第23話 「エリィ」
■2016/10/22 ニンジンっぽい野菜の名前をフニンジン→フニフニンジンにかえました。
「はい、背中流すよー」
「………」
石鹸はシグの館にあった本に作り方が書かれていた。
洗い終わったエリオットの頭と背中に、手桶でお湯をかける。
結局少し強引だったが、予定通りお風呂に入ることにした。
とりあえず今日我慢してもらえば、明日からは別に入ることもできるし。
「で、洗い終わったら湯船に入ってー。あ、タオルは湯船に浸けないでね。洗ったときに出た汚れが付いてるから」
「………はい」
大分泣いたお陰か、恥ずかしがりながらも湯船に浸かる。
「………」
「………」
やましい気持ちは僕にはない。………と思う。今まで男の子だと思ってたし。
「お湯、熱くない?」
「………はい」
「あー…お風呂、本当は夕方や夜に入るのが普通なのかもね。一日の疲れや汚れをお風呂で流す、というか」
「………はい」
「………」
誰か助けてー!
女の子との会話ってどうしたら良いんですかね?
「………その、ご主人…様は………魔法使い………なの、ですか?」
「ん?……んー」
「す、すいま…せん。出過ぎたこと…を聞きま…した」
「ああ、いや。もっとはっきり言ってくれて良いよ。質問されて怒るなんてことはないから」
自分で言うと嘘臭く聞こえるか。
「聞きたいことがあったら、遠慮なく聞いてくれ。答えられないことには答えられないって言うから。で、魔法だっけ?」
「…はい」
「あーうん。使えるね、魔法は」
「……賢者様、なのです…か?」
「賢者?って魔法使いの上に立つような偉い人だっけ。だったら違うかな。僕は記憶喪失でね。ダンジョンで目が覚めたんだけど、そこから出た時に偶々魔法を使える人に教えて貰ったんだ」
超絶スパルタ授業で。
よく生きていられたなあ。
「で、この世界のことを何も知らない状態だったから、色々なことを学ぶためにその場所から旅に出たんだ。エリオットを引き取ろうと思ったのも、エルフのことを知りたかったっていうのが大きいかな」
「でも、私…こんな…髪の色…」
「あーうん。それについてもね、商人であるゴルドーさんにも聞いたよ。呪いではないかって」
呪いって単語を聞いて顔を曇らせる。
まあ、普通はそうだよね。
「それでね、僕に魔法を教えてくれた人は、呪いにも詳しい人でね。エリオットの髪の白さは呪いではないことは知っていたんだ。色々と思い出したこともあったしね」
「呪われて…ない?」
「そう。エリオットは呪われていたわけじゃなかったんだ」
僕に引き取られるまで。
本当にどうしようか。
呪われていたわけじゃなかったのに、僕が引き取った所為で呪われた子になってしまった。本当にどうしようか!
「この白い髪は…」
「呪われていないよ(僕に引き取られるまでは)」
「…ぅ……ぐすっ!………ぅう…」
「………」
エリオットは安心したのか、また泣き出してしまった。
うわー!本当のことを言えねー!
い、いつか説明しよう…(問題の先送り)。
しばらく泣いて、大分すっきりしたみたいだ。
「…ご、ごめん…なさい。私、泣いてばっかで…」
「あーうん。仕方ないんじゃないかな。それに泣きたい時には泣いておいた方が良いと思う」
「…はい」
その時、くぅという音が鳴った。
その音の方向に向けると、エリオットが泣いて真っ赤だった顔がさらに赤くなった。
「そういえばお昼ご飯のことを考えてなかったね。ちょっと準備しようか」
そう言って、風呂を先に出る。
火魔法と風魔法で体についていた水滴を飛ばして髪を乾かす。
魔法がただの生活用になってしまっているな。実際、物凄く便利だしな。
ついでに、エリオットの服も熱を加えてぬるま湯にした水魔法の球体に入れて攪拌、その後、風魔法と火魔法を使って乾かしてく。
「エリオット」
「…はい」
エリオットと呼ぶとまだ少しだけ嫌そうな、というか悲しそうな顔をする。
あー…そういえば、引き取った時も薬草採取をする時もそんな顔してたな。
やっぱり女の子だし、男の名前で呼ばれるのは嫌だよな。
「あー…エリィ。ここに服とタオルを置いておくから、体が暖まったら出てくると良い」
「エ…リィ?」
「うん。いつまでも男の子の名前で呼ぶのもね。だから、これからはエリィって呼ぶことにするけど…良いかい?」
「………っ!!…ぅ……はぃ…!!」
その言葉でまた泣き出してしまった。
「ちょ!…あー、嫌だったら違うのでも!」
首から頭が抜けそうなぐらいブンブンと横に振っている。
「エリィ、で…お願い…します」
「…うん。分かった。これからよろしくね、エリィ」
「…はい!」
そう言って笑ったエリィの顔はとても明るいものだった。
「とりあえず、気分が落ち着くまでお風呂に入っているといい」
「はい、ありがとう…ございます」
「うん」
さて、お昼ご飯の準備をしようか。
何を作ろうかな。
今、あんまり時間をかけるのも悪いし、簡単な炒め物でもしようか。
ダンジョンボックスから、ゴルドーさんたちといる時に仕留めたスタンプボアの肉、獣魔の森に生えていた山芋のような芋、『森緑』のダンジョンに生えていた何故かフニフニした感触をしているフニフニンジンというニンジンを取り出す。
それを骨生成で作ったまな板と包丁で刻んで、骨で作った中華鍋みたいなものに入れて炒めていく。
そういえば、町で食材を買うのを忘れてたな。
肉は魔物を仕留めれば手に入るけど、野菜とか油、小麦粉、調味料みたいな食べるのに必須ではないけど、おいしくするのに足したい細かいものはまだ買ってなかったな。
後は、塩とバイトスネークの肉で作ったスープに、以前シグの所のスケルトンが作ってくれたパン。
あとは、飲み物として果実ジュース。
「これだけあれば足りるかな?」
「キュィー」
「ちょっと、待ってなー。ガルの分は今出すから」
ダンジョンボックスから、以前クリアした5つのダンジョンにあった『珊岳』のダンジョンにいた、甲殻類の殻を積み上げてガルに出す。
「あ、あの…お風呂…出ました」
「ああ、うん。じゃあそこの切り株に座って」
「あ…はい」
「スープとパンはお代わりあるから、欲しくなったら言ってね。っとその前に髪を乾かさないと」
「………あ、あの…」
「うん?どうした、エリィ」
「奴隷…が、その、ご主人様と……一緒の、こんな豪華なご飯を食べる、のは…その」
「あー、気にしなくて良いよ。僕は誰かがいるならご飯は一緒に食べたいから、遠慮なく食べてね」
以前、骨生成で作った櫛をダンジョンボックスから取り出す。
そして、風魔法と火魔法の簡易ドライヤーで乾かしながら櫛で梳く。
「それと、ご主人様じゃなくて名前で呼んでほしい。ここには僕とエリィとガルしかいないし、人目を気にする必要はないしさ。はい、終わったよ」
「ありがとう…ございます。でも……」
「良いから良いから。じゃあ、食べようか。いただきます」
「………」
強引にスプーンとフォークをエリィに押し付ける。
「エリィ。お腹は空いているんだろう?冒険者に限らずだけど、体を動かすのに食べるのは必要なことだからね。あ、それともエルフは食べれないものとかあったりするかな?肉とか」
「……あ、いえ。特にそういうのはない…です」
「なら良かったよ」
エリィが遠慮なく食べられるように、僕が率先して食べる。
ガルは僕が食べる前から殻にがっついている。うん、これぐらい良いと思う。
最初はちょっと躊躇っていたけど、少し食べ始めてからはお腹が空いていたのもあって、かき込むように食べ始める。
「こんなに美味しい物を食べたのは初めてです!シュウ…様」
「ははっ、ありがとう。誰も取らないから、ゆっくり食べると良い」
「………ご、ごめんなさい…」
「いやいや、責めているわけじゃないんだ。それだけ美味しく食べてくれると、作った甲斐があったよ」
「シュウ様はすごい…ですね。魔物を倒せて、魔法が使えて、料理ができる………私に、まだ何もできてないのに…」
「そんなことないよ。僕では薬草の見分けはあんまりできてなかったし」
「?…でも、シュウ様のはちゃんと分けれていたと…思います」
「あーうん。そういうスキルでなんとか、ね。そうだ、エリィも魔法練習してみる?」
「ぇ…でも、私、エルフなのに魔法のスキルがないって言われて…魔法は才能がなくて…」
「エルフが使うのって精霊魔法っていうんだっけ?まあ、とりあえずやってみようか。やってみたら使えるかもしれないし」
「……はい」
「さて、ごちそうさま。僕は食べ終わったけど、エリィはゆっくり食べればいいからね。僕はお風呂の後片付けをしてくるから」
「あ、私も………!」
「良いから良いから。ゆっくり食べな。そういうことはできることからちょっとずつやれば良いから」
魔力を土に通して、木の間にあった土壁を解除。
森に入った場所より、大分奥に入ったこともあって、バイトスネーク3匹が姿を現した。
お風呂を形作っていた土と石、骨をバラバラにして、お風呂の水を刃に変えてバイトスネークを仕留める。
【レベルアップしました。Lv2になりました】
【レベルアップしました。Lv3になりました】
【レベルアップしました。Lv4になりました】
【レベルアップしました。Lv5になりました】
【呪いの効果でLv1になりました。】
使った水をその辺に撒いて、バイトスネークの牙と皮を剥ぎ取って、肉をいくつかに分けてダンジョンボックスに放り込む。
うん、僕も慣れたもんだな。
取り出した魔石を腰に下げた袋に入れて、サーチフィールドで辺りを探る。
「シュウ様、食べ終わりました」
「うん、お粗末様」
「…それで、あの…質問、しても良いですか?」
「良いよ。何かな?」
「食事をする前と後にしていたもの…ってなんですか?」
「あー、あれは、食事を食べる前と後にする挨拶…かな?」
「…?」
「僕の居た所では、食事というのは命を奪って自分の命に変えるという行為だからね。あなたの命を私の命に変えさせていただきますっていうものの略なんだ。食べ物になる命、作ってくれた人、そういった人に感謝をする儀式…かな?」
「どうやって…やるんですか?」
「こうやって、手を合わせてごちそうさまでしたって言うんだ」
「ごちそうさま…でした」
「うん。そんな感じだよ。さて、後片付けも終わったし、町に戻ろうか。薬草を受付に持っていかないといけないし」
「…はい!」
あとは、ギルドカードの名前って変更できるんだろうか。
できるならエリオットからエリィに変えたいんだけど…。ちょっと聞いてみないとな。
帰りの道は、エリィの足に合わせてガルと一緒にゆっくりと進んでいった。




