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第4話:異世界物語 前編

 ソルト村、中央広場にて。

 村の守り神とも疫病神とも称される大蛇が一人の男によって撤退を余儀なくされていた。


 口から炎を溢れさせながら、自身の巣がある方へと姿を消していった。


 村の人間はこの大蛇が何も出来ずいなくなったことに感激し、その手柄がダンの拳によるものだと信じて疑わなかった。

 まさしく、村の英雄である。


 そんな中、広場の隅にいたエルは膝から崩れ落ちていた。

「バクが、口の中で破裂して、生きてるよね」

 

 消え入るような、願いにも似た言葉だった。

 その時、カルメルが空に視線を向け慌てて叫んだ。


「エル! 水じゃ。水の柱を作れ!」


「えっ」


「あいつが落ちてくるぞ。水で落下の抵抗を下げろ」


 その言葉に反応して見上げた先には、確かにバクの姿があった。

 焼けこげて気も失っているみたいだったが無事でいてくれたことに安堵する。


 エルは大きな水柱を生成しバクはその水に呑み込まれるようにして二人の元まで戻ってきた。


「バク!」

 エルの声で目が覚めたバクはニヤリとした余裕な笑みを浮かべてから立ち上がる。


「超、怖かったぞ。しかも、あの蛇の口の中ときたらめっちゃ臭くてよ。参ったわ」


 エルは無事なバクをどこへも行かせないように強く抱きしめながら涙を流していた。

 

「もう勝手に飛び出さないで」


「いや、それは自分の父親に言えよ」


 バクはそう言いながらもこちらに向かってくるダンの姿を捉えていた。


「お前がなんだというんだ。カルメル様はこのバクという男に何を託そうとなさっている」


 ダンの口からこぼれた素朴な疑問。だが、彼自身がその問いに対する答えをすでに持っていると見抜いてるカルメルが微かに笑みを浮かべる。


「この村が出来てから幾度と現れた大蛇。我々の敵であり、侵入者を許さない守り神とも言える存在。強さ故にそう思われてきた」


 カルメルの言葉に興味を抱きながら二人の若き世代が耳を傾けていた。


「エルは好奇心旺盛に育ち、頻繁に外の世界を探索する。その結果、バクという新しい風を運んできた。ダンよ、変化を恐れるな」


 カルメルは言いたいことを全て言い終わったからか、バクの元へと歩み寄りその傷口に右手をかざした。

 すると、突然発生した淡く柔らかな青い発光玉がバクの傷口に入り込んでいった。


「あれ、痛くない。治ってる?」

 そう呟くバクの様子を見ていたエルが自信満々に胸を張って回答した。


「カル爺はね、治癒のユニークスキル持ちなの!」


「回復師的な?」


「そう! バクが寝てる間にも昨日の傷口を消毒して感染症を防いでくれてたんだから!」


 あ、そういえば感染がどうのこうのと言っていたな。

 ダンにぶっ飛ばされて、起きたと思ったら変な爺さんがいて、コーラが足りないと気がついて、ダンがエルの親だと知って、決闘して、大蛇に邪魔された。


 正直、感染症なんてどうでもいいと思ってしまう。


 バクはカルメルの方にペコリと頭を下げる。

「ありがとう、そんでよろしく頼むよ、カルメル。あのクソデカ蛇やろうを倒してこの村から出てくことにしたからさ」


 そんな発言を聞いていたダンがより一層険しい面持ちで問いかける。


「バク。お前はなぜ大蛇を相手にしようとする。なぜ、カルメル様から教えを乞う。なぜ、娘のエルを助けようとする」


 バクがあっけらかんとした表情で口を開いた。


「最後のエルを助けようとってのはあんまり自覚ないんだけど、決まってることがあるんだとすれば。それは、あんたの娘が俺の命を繋いでくれたからかな」


「どういうことだ」


「俺はさ、好きなもの食って、好きなもの飲んで、自由気ままに生きたいんだよ。ずっとそうしたかった。変なレッテルも自己否定もいらない。でも、この世界で自由に生きるには力が必要だ。理解が必要だ」


 それからバクはにっこりとした笑みを浮かべながらに言った。


「俺は皆でポップコーン摘んで、コーラで乾杯して。歌とかダンスとか漫才なんかの催しを観て笑い合いたいんだ。小さな小さな、俺の夢だ」

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