17、学園へ
中の人の仕事が増えたこともあり、今まで毎日2話投稿でしたが、これからは1日1話投稿にします。これからもご愛読よろしくお願いします。
しばらく経ち、ルネはほぼ同じ年になってしまったのか、セシリアのことを「おねえちゃん」ではなく「セシリア」呼びに変わった頃だった。
朝、セシリアは食卓に置かれた一通の手紙を見つめていた。
「……学園、か」
王国から届いたその手紙には、十五歳になった者は学園へ通い、魔法や戦闘、歴史などの知識を学ぶこと、と記されていた。
十五歳。
今のセシリアとルネは、どちらもその年齢に当てはまる。
つまり、二人とも学園へ行かなければならないらしい。
「ねえ、ルネ。これ、どう思う?」
「どうって……行かなきゃいけないんでしょ?」
向かいの席でパンをかじっていたルネは、手紙をちらりと見て答えた。
「まあ、そうなんだけど……」
「じゃあ、行けばいいじゃん。学園って、どんなところなの?」
「それは……」
セシリアは言葉に詰まった。
知っている。
よく知っている場所だった。
かつて、セシリアが勇者として過ごした場所。そして、シトと出会い、何気ない日々を重ねた場所。
楽しかった思い出もある。
けれど、思い出したくないことも、そこにはたくさん残っていた。
「セシリア?」
「……ううん。なんでもないよ」
セシリアは小さく首を振り、手紙をたたんだ。
過去を思い出したからといって、今の自分が変わるわけではない。
そう思おうとしても、胸の奥には、言葉にできない感情が静かに沈んでいた。
「私も一緒に行くよ」
ルネが突然そう言った。
「え?」
「だから、学園。セシリアだけ行くのも変でしょ?」
「いや、ルネも十五歳なんだから、最初から一緒に行くことになるんだけど……」
「そうなの?」
「そうなの!」
思わず声を張り上げると、ルネはきょとんとした顔をした。
その様子がおかしくて、セシリアはつい笑ってしまう。
「もう。ちゃんと手紙を読んでよ」
「細かいところはセシリアに任せる!」
「任せないで!」
いつものようなやり取り。
それだけで、さっきまで胸の中にあった重たい気持ちが、ほんの少しだけ軽くなった。
シトと過ごした日々は、もう戻ってこない。
それでも、今のセシリアには、隣で笑うルネがいる。
過去を忘れる必要はない。
ただ、過去だけを見つめて生きる必要もないのだ。
「……よし。じゃあ、二人で学園に行こうか」
「うん!」
ルネは嬉しそうに頷いた。
こうして二人は、学園へ通う準備を始めることになった。
そして数日後。
セシリアとルネは、王国の学園の門の前に立っていた。
「……変わってないなあ」
目の前に広がる建物を見つめ、セシリアはぽつりと呟いた。
懐かしい景色。
かつて歩いた廊下も、授業を受けた教室も、きっとあの頃と大きくは変わっていないのだろう。
そして、この場所にはシトとの思い出が残っている。
胸が少しだけ痛んだ。
「セシリア、早く行こうよ!」
先に歩き出したルネが、振り返って手を振る。
「……うん、今行く!」
セシリアは一度だけ学園を見上げ、それからルネのもとへ歩き出した。
今度は勇者としてではなく、一人の少女として。
新しい日々が、ここから始まる。
懐かしい場所で、懐かしい思い出を胸に抱きながら。
セシリアはルネと並んで、学園の門をくぐった。




