16、十五歳の生活
朝、目を覚ましたセシリアは、しばらく天井を見つめていた。
いつもと同じ部屋。
いつもと同じ寝台。
窓から差し込む朝日も、聞こえてくる鳥の声も変わらない。
けれど、一つだけ大きく違うことがあった。
「……本当に、十五歳になっちゃったんだなぁ」
セシリアは自分の手を持ち上げ、しげしげと眺めた。
少し小さくなった手。以前より細く感じる指。
寝台から起き上がると、身体がふわりと軽くなった。
試しに、その場で軽く跳ねてみる。
「おお……!」
思った以上に身体が動いた。
もう一度、今度は少しだけ勢いをつけて跳んでみる。
「おおお……!」
着地も軽い。足取りも軽い。
まるで身体の中から余計な重さがなくなったようだった。
もちろん、以前の身体にだって不満はなかった。
けれど、これほど動きやすいとなると、少しばかり感動してしまう。
「これなら、走るのも楽そうだね」
勇者として戦うことを考えれば、身体が軽いのは悪いことではない。
……とはいえ、今は戦闘訓練の最中でもなければ、魔物と戦っているわけでもない。
朝から跳ね回っている理由としては、少々どうかと思う。
セシリアは小さく咳払いをして、乱れた寝間着を整えた。
「よし。今日も頑張ろう」
そう呟いて部屋を出ると、ちょうどルネが廊下を歩いてきた。
「あ、セシリア。おはよう」
「おはよう、ルネ!」
元気よく返事をしたところで、セシリアはぴたりと止まった。
……今の声、少し高くなかっただろうか。
ルネも気づいたらしい。彼女はセシリアの顔をじっと見つめた。
「なんだか、いつもより元気だね」
「そ、そうかな?」
「うん。なんだか、少し子供っぽい」
「こ、子供っぽい!?」
思わず声が裏返った。
ルネはきょとんとしたあと、くすりと笑う。
「今の反応も、ちょっと」
「うぅ……」
セシリアは頬を膨らませた。
その仕草をしてから、さらに恥ずかしくなる。
十五歳の身体になったからといって、心まで十五歳に戻ったわけではない。そう思っていたのだけれど、身体が変われば、自然と振る舞いまで変わってしまうのだろうか。
「……ルネ、笑わないでよ」
「ごめん。でも、嫌じゃないよ」
ルネはそう言って、穏やかに目を細めた。
「今のセシリアも、セシリアだから」
「……そっか」
その言葉に、セシリアは少しだけ目を丸くした。
今の自分は、以前とは違う。
背丈も、手足の長さも、声も違う。
鏡を見れば、そこに映るのは十五歳の少女だ。
それでも。
「姿が変わっても、私は私……だよね」
口にしてみると、不思議なくらい自然に思えた。
勇者として積み重ねてきた経験も、誰かを大切に思う気持ちも、これまでの旅で得たものも、身体が変わったくらいで消えてしまうわけではない。
もちろん、戸惑うことはあるだろう。
今までできていたことが、同じようにはできないかもしれない。
それでも、自分は自分だ。
「よし! 朝ごはんにしよう!」
「うん。……やっぱり、少し子供っぽいね」
「ルネ!」
今度こそ、セシリアは本気で抗議した。
その声を聞いて、ルネはまた笑った。
そんな、いつもより少し賑やかな朝。
セシリアはまだ知らない。
この経験が、いつか別の誰かと向き合うとき、自分の心を支えてくれることを。
姿が変わっても、その人がその人であることは変わらない。
だからこそ、目の前の相手を、誰かの面影だけで決めつけてはいけないのだ。
そのことを本当に理解するのは、もう少し先の話だった。




