第5話:いざヴェルティア王国王都へ 前編
ソルト村近隣に生息する大蛇を消し炭に変えたバク。
村の方へ振り返ってしまえば過ごした一年という日々に重さに足を取られてしまいそうで、ただ前だけを見据えて歩き出していた。
「な〜んで泣いてんの?」
微笑みまじりかつ揶揄うように顔を覗き込むエル。
「エルは戻ってくるからいいけど、俺は当分は戻らねぇからな。つーか泣いてねぇわ!」
「ふーん。じゃあ、そのびちゃびちゃに濡れた顔は水魔法なのかな?」
バクは自分の顔を袖で拭ってからニッと笑みを浮かべて口を開く
「カルメルに叩き込まれたからな!」
ソルト村にやってきてからの一年間はバクにとって有意義な時間となっていた。それ以上にもかけがえのない家族のような関係を村人たちと作っていけていた。
前世では一年が長く、時間が経つほどに孤独になっていく毎日だった。
それが当たり前だと思い始めていた。
でも、生きるということは必ずしも孤独になることだけじゃないんだと死んでから知ることになるとは。
一回逃げてみるってのも悪いもんじゃないんだな。
「あ、バク。ここだよ」
「前の草原からこの村に飛んできた時と同じ岩だね」
「うん、ここに私の魔力流せばいつしかの草原に出られるから」
バクが頷くと同時に魔力が注ぎ込まれていき、一瞬のうちに草原にやってきた。
「この感じ慣れないんだよな」
「まあ二回目だしね」とエルが笑いながら返す。
そんな他愛のない会話が流れていく中、二人を囲むように猛獣達が押し寄せたいた。
かつて絶望と死の体験をした状況にも関わらず、二人にはどこか余裕があり王都に向かって歩き始める。
「水魔法:氷の道筋」
エルが魔法を口にした瞬間、見渡す限りの辺り一帯が白の世界へ変貌した。
広大な地にまで影響を及ぼす規模で魔法を扱うという人物は非常に稀で、カルメル曰く、エルという名前は近い将来世界中の誰もが聞き馴染みのある名前になるとのことだ。
「よし、これで歩きやすいね!」
そう言ってバクの方に振り返ると、彼もまた氷結されており固まっていた。
「あっ。またやっちゃった」と軽く笑みを浮かべるエル。
すると、バクの氷がガタガタと揺れ始め、パキパキと音を立てて割れ出した。
「お前またやりやがったな。これ、規格外過ぎて使わないんで欲しいんだけど」
「まあその、私からすると平然とした顔で氷をぶち破ってくるバクが一番規格外」
若干引き気味に言い出したエル。
バクはそんな姿を見てワハハと笑い飛ばしながらも歩みを進めた。
「なあ、エル」
「なに?」
バクが歩き始めてすぐに青い空を眺めながら楽しそうに話しかけるも、言葉に詰まった。
「やっぱ、なんでもない!」と微笑んで誤魔化す。
「なんだよ」とエルも呆れたように笑って誤魔化す。
バクはエルに気づかれないほどの小さなため息を漏らしながらも、何かを決意しているようだった。




