第2話:終末の村 後編
見渡す限り更地。
武器になり得るものがあるはずもなく、見えているだけで十三人か。
バクは警戒を強めながらも身に纏った熱をさらに高温へと押し上げていく。
「気ぃつけろ。スキル持ちか、火魔法の使い手だ」
一番最初に襲いかかった男が森林中に響き渡るような、或いは木々を揺らすような声で叫んだ。
一歩、また一歩と、すり足でジリジリ距離を詰められている状況に緊張が走る。
その時、バクの背後にある木陰から一本の弓矢が放たれた。
見事な不意打ちではあったものの全身から発せられるその熱が弓矢を無に返す。
「はあ、はあ」
バクの体力だけが削られる均衡状態。
まるでバクの高熱状態が長くは持たないと確信を持っているかのような立ち回り。
(このままじゃダメだ)
バクは最初に襲いかかってきた男の寂しげな頭頂部を指さして嘲笑したように話し出す。
「草木は育つのに、テメェの頭は寂しいな。太陽光で燃えちまったのか?」
これまでの人生で他者を煽るなんて事をした経験もなく、こんなので乗っかってくれはしないだろうと重追いつつも叫んでいた。
すると、男の寂しい頭頂部に芋虫同等サイズの血管が浮き出たのが目視で分かった。
「上等だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
(マジか。単細胞で助かった)
見かけ通りのスピードで距離を縮めた男は、バク目がけて拳を振り下ろした。
(焼け焦げろ)
その瞬間、バクが広場から消えるような勢いで吹っ飛んだ。
何本もの木を背に打ち付けられながらも、勢いが止まった時、その瞳から光は失われていた。
「なんだよ。超強いじゃん」
そのまま意識を失ったバクを男達が囲み、息の根を絶とうと槍を突き立てる。
「待て。その子は殺してはならん」
気配もなくどこからか現れた小さなお爺さん。
男たちはこのお爺さんを前にして、尊敬と恐れの交わった複雑な感情のまま撤退していった。
ーー村の広場から少し離れた集落
バクが再び目を覚ました時、一番最初に視界に入ってきたのは心配そうな表情を浮かべるエルの姿だった。
すぐに起き上がり、臨戦体制に入る。
「バク、ごめん。違うの。話聞いて」
「黙れ。なんで俺をここに連れてきた。なんで騙した」
「騙したんじゃなくて、皆は私が攫われたって勘違いしたみたいで。危ないからって広場から連れ出されちゃって庇うことも出来なかった」
エルが悪いやつでないということは分かっている。でも、対峙した男が俺見て『メシ』だと言っていた。
その少ない情報からでもこの村が食糧難を抱えているということは明白だった。
「食い物がないんだろ。だからって、人でも平気で喰おうとするお前らなんか信じられるか」
「バク……」
自分の本心を伝えても警戒を解いてはくれない、それどころか敵視されてしまう。
この状況にエルが戸惑い傷ついていると、バコーンッと伸びのある音が響いた。
「いっってぇ!」
叫び頭を抑えたのはバクだった。
「エルを困らせるでない、ヒョロガキが」
振り返った先には広場での争いを鎮めたお爺さんがおり、その手にはおたまが握られていた。
「クソ。俺はスープに入れられるわけか。やれるもんならやってみ……」
バコーンッ!
「お前なんか喰う部位すらないわ。エルが命の恩人と言うたからこうしてワシが匿ってるんだ」
バクは流れ落ちる鼻血を拭きながら尋ねる。
「やっぱり、余所者はいちゃいけない村なんだな」
その質問にお爺さんが小さく頷き答える。
「知っての通り食料がないんだ。客など喜ばれるわけもなかろう」
「そうか。じゃあ、俺はここから消えるよ」
さっきの奴みたいなのが棲みつく村なのだとしたら正面からぶつかっても殺されるのが関の山だ。
それなら単体の獣を相手にした方がまだマシだ。
「まあ待て。エルが言っていたことが本当なら、お前さん何やら食料を出せるらしいな。確か……」
「ピックターン!!」
自信満々で会話に入り込んできたエル。
「いや、ポップコーンね」
バクが訂正するとエルは頬を赤めながらも部屋の隅っこで小さく座った。
「爺さん。俺は確かにポップコーンは出せるが、果たしてこれは腹を満たせるのか? どう言う原理でどこから出来てるのかも分からない」
バクは手のひらを上に向けてるとポンポンと音をならせてポップコーンを生成した。
お爺さんは興味深そうに目を大きく見開いた。
「これは凄い。なんとも珍しく万能なスキル」
「は? 例えこのポップコーンで腹が満たされたとしてもそれしか出来ないスキルだ。万能なもんか」
「そうか、気づいてはおらんのか」と言いながらお爺さんはバクの生成したポップコーンを口に運んだ。
「んまっ!」
バクも自身で生成したポップコーンを口に運ぶ。だが、お爺さんとは真逆に物足りなさが表情に浮き出ていた。
(味がしねえ)
「私も食べていい?」
「あーうん。どうぞ」
「ん〜うんま!」
「そうか? 味なくね?」
バクがそう言うとお爺さんが何やら怪しげな瓶を持ってきては、ポップコーンに振りかける。
振りかけた一瞬では、粉末状の何かを塗したという事くらいしか分からなかった。
「これでさらにうまくなったはずだ」
言われるままに再びポップコーンを口に運ぶ。
「あ、塩か」
「食料はないが塩が尽きたことがない村。お前のスキルと相性バッチリだな」
ワハハという大きな笑声に見合わない小さな家。
食糧難に苛まれた貧しい村。
生きる時間を与えてくれた少女。
そして、死の間際に欲したもの。
ユニークスキル、ポップコーン。
全てが必然かのように連なり、運命はバクをヴェルティア王国最果ての地。
ソルト村へと導いた。
満足気なエルとお爺さん。二人に反して、バクは依然として納得のいかない表情を浮かべていた。
「何かが足りない」




