12、パン屋 セシリア
1人のパン屋がパンをこねていた。
銀の髪と青い目を持った彼女は、その姿を粉まみれにしてパンをこねていた。
彼女はセシリア。
15年前に魔王を討伐した勇者で、平和になった世の中で港町にパン屋を開いている。
彼女のパンは町の中でもかなりの評判だ。
彼女は銀髪碧眼の整っている顔立ちと言えども、もう30代。
彼女は学生時代、とても大切な人を失った。
その関係で、本来学園に通うはずだった期間の半分を学生として過ごせてない。
その前も勇者として、あまり学園で馴染めなかった。
全体的に、彼女はあまり学生というものを過ごせていない。
「はぁ…..学生かぁ….」
彼女は失った「彼」を思い出す。
不満はない。後悔もない。だけど…..
「いかんいかん。全ては過去、終わったことだ。」
彼女は気を取り直して、透明な粒を摘む。
「これ、美味しそう….パンに入れるか」
普通の人なら、透明な粒をパンに入れない。食用のパンに。
しかし彼女は、元でも勇者。逞しいのだ。
この透明な粒は、港町に来た行商人から貰ったものだ。
行商人曰く、旅をしていたら拾ったらしい。
この判断がまさかあんなことに…..
◇
パンをかまどに入れて焼き始める。
セシリアはその間にテーブルの準備をする。
一人暮らしとはいえ、癖は抜けない。
セシリアは、何も飾られていない壁を見て感慨にふけっていた。
そこにはもともと、聖剣が飾られていた。
魔王を討伐した聖剣だ。
それは、とある少女に渡した。
その少女は5年前にこのパン屋に来たルネという子だった。
ルネは当時10才だった。
黒髪黒目で、整った顔立ち。
どこか失った彼を思い出させるような見た目。
セシリアは、そんな見た目に惹かれて一緒に旅をした。
なんてことない2人旅だった。
美味しいものを食べ、綺麗な景色を見て、古代の遺跡を少しだけ見る。
その旅を通してルネは、自分自身の生きたい人生を見つけた。
セシリアはそんなルネを見て、聖剣を託した。
自分の代わりにルネのそばにいて欲しいと。
「もう5年か」
何もない壁を見て呟く。
長いような、短いような、そんな日々だった。
「そろそろ焼きあがってる頃かな??」
かまどからパンを取り出す。
ホカホカと湯気がたちのぼり美味しそうだ。透明な粒さえ入っていなければ。
セシリアはそんなことも気にせずテーブルに盛り付ける。
「いただきます」
食前の挨拶を終え、チーズをパンに挟み、口に含む。
「うん、美味しい」
口からチーズがとろりと溶けているのはご愛嬌だろう。
◇
そのまま食事を済ませ、片付けをしているところだった。
視界が歪む。
吐き気がする。
明らかにあの透明な粒が原因だろう。
そうして、セシリアは意識を失った。
セシリア「全ては過去、終わったことだ。」
シト 「過ァ去ォ!???」




