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第4話:異世界物語 後編

 唖然とした表情で炎を眺めるバクの元にエルが駆け寄った。


「バク。これも修行なんだろうけど、どうするの」


 エルの声が遠くから聞こえているように感じていた。

 けど、やけにはっきりと耳に残っていて。辺りも暴風雨が生まれて騒がしいはずだったのに穏やかにすら感じている。


『なあ、水分ってそこら中にあるよな?』


『はい、あります。たった今そこの少女が放ち消された煙さえも水分です』


 バクは瞳閉じてから心の中で認知することができていた光を感じ始める。

 それは魔力の源で、ここから湧き出るモノを魔力だと人は呼んでいるんだろう。


 スキルもこの魔力を消費している。

 多分、スキルを使えるのに水魔法が使えない決定的な違いは自動化されているかいないかの違いだろう。


 スキルというものは自動で魔力を消費して発動してしまうもので。

 魔法というものは意図して魔力を適したものに変換し具現化させることなのだろう。


「エル。ちょっとだけ力を貸して欲しいんだけど」


「うん? いいけど」

 

 協力の了承を得たバクはエルの肩に手を置いて目を瞑る。

 余計な思考や情報を全て無くし、エルから流れている魔力を捉えてようとしていた。


「そのまま水魔法を頼む」


 エルは訳もわからずに言われるがまま水魔法を使用した。


「「水玉(ウォーターボール)

 その瞬間、一定に流れていた魔力の流れから滞りというか、膨張に似た変化を感じ取った。


 これが魔力を変換するときに生じる現象。


「自分の魔力を水魔法にするってのはまだ無理かもしれないけど。スキルを使って油の膜を作った時と同じ要領で大気の水分を集めて、あの炎の周りに形成する。どうせなら、炎の熱で蒸気になった水分も活用して永久に形成し続けられる仕組みに。それで、水が炎を囲い込めばやがて酸素はなくなり消えるはずだ」


 バクは独り言の呟きながらも両手をカルメルの生成した炎に向けて、実行した。

 最初は何を言っているのか、何をやろうとしているのかすら分からなかったエルも次第に小さくなる炎を目の当たりにして笑みを浮かべ始めた。


「バク、ついに魔法を!!」


「ごめん、まだ君らみたいなことはできない。ただ大気中にある水分集めたら水に変えられた。これであの炎が消えるのも時間の問題だよ」


 カルメルは自分の作り出した炎がしぼめられていく様を見ながらも余裕そうな笑みを浮かべて、左手人差し指をバクに向けた。

 すると、先ほどと同様に青い火の玉が形作られていく。


 だが、今度のバクは放たれる前に水の膜でその青い火を囲い込んで消した。


「やりおる」と嬉しそうなカルメル。


「魔法だって燃えているのなら酸素は使ってるだろう。それが無くなれば燃えなくなって当然」


「正解だ」


 そう言って笑みを浮かべるカルメルは「ふう」っと息を吐いてから力を抜き、バクの元へと歩き出す。


「この先で待っている者たちはこういう戦いを勝ち抜いてきた、あるいは目の当たりにしてきた猛者だ。身体を発火させるだけのスキルなんぞ役には立たん。勝てないということは負けと同義だってことを忘れるな」


「わかったよ。忘れない」


 かつて、結果や自身、理想など多くを失い青年となった男は未知の世界への転移を強いられ大きな成長を遂げようとしていた。

 その歩みはかつての彼らしさそのものである。故に、人生は輝き出す。


 そして、何度かの季節的変化を交えて月日は流れていった。


 たったの一年。

 人が大きく変わるには十分過ぎる時間だったのだろう。


「おっしゃぁぁい! 筋肉バカ共ぉぉぉお!! 俺に続けえぇぇ! パンチはこうだぁ!」


 村の広場から響き渡ったのはバクの声だった。

 村の集落にある自身の部屋で着替えを終えたエルはリビングにいる父に不満をこぼしていた。


「ねえ、なんでバクってあんなに馴染んじゃったんだろうね。なんか堂々としすぎてて気持ち悪い」


 ダンは視線を外しながらも、あっはっはーと下手くそな笑みを浮かべている。


「まあ、あれだ、馴染むことはいいことだな。あいつが認められるってのはお前にとっても嬉しいことだろう」


 そう言われて頬を膨らましながら「そうだけど〜」と声にならない不満がまた一つ募っていった。


 その頃、バクがいるであろう広場では三十名ほどの屈強な男たちがバクの前に並び直立していた。


「バクさん。本当に守り神である大蛇様と戦うのでしょうか」

 一人の男が肥大した筋肉とは相反する情けない表情で尋ねる。


「案ずるな。俺があんな蛇ごときに負けるわけないだろ」

 

 覇気のこもった言葉で話すバクの姿は一年前と比べてみて、筋肉量が増えており、身長も心なしか高くなっているようだ。

 このソルト村での主食はバクが生成したポップコーンになっており、無駄なカロリーを摂取せずに村の日課である筋トレを行なっていたせいで細身であるも力強い筋肉が付いていた。


「流石はカルメル様が認めた、村最強の戦士バクさんだ!!」


 その声とともに歓声が巻き起こり「バーク、バーク、バーク」と単調なリズムで盛り上がり始める。だが、そこに旅の支度を終えたエルが現れ場が凍りつく。


 エルは長く伸びたスカイブルーの髪の毛を人束に結び、凍てつくような視線を男共の向けながら呟いた。


「うるさい。溺死させるよ?』


 さっきまでの活気ある広場が一瞬にして葬儀場と同じ空気になったところでバクがエルの元に駆け寄る。


「エル。準備出来たか」


「うん。もう行けるよ」


 そんな二人の背には、カルメルとダンの姿もあった。


「バクよ、娘を頼む。そして、エル。どうか無事に帰ってきてくれ」

 涙ぐみながら話すダンを見て、一同がこの人も父親なんだなと感銘を受けていた。


「バク、エル。二人にはかなりきつい修行をし、私の全てを叩き込んだ。じゃが、世界は広い。ワシなんて一国の騎士団で名を馳せたのみ。強者はいつでも陰にいること、忘れるでないぞ」


 ダン、カルメル、二人からの言葉をもらったバクとエルは顔を見合わせて口を揃えて返答した。

「「了解!」」


「よーし。っじゃ、村の疫病神ぶっ倒して出発すんぞ!」

 そう息巻くバク。だが、大蛇の方からやってくるという異例の事態が一年ぶりに起こりだす。


 森の方から逃げるよう広場へやってきた村人が怯えた表情で言った。

「ま、守り神様が来ています。このままでは村が」


 バクはニヤリとした笑みを浮かべてから身体に魔力を流す。

 ボンッという小さな爆発音と煙が立ち上がり、バクは一瞬のうちに大蛇の下へと飛んでいた。


 広場は騒然としている。

「おい、バクさんって風系統の移動魔法も使えるのか?」


「いや? 適正は水だって話だろ?」


「いやいや、全身を火に変える火属性魔法を使うらしい」


「情報は多く何が真実か、もしくはどれも真実なのか定かではない。ただ、一貫していることは」


「そうだな。バク(あの人)はめちゃくちゃ強い!!」

 広場にいた人間の声が重なった。


 バクはこの一年間で培った成果を試すようにワクワクした心情のまま、空中で大蛇と目を合わせる。

 そして、右拳を握り込んで炎を宿す。


「一年前の俺じゃあ、炎を纏えるだけだったけどよ。ここで自力つけたから。魔法やスキルについて学んできたから、今の俺だったらどこまでやれんのか、気になるよなぁぁあ!!」


 ボゴォォンッ!!!

 

 耳を塞ぎたくなるような音とキノコ雲を作り出す大爆発。けれど、周囲に熱気や炎自体が散らされることなく、突き出された拳から一点を貫くようにして放たれた炎の柱。


 貫通し焼けこげて倒れた大蛇を見てバクは笑みを浮かべた。


爆裂魔法(ばくれつまほう)煙炎一閃(えんえんいっせん)


 死をきっかけに転移をすることになった男の異世界物語はようやく動き始めたのかもしれない。

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