第18話 「ぬ と 後始末 へ」
前話の時に書き忘れていましたが、評価をして下さった方がいたようで。どうもありがとうございますー
「ねーねー、シャロン。シュウ君って、良い感じじゃない?」
「こら、今は勤務中でしょう」
「良いじゃない。どうせ、この時間は人いないんだし」
「はあ………。ちょっとだけよ」
「やりー!で、シャロンから見て、シュウ君の印象は?」
「まあ、年齢の割にはとても丁寧だし、謙虚で好感が持てたのは事実かな。貴族の子息って言われても信じられるぐらいしっかりしてるし」
「そうだねー。冒険者ってちょっと職業柄、あそこまで丁寧な人ってほとんどいないもんねー。それに、貴族みたいな傲慢さも全くなかったよねー」
「記憶喪失って言ってたから、その所為じゃないかしら。………実力が合ってないとは思うけど」
「スタンプボアとバイトスネークの素材を持ってきたんだっけ」
「そうね。元々優秀な冒険者………にしては、シュウさんは随分と年齢が若いし」
「あーあー、良いなーシャロンは。シュウ君の担当になれて」
「もう、何言ってるのよ。贔屓しているわけじゃないんだから。それに、今の言い方だと他の冒険者の方に失礼でしょ」
「いやーごめんごめん。シュウ君が良い子だからさー」
「まったく、もう…」
「テメェ、ちょっとツラ貸せや」
振り返ると、酒場で飲んでいた冒険者4人がそこに立っていた。
「あのー………何か御用ですか?」
「良いからツラ貸せや!!」
えー、何この状況。
酔っ払いが絡んできた!!
いらんわ。そんなもん。
というか、初対面だよね。今日始めてこの町に来たんだし、それは間違いないはず。
誰かと間違えている可能性があるな。確認しておこう。
「その、誰かと間違えてませんか?初対面ですよね?」
「そうだ。てめぇで間違いねぇ!!」
うん。初対面だ。何の用だかさっぱり分からん。
「えーっと。何の用でしょう」
「良いからツラ貸せっつってんだろぉがぁ!!シャロンちゃんと仲良く話しやがってよぉ!!」
「「シトリアちゃんともだ!!」」
「えっと………依頼の内容で分からないことがあったので、確認をさせてもらっていただけなんですが…」
「関係ねぇ!!シャロンちゃんは俺の嫁になるんだよ!!」
「え、シャロンさんと婚約されていたんですか?」
「てめぇ、何言ってんだ!シャロンちゃんは俺の嫁になるんだよ!!」
「シトリアちゃんは俺の嫁だがな!!!」
「いや、それはない」
えーっと。つまり………どういうことだ?
「キュィ?」
「ああ、うん。行こうか、ガル」
「待てやコラァ!!何逃げようとしてんだ。ツラ貸せっつってんだろ!?」
面倒だな…。盗賊みたいに痺れさせて気絶させようか、と考え始めていた時、
「お前たちぬ…やめないかぬ!!」
そう言って、僕と酔っ払い冒険者との間に立ち塞がる体格の良い男が一人。
ぬ?
「ああ!?って何だ、お前かよ。どっか行けよテメェ」
「そうはいかぬ! 寄って集って一人を囲うとはぬ………男の風上にもおけぬ!!」
「黙れ、テメェに用はねぇんだよ!!」
「やるのかぬ?」
「………チッ、行くぞテメーら」
「命拾いしたなテメェ」
「………ふんぬ。口ほどにもない奴等だぬ。もう大丈夫だぞぬ、少年ぬ」
え、何。この人さっきからやたら「ぬ」がうるさいんだけど。
どっかの方言を無理やり翻訳された結果なのかな。
「えーっと、ありがとうございます。あなたは…?」
「私の名前はドランだぬ」
「ドランダヌさん?」
「違うぬ。ドランだぬ」
「ドランダヌさん」
「いやぬ、もう良いぬ。それよりぬ、ああいった輩はどこにでも居るものだぬ。気をつけるぬ」
「はあ、どうもありがとうございます………?」
うん、さっきからやたら「ぬ」が聞こえて幻聴かと思っていたけど、耳はちゃんと聞こえてるようだ。だって、
■名前:ドラン
種 族:人間
年 齢:22歳
性 別:♂
レベル:32
クラス:ソードファイター
状 態:【呪い:語尾に「ぬ」が付く呪い(初級)】
なんだ、その呪いは!
呪いっていうより、嫌がらせじゃないか!
そんなので良いのか、呪い。
「えーっと、ドラン…さん?」
「おおぬ!!それで合っているぬ!!!初対面で名前を分かってもらえたのは初めてだぬ!!」
やめて、そんなに近寄らないでほしいぬ。あ、うつった。
申し訳ないけど、体格が良いからとても暑苦しい。
でも、さっきまでの会話を思い出せばそうなるわな。
僕も『鑑定』で見なければ分からなかっただろうし。
「助けていただいて、どうもありがとうございました」
「礼には及ばぬ。私がやりたくてやったことだぬ。また何かあれば頼ると良いぬ」
礼には及ばぬぬ、にはならないのか。
語尾に「ぬ」が付くから、武士っぽい話し方をした方が違和感がないのかも。
いや、どうでもいいけど。
「そうですか。大変そうですね」
「そうでもないぬ。最初はそうだったがぬ、今では分かってくれる者も増えたぬ」
「でも、本当に助かりました」
あと少しドランさんが割り込むのが遅ければ、町中で雷魔法か風魔法をぶっ放していたところだ。
一応加減はできるけど、被害が出たり目撃者がいると面倒なことになっていたと思う。
「木級に手を差し伸べるのは当然のことだぬ」
うん。4人の冒険者相手にして初心者を助ける図は、素直に格好良いと思った。呪いの所為で台無しだけど。
所変わって、南門。
門番にさっき出来たばかりのギルドカードを見せる。
「ああ、今朝通ったやつだな。そっちの白いのは従魔だったのか。確認した。通って良いぞ」
「ありがとうございます。行こう、ガル」
「キュィ」
門を出て、少し離れた所でガルには丸まってもらい、転がしていく。今は速度が欲しいし。
冒険者ギルドで聞いた通り、テイマー自体珍しい上、虫系を従魔にしている人はほとんど居ないらしい。まあ見た目は狼とかの方が格好いいよね。
目立ちたくないなーと思っていたけど、すれ違う人は皆見てくる。すでに目立っているしな。諦めよう。
魔法を使える人も少ないらしいし、目立ちたくないなら、人前で魔法を使うのも本当は良くないんだろうけど。
使えることを知っているのは、ゴルドーさん含めた数人と奴隷、出会った時に捕まえた盗賊、そこから話を聞く騎士団ぐらいか。
騎士団に知られた時点で、もう隠すのは無理じゃないかー!
………うん、諦めよう。
何も考えずに行動するからー。
まあ、いっか。属性魔法も、無詠唱もスキルにあるから言い訳が利くし。
近くの森の中まで入り、木々で町の防壁が見えなくなった所でガルを転がすのを止める。
サーチフィールドで周囲を確認。周りに人影はないな。よし。
「テールナー」
僕が森の中に声をかけると、僕の脇に控えるような位置に、音もなく人が降り立って跪く。
うん、いきなり知らない人がこの位置にいたら驚くのは間違いない。
さて、この後ろに控える人、実は人じゃない。
タ行から始まる名前で僕が名付けたスケルトン。その内の一人だ。
■名前:テールナー
種 族:人型・転生種
年 齢:0歳
性 別:♂
レベル:1(永続)
クラス:スケルトン・アサシン
状 態:隷属・忠誠
タルタス、チェスター、ツァロ、テールナー、トロンと名付けた五人は、訓練をさせた結果、ただのスケルトンではなくなった。
具体的に言うと、クラスに表示されていたスケルトンの後ろに、それぞれナイト、ブレイド、アーチャー、アサシン、ガードナーという名前が付いた。
いやースケルトンってアンデットだけあって、疲労や睡眠とは無縁だから、命令さえしてあれば僕が寝てる間もずっと訓練してるんだよね。
それぞれ違う役割を与えたくて、タルタスには盾と片手剣、チェスターには両手剣、ツァロには弓、トロンには盾とメイスという風に違うことをさせていたらそうなった。
このテールナーには、隠密行動ができるようにゲームとかのニンジャの真似事をさせていたら、スケルトン・アサシンになった。
さすがに骨のままでは目立つので、服を着せたけど。
服はダンジョンの近くにあったゴブリンの集落とかを潰したときに戦利品としてあったのを流用。
地味で目立たない色の服が結構あったから、村人とか森を通る馬車から略奪でもしたんだろう。
実はこのテールナー。
いざという時の為に、ツァロと一緒に付かず離れずの距離で僕の護衛をしてもらっていた。
そして、ゴルドーさんに出会ったときに、治療と捕縛の間に指示を出して、盗賊のアジトを探してもらっていた。
「ツァロがいないって事は、アジトは見つかったのかな?」
流石にダールソンさんみたいに話せる訳ではないけど、頷いて応えるぐらいはできる。
元人間と魔石から生まれる魔物との違いなんだろうか。
いや、あの人が異常なだけな気がしてきた。
色々と変わってるしね。
「じゃあ、悪いけど案内してくれ。ガルは悪いけど、また丸まってくれ」
「キュィ!」
ガルを担ぎ、先行するテールナーを追いかける。
走っていると、ダールソンさんのスパルタ授業を思い出すな-。
ダンジョンの魔物が湧く中、罠を回避しながら時にはダールソンさんの話を聞く。時にはダールソンさんに聞いたものを実践する。時にはシグに稽古してもらう。時にはクーちゃんと戯れる。
階層が下がる度に魔物は強くなるし、数や種類も変わるし、途中でわざと宝箱を探す、魔物が大量に居るトラップ部屋を探して敢えて入る、中の魔物を剣のみで倒す、魔法のみ、武器なし………等々。
うん。本当によく生きていたよなー、僕。
おかげで、こんなにも速く走れるようになりました。
走り始めて3時間ほど。途中でダンジョンボックスから昼食や飲み物を取り出して、飲み食いしながら走った甲斐があった。
ここはルイズリーの町から馬車で3日ほどの距離。
とは言っても、森がある山だから、馬車では通れる道が限られているから3日というだけで、直線距離で言えば馬車で半日ほどしかない。
山をぐるっと回ってくるから時間がかかるだけで、高低差が激しかったり、魔物がやたら出てくるし、人が踏み入ってなくて道と呼べるものがないというのを無視できればの話だけど。
こんなところでよくもまあ盗賊続けられたね。捕まえたのは10人ぐらいだっけ。食料を確保するだけでも大変だったろうに。
いや、逆か。こんなところで盗賊やってられたから捕まることがなかったんだろう。
しばらく森の中を進むと、崖を挟んだ向こう側に洞窟が見えてきた。
いい加減、ガルが重くなってきたな。全身筋肉の塊だし。
しかし、よくもまあ、あんな場所にアジトを構えたなー。
洞窟を観察していると、横からスッと音もなく狩人の格好をした骸骨が出てきた。ツァロだ。
「あれがそうなの?」
ふむ。ツァロが頷いているから間違いなさそうだ。
「出入り口はあそこ一つだけ?」
首を横に振っている。一つじゃないのか。
「全部でいくつぐらいあるの?」
二本指を立てている。所謂、ピースサインだ。なるほど。二つか。
「一応、残党がいるかもしれないからもう一つの出入り口に回ってくれるかな。僕がサーチフィールドを発動したら気づいて逃げるやつもいるかもしれないし。その場合は、足を狙い射ちにしてくれれば良いから」
僕が指示を出すと、音もなくツァロとテールナーは消えていった。
さて、中の様子を確かめるとしようか。




