をまったく考えてなかったから、丁度良かったかもしれない。
一応、ルイズリーの町にあるダンジョンの中身を確認してからかな。
入り口に町が出来るほど、長い年月がかかっていることから考えて、相当なレベルになっているだろうし。
最悪、ツァロとテールナーにクリアまで行って貰うことになるかもしれないな。




