第4話:異世界物語 中編
夢、と言えるほど壮大で大きなものでもない。
それでも、心の真ん中にある確かなものをバクは疑わなかった。
その瞳に映る光と無邪気なまでの笑顔は、ダンという一人の男に父親としても感情を抱かせていた。
「バク。村の滞在。及びカルメル様との修行を認めよう。まあ、元々俺にはそれを拒む権利なんてものはないんだ」
「あ、うん、あっさり過ぎて怖いは怖いんだけど」
バクが言い淀んでしまうもダンの中では一切の迷いもなくなっており、ただ一言「エルを頼んだ」という言葉を残して去っていった。
「あの堅物ハゲ親父は意味わかんねぇな」
バクが微笑み混じりに呟き、エルも満足げな表情で頷いていた。
それから一週間ほどの休養期間を挟み完全に回復したバクはカルメルに呼び出され広場へとやって来た。
「バク。今日から本格的に鍛え上げていくつもりじゃが、一つだけ確認したい」
「何?」
「お前はこの世界の住人じゃないな?」
『お前がアホなことばかりするから異世界人だってバレたんじゃないか?』
この一週間で完全に自立型となってしまった脳内AIが話し出す。
『黙れ、お前が話すたびに俺の寿命持ってかれてんだろ、もっと大事にしろ』
『上限が来た時だけもらっています。一度死んだのだから大した価値もない命です、自由に使っていきましょう!」
(なんでこいつが前向きなんだよ)
そんな最中でもカルメルはバクの返答をじっと待っていた。
本当のことを言うか、適当にあしらうか。多分、後者を選択したとしてもカルメルは追求してこないだろう。
エルだって、深くは聞いてこない。
思えば、ダンの選択や考えというのは最初から間違ってなんていなかった。
バクは、一度大きく息を吸って吐いてから口を開いた。
「俺はこの世界の人間じゃない。だから、知識に疎いし正直怖さすら抱いてる」
カルメルは「やはりな」と意味ありげな発言をしてから話し始める。
「一度だけ異世界から来たという人にあったことがある。スキルは剣聖王だった。類稀な剣技に加えそこが見えない魔力量。華奢な女性だったからな、魔力を身体強化に全振りして戦場を駆け抜けていた」
「へー。俺以外にもいるんだな」
(剣聖王? 俺がポップコーンなのに)
内心では待遇の差に腹を立てているバク。その様子を見ながらもカルメルが自身の身体全体に行き渡るよう魔力を流し出すと、バクが一歩後ずさった。
嘘だろ。
なんだ、この威圧感は。
すると、いつから見ていたのか。ダンがやって来て説明し出した。
「カルメル様はこの国、アルディア王国の元英兵長だ。私も若き日は同じ隊にいたのだが、想像を絶するしごきに耐えられず逃げていく兵士を数多く見て来た」
その光景が目に浮かぶような威圧をカルメルから感じたバクは、落ち着きを取り戻すようにスッと息を吸う。
ボッと音を立ててバクの身体を覆うような炎が形成された。
カルメルはニッと笑みを浮かべてから「まずはその力が如何程か。来い」と告げる。
「手加減しないからな!」
そう息巻いて走り出すバク。
特に攻撃力もない特攻ではあるが火だるまが迫っていると思えばいくらか怖さもあるのだろうか。
戦闘と言えるかも分からないその戦闘スタイル。勿論、カルメルに通用するわけもなくタックルを避けられては転倒する。
「火の使い方を教えてやろう」
そう呟いたカルメルは人差し指をバクに向ける。
指先に集まっていく青い炎は綺麗な楕円を描いておりバクが作り出す自然発火とは異を介していた。
「火属性魔法。火銃」
(青い)
火には火を。
そんな浅はかな考えから避ける選択をしなかったバクだったのだが、カルメルの放った青い炎はレーザーのような軌道で腹部を突き抜けた。
「グヘッ」
「次はこれでどうだ?」
そう言ってカルメルは両手を天にかざし出す。
「おい嘘だろ」
バクは目の前に広がる大きな炎の球を見て固まった。
『おい、これ何とかできないのか?』
『あれは太陽を極小化したものだと思ってください。止める手があるとするのなら酸素をなくすことくらいでしょうか。つまりはどうにもならないということなので焼けこげて死なないことをお祈りします』
『役立たず』
『私と話してる間にも炎が肥大してますよ』
目の前に広がる炎が村の広場サイズくらいまで大きく膨れ上がり上空に浮かされていく。
その光景や温度の上昇などから村人たちが広場に沢山流れてきた。
一種のプチパニック状態だな。と呑気なことを考えていると「バクッ!」というエルの声が聞こえてきた。
寝巻き状態のままやってきただらしない姿の彼女を見て口元が緩む。
「バク。わしはこれを本当に放つぞ」
十中八九でたらめだろうがこのくらい止められなければこの先も何もないんだと言われている気分になった。
でも、自分の出来ることは未だにポップコーンの生成と火を起こすこと。もっと細くいうのなら火に油を注ぐことしかできない。
やるべきことと反対の能力しか持たない俺に何が出来るというのだろうか。
「水玉」
バクが半ば諦めかけた時、その思考を切り裂くように水玉が横切り、カルメルの炎に衝突する。
だが、水は炎の中心に届くこともなく蒸気となって消えてしまう。
仮に水魔法を使えたとしてもカルメルの炎を消す事なんてできやしない。
エルの放った水が空気に返ったこと、カルメルの炎が辺りの空気を震わせるよう燃え上がったことで強風を巻き起こしていた。




