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第3話:ソルト村の守り神 後編

「カルメル! エル! 早く逃げろ」


 叫ぶバクとは対照的に、ダンがただ一人、広場に残って大蛇と対峙している。

 その様子を知ったバクが「お前も逃げろよ!!」と声をかけるも反応はなかった。


「お父さん!」

 エルの嘆きも虚しく、ダンは大蛇の方へと駆けていく。


 「ちくしょう、俺も行く」

 そう呟いてダンの後を追おうとするバクの手を掴んだのはエルだった。


「ダメ、バクまで」


「でも、お前のお父さんなんだろ」


 エルは何も言わずに俯くだけだった。

 そんな中、カルメルがバクの元へと歩み寄り話し出す。


「スキルとは、魔法の自動化である。ワシの師匠がそう言っていた。バク、お前のスキル、ポップコーンとやらは何かを加熱するんだろ? だから、お前は高温を纏い耐えることができる。本質を見極めることが持ってるスキルを真に使うということ」


 バクは頷き、エルの手を振り払って、大蛇の方へと走り出す。

 そんな最中にもカルメルの言っていた言葉について考えていた。そこに何か決定的なヒントがあると感じていたからだ。


 スキルが魔法の自動化なんだとして、ポップコーンを作るスキルってのはどういうことだ。

 落ち着け、冷静に考えろ。


 ポップコーンを作るのに必要なのは種、いや、とうもろこしか。あとはなんだ、それくらいか。だけど、それだけで何が出来るっていうんだ。


『お前は本当にアホだな。アホすぎて出てきちゃったじゃないか』


(あ、この声)


 神がバクの脳内に情報として埋め込んだAIが突如話し出す。


『お前、いなくなったんじゃないのかよ』


 大蛇はダンを視界に捉えて、大きな口を開け始めた。


『私はあなたが死なない限り不滅です。獣に喰われて死ぬと思っていたので驚きました』


『運命共同体なら、見捨てないで突破口を考えてくれよ』


「お前は私の好みではない。よって、力は貸さない』


 バクは全速力で走りながらもAIとの会話を続けていた。


『力はいらないから知恵を貸せ』


『必要トークン数を使い果たしたので本日は回答出来ません。回答が欲しければ課金をしてください』


 その時、ダンが自慢の拳を大蛇に叩き付けていた。

 物凄い衝撃音と爆風に飛ばされないよう地面に這いつくばる。


『クソ、どこに課金しろってんだ。大体、お前は金もらっても使えねーだろうが』


 爆風がおさまった後に、バクは再び走り出す。けれど、大蛇が開いた口から緑色の粘液のようなものを飛ばし出したので、慌てて足を止めた。


『私にとっての課金はお金ではないです』


『じゃあ、なんだよ。てか、俺のスキルのこと何か分かったんなら早く言え。なんでも渡してやる』


『承知しました。あなたの寿命を五分頂戴しました』


「はあ! 寿命?」

 バクが思わず声に出してしまう。


『あなたのスキル、ポップコーンはあのお爺さんがいうには完成形なんです。ポップコーンに至るまでの工程を分解して考えるのです。元となる爆裂種のとうもろこし。植物性油、加熱、そして急激に温められた種の中の水分が暴発してポップコーンになる。これらを一気に行うことがスキルです』


(つまり、この工程を部分的に使えるってことか?)


 バクは推論を確かめるように右手に意識を集め始めた。

 滑りのある液体、油が溢れ出す。


「マジで出てきた。そんでここに熱を加える」


『もっとです。油は380℃ほどで発火します!』


「うぁあああああああ!!!」


 バクは炎を纏うことに成功し、大蛇の方へと再び走り出す。

 そんな姿を遠目に見ていたエルとカルメルは驚きを隠せずにいるようだった。


「バクの適性は水だって言ってたのに。あれって、火属性」


「いや少し違う。火を生成したというよりは、火を作り上げたように見える。エル、よくみておけ」


「え?」


「これが、ユニークスキルを持った者とそうでない者の差じゃ」


 バクが右手に火を纏いながら大蛇の近くまでやってくると、おそらく先ほど撒き散らされた緑色の粘液ガスに弱らされてしまったダンの姿が見えた。

 苦しんではいるが重症でもなさそうな姿を見て安堵のため息を吐きながらも叫ぶ。


「ハゲ頭! 俺を蛇の口まで運んでくれ!!!」


 バクは勢いを殺すことなくなくダン目掛けて走って行き、ダンは臨戦体制に入る。


「お前なんかの力は借りたくなかった」


 そう呟いたダンは、走り去る勢いのバクの左腕を掴み、自分が駒の中心となって回り始めた。

 勢いをつけて大蛇への飛び道具にしようとした。その誤算として、多くの風に当てられたバクの右手はより大きな豪炎を纏うことになった。


「行くぞ、クソガキ!!」


「やれ! クソハゲ頭ぁあ!」


 風を切る音ともに放たれたバクは一瞬のうちに大蛇の口元まで到達していた。

 

『このあとどうするんですか。お前程度のパンチで倒せる巨体ではないはずです』


『勝手に喋んな。俺の寿命使ってんだろ!』


 ただ、実際は脳内AIの言うとおりだ。

 今の俺に出来ることなんてのは少なくて、この大蛇を倒すことは出来るわけがない。

 それでも、この場から退かせることだったらできる。


 大きく口を開けている大蛇の鼻先を通り過ぎ、空中から見下ろす。

 大蛇は落下してくるところを喰ってしまおうと考えて馬鹿みたいに口を広げた。


 だが、バクはそこに勝機を見出していた。


 落下しながらも左手を大蛇の方へとむけ、無数のポップコーンを生成。

「オラァ。好きなだけ食えや!!」


 草原の時もポップコーンを生成しすぎた果てに魔力が枯渇した。その経験から本当はやりたくない賭けのような戦法。

 それでも、大蛇の口の中にはポップコーンがパンパンに詰め込まれていき、バクが落下する頃には足場になっていた。


「よし。ただ、呑み込まれたら終わりだからな」


 そう呟いたバクは、燃え上がる右手を無数のポップコーンに近づけた。すると、一つのポップコーンが発火して、連なるように大蛇の口内は炎海(えんかい)と化す。


『ポップコーンに油を付与していたのか。アホのくせに考えたな、だが自然発火だとすればお前も燃えるぞ』


「まだまだ、こっからが賭けよ」


 そう言い放ったバクが両手を使って生成したのは自分の二倍ほどの大きさとなるポップコーンの種だった。

 その巨大な種を油でコーティングし、すぐ高熱を加え出す。


 バクは認知していないが、魔力が油ごと覆うような膜も作り出し、熱は留まり温度は最高潮に達する。


 バンッ!!!!


 広場にいた者たちが思わず耳を塞いでしまう爆音と共に、大蛇がのたうちまわる。


「バクーーー!!」


 そんな中、エルの悲しげな叫び声が村中に響いた。

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