第22話 「実 は」
「そろそろ冒険者ギルドも空いてくると思うから、とりあえず行ってみようか」
「………はい」
歩いていると、周りから視線を感じる。ヒソヒソとした話し声も聞こえる。
まあ、呪いって思われている白い髪のエリオットと、見たこともないような白色のクロウラーを連れていればこうなるよねー。
ガルを従魔スペースに転がして冒険者ギルドに入ると、さっき来たときよりも大分空いていた。
朝あれだけ込むなら、来る時間は少し遅らせた方が良いかな。
木級は常設依頼だって言っていたし、報告する以外でここに来る必要はないだろうし。
「おはようございます。本日はどういったご用件でしょうか」
受付まで進むと、青髪のロングストレートの巨乳で綺麗なお姉さん、シャロンさんがいた。
「この子の冒険者登録をお願いしたいんですけど」
「あの、シュウさん。そちらの子は…?」
「えーっと、僕の奴隷ですかね?引き取ることを決めていたもので」
「この間の質問は、この為でしたか。分かりました、ではこちらに記入して下さい」
「分かりました。名前はエ、リ、オ、ッ、ト…と」
「え?」
「え?どうしかしましたか?シャロンさん」
「あ、いえ。すいません。どうぞお気になさらず」
「はあ…」
なにかおかしかっただろうか。
まあ、いいや。
よし。
「書けました」
「はい。確認いたします。…はい、確認できました。では、ギルドカードに血をお願いします。奴隷に関しては、奴隷がした悪事は全て主人であるシュウさんに責任がありますので、お気をつけ下さい」
「分かりました、大丈夫だと思います。それで、今日は薬草の採集を受けたいと思います」
「薬草の採取ですね、分かりました。では、薬草についての説明をします。似たような草に毒草があるので気を付けて下さい。薬草に関してはどれだけ持ってきて頂いても構いません。傷を治す薬はどれだけあっても困りませんから。それと依頼料は持ってきた量によって決まりますので」
「はい、分かりました」
「では、こちらがカードになります」
「ありがとうございます。行こう、エリオット」
「………はい」
ギルドを出て、ガルを回収して南門を目指す。
そして、僕とエリオットのギルドカードを門番に見せて森を目指す。
今日はちょっと曇り気味かなー。
朝はあんなに日が射し込んでいたのに。
「じゃあ、薬草採取しようか、エリオット」
「………はい」
ちょっと嫌そうな顔をしている。
まあ、奴隷になっているだけでも嫌だろうに、あれこれ言われてやらされているんだ。そりゃあ嫌な顔の一つや二つしたくもなるか。
背中の辺りで骨生成を使い、採取した薬草を入れる器と切り取り用のナイフを作ってエリオットに渡す。
「ガルはエリオットに付いてやっててくれ。あと、薬草食べるなよ」
「キュィ!」
採取を始めてみた。…けど、うーん。見本を見せて貰った上に特徴を聞いているのに、あんまり見分けが付かないな。
エリオットは大丈夫だろうか。
「エリオットー。薬草の見分けつくかー?」
「え?………はい」
「うわ、マジか。悪いけど、ちょっと教えてくれ。これは薬草か?」
「………それは、似て、います…けど、毒が…ありま…す」
「違うのか。じゃあこれは?」
「それは、薬草…です」
「なるほど」
分からん。
「邪魔をして悪かったな、エリオット」
「…ぁ…いえ……」
エリオットから離れて考えてみる。
うーむ、このままだとエリオットに頼り切りの役立たずになるな。
それはなんかダメだな。奴隷の使い方としては正しいのかもしれないけど。
でも、違いが分からないのに作業をしてもなー。
……あ、一つ一つ『鑑定』したら良いのか。
■薬草
レベル:2
説 明:ちょっとした傷を治す。そのまま食べたり、傷に当てるだけでも効果がある。
■毒薬草
レベル:1
説 明:薬草に似ているが、毒がある。ちゃんとした方法で作れば解毒薬になる。
■雑草
レベル:7
説 明:雑草。毒にも薬にもならない。食べられないことはない。
なるほど。
鑑定を使えば分かるな。
自分で見分けてないのがダメだけど。
使えない主人だと思われる訳にはいかない。ただ、エリオットはもう奴隷じゃないんだよなー。
いつか説明しよう。そうなると僕の呪いも話さないといけなくなるけどな。
3時間ぐらい採取をしていると、エリオットに渡した器一杯に薬草が入っていた。それも3つ。
毒草も含めて余分に取っても、僕にはダンジョンボックスがあるから無駄にはならない。
いずれ薬を作ることもするかもしれないので、ストックは多いに越したことはない。
「そろそろ良いかな」
エリオット達にそろそろ終わりにしようかと声をかけようと思っていた、その時。
「ギャアー!!」
「ギャギャー!」
「……ひっ!」
「ん?」
少し離れていたエリオット達の方から、威嚇する声が聞こえた。
振り返ると3匹のゴブリンがエリオット達に向かってきていた。
そして、腰を抜かしてしまったのか、エリオットが尻餅をついて動けなくなっていた。
あーちょっとマズいな。
2匹がガル、1匹がエリオットに、武器として持っていた棍棒を振りかぶって襲いかかっていた。
魔力を体に巡らせて、一瞬のうちにゴブリンとエリオットの間に体を割り込ませる。
ゴブリンの棍棒を左手で受け止めて、右手でエリオットの頭をポンポンと叩いて頭を撫でる。
ガルの方は、当たる場所に意図的に肉を凝縮することによって棍棒を弾いていた。弾かれた棍棒は折れて砕け散った。
「大丈夫だ」
「……ぁ」
「ガル、そっちのは任せるぞー」
「キュィ!」
「ほいっと」
「キュィー!!」
僕の方は蹴りで、ガルの方は体当たりでゴブリンは沈んでいた。
ガル、というかクロウラーなどの芋虫は、全身が筋肉で構成されている。
筋肉というのは重い。そのため、攻撃に移れば2m近くの肉の弾丸となり、肉を部分的に寄せれば硬くなって防御にもなるという全身武器とも言える体をしている。
そんなものに潰されれば、どうなるか。
地面や木に埋まっている全身の骨が砕けたようなゴブリンを見れば、一目瞭然というものだ。持ち上げるのもかなり辛いし。
「大丈夫か?エリオット」
、振り返ってみれば、エリオットが僕の服の裾を掴んでいた。
「………ぅぁ……」
それと、地面には大きなシミが出来ていた。
あー、しょうがないか。比較的安全な依頼を選んだけど、魔物に襲われないわけじゃないしなー。
奴隷になった以上、命の危険はあるだろうけど、こういう隠しもしない悪意に晒されるっていうのはまた別だと思う。
「エリオット」
「………っ!」
「あー、いや。別に怒ってないから」
もう一度頭をポンポンする。
「そのままじゃ気持ち悪いだろうけどし…」
んー。この辺だと人が通りそうだし、人がいなさそうな場所っていうと………盗賊のアジトの近くが良いかな。
「…っ!!……ぁ」
「ちょっとの間、口閉じてな。ガル、丸まってくれ」
エリオットとガルを片手ずつで抱えて、森の中を走り出す。
そして、1時間ほど走った所で、少し空けた場所を見つけて止まる。
「この辺にしようか。ちょっと作業するから、ここで座っていてくれ」
エリオットを切り株に下ろし、ガルを転がす。
魔力を使い、辺りの草を刈り取って積み上げ、土と石を使って四角い箱を作り出し、周りを骨と石で補強する。
中に炎と水でお湯を作って注ぎ込む。
あとは、木と木の間に土壁を作り出して周りから見えないようにする。
ちょっと細かいけど、簡単な脱衣所も作った。
簡単だけど、お風呂の完成だ。いやー、魔法って便利!
「エリオットー」
「……はい」
「風呂の使い方は分かるー?」
「……………いいえ」
「じゃあ、教えるから一緒に入ろうか」
「…………………………え?」
出た時に、体を拭くタオルと着替え……あ、エリオットの歳でも水鳥のオモチャとかあった方が良いんだろうか。
適当にダンジョンボックスから取り出して置いておく。
「じゃあ、ここで服を脱いだら風呂に入ろうか」
脱衣所で服を脱いで、浴槽に手を入れてみる。うん、ちょっと温くなっているけど、気温からすると丁度良いかも。温かくしたければ、炎魔法で追い焚きしたら良いし。
脱衣所に戻ると、エリオットはまだ服を脱いでいなかった。
「どうした?」
「あの……や、やっぱり…奴隷が……その…お風呂に入るのは………その」
「ここは人の目がないし、大丈夫だ」
「で、でも……」
ああ、そうか。
風呂に入る習慣がないから、裸になることに慣れてないのか。
柵があるとはいえ、外だしなー。
男同士でも、裸の付き合いを恥ずかしがったり、嫌だという奴もいるしなー。
僕も知り合いとかいるとちょっと恥ずかしいし、できれば一人で入りたい派だ。
でも、エリオットはお風呂を使ったことがないって言ってるから、始めに教えるだけで良いか。
「とりあえず…」
声をかけようとしたら、裾を握って引っ張っていたエリオットの服からピリ…ピリ…という音が聞こえてきた。
次の瞬間、服のあちこちが裂けて、エリオットは一糸纏わぬ姿になっていた。
「……っ!きゃぁぁああああっっっ!!!」
「………え?」
悲鳴とともにエリオットはしゃがみ込んでしまった。
ただ、しゃがむ前に見えたエリオットの股の間には、男であれば本来あるべき物が付いていなかった。
「………女の子?」
「っ!………うぅっ!!」
その一言でポロポロと泣き出してしまった。
うん、これは僕が悪い。
男の子だと思っていたら、女の子だった。
「あー……すまん、名前からして男の子だと思い込んでいたよ………」
「…ぅ……ぐすっ!………ぅう…」
「………」
どうしよう、この状況。
実は女の子でしたー




